42.校外学習二日目【本当の狙い】
『今回はソイツの能力じゃなくて、カイルを狙った輩の犯行にしておくってのはどうだ?
カイルが「状況に関して理解不能」とすれば、狙った方の魔法だと思うんじゃねーの?
仕掛けた奴らは「自分たちじゃない」とわかっているだろうが、言うと犯行がばれるから、口出しできないだろ。
そうすればカイルの伴魂が騒がれるのも抑えられるんじゃないか?』
「その案、もらってもいいか?」
カイルの伴魂の能力は口外しないことにして、フィーナの伴魂の提案を採用する運びとなった。
一つの目途がついたところで、白い伴魂はため息を落とした。
目的地であるオリビアの常駐所までは、あと少しと言うところまで来ている。
『それにしても、王位継承権争いねぇ……。
大変だな。
王族も』
ぽつりとつぶやいたフィーナの伴魂の言葉に、カイルが怪訝な表情を見せた。
「継承権争い?」
『第一王位継承権持ってる第一王子推進派が、後々邪魔になるかもしれない第二王位継承権者の第二王子を、今のうちに廃そうとしたってとこだろ?
よほどのことがない限り、継承権が脅かされるなんてないだろうに、何焦ってんだか――』
ふと、フィーナの伴魂はそこで言葉を止めた。
並んで歩いていたカイルが、足を止めた為だ。
足を止めたカイルは、顔を強張らせて目を見張っている。
『どうした?』
振り向いて首を傾げる白い伴魂に、カイルは開いて動かした口を数度、空振かせて、何か言おうとしたが、声が出てこない。
言いたいことが、うまく口から出てこない。
「――それは……何の話だ」
『何って、王族間の争い――』
白い伴魂もカイルの言葉に眉をひそめる。
カイルは白い伴魂の話に、頭をかぶり振った。
「俺が聞いていたのは、兄上を推している者たちが、何か仕掛けてくるかもしれないとだけだ。
兄上が状況を勘付いていたとしても、表だって止めはしないだろう、と。
……元々兄上は、俺の伴魂は弱い、戦力にならないと嫌っていた」
『弱いからって――弟を殺そうとするのを容認するか?』
唖然とする白い伴魂に、カイルは緩く頷いた。
「兄上なら、そうしてもおかしくない。
兄だから――血族者だから余計、弱い弟が腹立たしいのだろう。
兄上は強い者が権力者と考えている節がある。
それでどうにかなったのなら、力のなかった俺が弱いから仕方ないと思うだけだ。
兄上の取り巻きたちも、思考に倣う動きがある。
俺に終始、護衛騎士がついているのは、そうした理由もある。
――さすがに宮廷内を血で汚す行為はしなかったが……」
今回の校外学習も、オリビアはカイルに手厚い警護をつけていた。
王族だからと思っていた護衛には、そうした事情があったと、フィーナも白い伴魂も初めて知った。
「だが……王位継承権?
それに絡む策謀の話があったのか?」
『フィーナがセクルトで学んでいる間、俺は気ままに宮廷内を散策している。
宮廷にいるやつらも、周囲に人がいれば警戒するが、内輪の人間だけだったら、妖しい話も気兼ねなく話すだろう?
そうした中で耳にした。
話してたのが誰かも、具体的な人の名前が出たわけじゃないから、はっきりと内容まではわからなかったが――』
――…………第一王子……すれば…………継承権……安泰……
きな臭いと思った内容を、聞いたままを口にした白い伴魂の言葉に、カイルは絶望的な表情を浮かべた。
打ちのめされた、悲痛の表情を浮かべながら、無意識のうちに緩く頭を横に振っている。
「第一王位継承者は、姉上だ」
『何?』
カイルの言葉に、白い伴魂に緊張が走る。
『男児の長子は第一王子だろう?』
「そうだが、第一王位継承者は姉上なんだ」
『どういう――』
「王族の王位継承者順は、王妃で決まる。
子の男女はこだわらない。
現国王の第一王妃――現正妃は、姉上の母上だ。
第一王子の母は第二王妃、俺の母は第三王妃。
王位継承順で言えば、姉上が第一王位継承者、兄上が第二王位継承者、俺が第三王位継承者だ」
『――――っ! クソっ!』
カイルの話から、白い伴魂が現状を即座に理解した。
フィーナを誘い出し、セクルト貴院生を混乱させた状況で、カイルや生徒の警護を厚くさせ、オリビアの警護を手薄にさせる――。
カイルを狙ったのは、偶然、フィーナの元へ単独行動したためだ。
第一王子推進派からすれば、カイルも目障りな存在に変わりない。
これ幸いと手を出したので、白い伴魂もカイルも「標的は第二王子」と勘違いした――。
白い伴魂は駆けだした。
「え!?」
驚くフィーナ。
追いかけようにも、打撃を受けた箇所が痛むため、歩くので精いっぱいだ。
『無理せず後から来いっ!
先に行ってる!
――いや、お前たちは休憩所に戻れ!
カイル! 坊主!
フィーナを頼む!』
「さ――先にって――行っても何もできないでしょ!?」
伴魂は単独では魔法を使えない。
伴魂は魔力の媒介者であり、実施者ではなかった。
『フィーナとカイルが無事と伝えられる!』
それがどれほどの効果があるか。
自分に何ができるのか。
白い伴魂にもわからなかったが、何もせずには――現場に急行せずにはいられなかった。
はっきり明言していなかった王位継承権順位。
転生者であるフィーナの伴魂は、異世界での知識で、この国の継承順位も同じだろうと思い込んでいた――。との話になってます。