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猫と月の夜想曲~猫に転生した異世界転生者は脇役です~  作者: 高月 すい
第三章 アールストーン校外学習
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42.校外学習二日目【本当の狙い】


『今回はソイツの能力じゃなくて、カイルを狙った輩の犯行にしておくってのはどうだ?  

 カイルが「状況に関して理解不能」とすれば、狙った方の魔法だと思うんじゃねーの? 

 仕掛けた奴らは「自分たちじゃない」とわかっているだろうが、言うと犯行がばれるから、口出しできないだろ。

 そうすればカイルの伴魂が騒がれるのも抑えられるんじゃないか?』


「その案、もらってもいいか?」


 カイルの伴魂の能力は口外しないことにして、フィーナの伴魂の提案を採用する運びとなった。


 一つの目途がついたところで、白い伴魂はため息を落とした。


 目的地であるオリビアの常駐所までは、あと少しと言うところまで来ている。


『それにしても、王位継承権争いねぇ……。

 大変だな。

 王族も』


 ぽつりとつぶやいたフィーナの伴魂の言葉に、カイルが怪訝な表情を見せた。


「継承権争い?」


『第一王位継承権持ってる第一王子推進派が、後々邪魔になるかもしれない第二王位継承権者の第二王子を、今のうちに廃そうとしたってとこだろ? 

 よほどのことがない限り、継承権が脅かされるなんてないだろうに、何焦ってんだか――』


 ふと、フィーナの伴魂はそこで言葉を止めた。


 並んで歩いていたカイルが、足を止めた為だ。


 足を止めたカイルは、顔を強張らせて目を見張っている。


『どうした?』


 振り向いて首を傾げる白い伴魂に、カイルは開いて動かした口を数度、空振かせて、何か言おうとしたが、声が出てこない。


 言いたいことが、うまく口から出てこない。


「――それは……何の話だ」


『何って、王族間の争い――』


 白い伴魂もカイルの言葉に眉をひそめる。


 カイルは白い伴魂の話に、頭をかぶり振った。


「俺が聞いていたのは、兄上を推している者たちが、何か仕掛けてくるかもしれないとだけだ。

 兄上が状況を勘付いていたとしても、表だって止めはしないだろう、と。

 ……元々兄上は、俺の伴魂は弱い、戦力にならないと嫌っていた」


『弱いからって――弟を殺そうとするのを容認するか?』


 唖然とする白い伴魂に、カイルは緩く頷いた。


「兄上なら、そうしてもおかしくない。

 兄だから――血族者だから余計、弱い弟が腹立たしいのだろう。

 兄上は強い者が権力者と考えている節がある。

 それでどうにかなったのなら、力のなかった俺が弱いから仕方ないと思うだけだ。

 兄上の取り巻きたちも、思考に倣う動きがある。

 俺に終始、護衛騎士がついているのは、そうした理由もある。

 ――さすがに宮廷内を血で汚す行為はしなかったが……」


 今回の校外学習も、オリビアはカイルに手厚い警護をつけていた。


 王族だからと思っていた護衛には、そうした事情があったと、フィーナも白い伴魂も初めて知った。


「だが……王位継承権?

 それに絡む策謀の話があったのか?」


『フィーナがセクルトで学んでいる間、俺は気ままに宮廷内を散策している。

 宮廷にいるやつらも、周囲に人がいれば警戒するが、内輪の人間だけだったら、妖しい話も気兼ねなく話すだろう?

 そうした中で耳にした。

 話してたのが誰かも、具体的な人の名前が出たわけじゃないから、はっきりと内容まではわからなかったが――』


 ――…………第一王子……すれば…………継承権……安泰……


 きな臭いと思った内容を、聞いたままを口にした白い伴魂の言葉に、カイルは絶望的な表情を浮かべた。


 打ちのめされた、悲痛の表情を浮かべながら、無意識のうちに緩く頭を横に振っている。


「第一王位継承者は、姉上だ」


『何?』


 カイルの言葉に、白い伴魂に緊張が走る。


『男児の長子は第一王子だろう?』


「そうだが、第一王位継承者は姉上なんだ」


『どういう――』


「王族の王位継承者順は、王妃で決まる。

 子の男女はこだわらない。

 現国王の第一王妃――現正妃は、姉上の母上だ。

 第一王子の母は第二王妃、俺の母は第三王妃。

 王位継承順で言えば、姉上が第一王位継承者、兄上が第二王位継承者、俺が第三王位継承者だ」


『――――っ! クソっ!』


 カイルの話から、白い伴魂が現状を即座に理解した。


 フィーナを誘い出し、セクルト貴院生を混乱させた状況で、カイルや生徒の警護を厚くさせ、オリビアの警護を手薄にさせる――。


 カイルを狙ったのは、偶然、フィーナの元へ単独行動したためだ。


 第一王子推進派からすれば、カイルも目障りな存在に変わりない。


 これ幸いと手を出したので、白い伴魂もカイルも「標的は第二王子」と勘違いした――。


 白い伴魂は駆けだした。


「え!?」


 驚くフィーナ。


 追いかけようにも、打撃を受けた箇所が痛むため、歩くので精いっぱいだ。


『無理せず後から来いっ! 

 先に行ってる! 

 ――いや、お前たちは休憩所に戻れ! 

 カイル! 坊主! 

 フィーナを頼む!』


「さ――先にって――行っても何もできないでしょ!?」


 伴魂は単独では魔法を使えない。


 伴魂は魔力の媒介者であり、実施者ではなかった。


『フィーナとカイルが無事と伝えられる!』


 それがどれほどの効果があるか。


 自分に何ができるのか。


 白い伴魂にもわからなかったが、何もせずには――現場に急行せずにはいられなかった。




 


はっきり明言していなかった王位継承権順位。

転生者であるフィーナの伴魂は、異世界での知識で、この国の継承順位も同じだろうと思い込んでいた――。との話になってます。

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