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猫と月の夜想曲~猫に転生した異世界転生者は脇役です~  作者: 高月 すい
第一章 魂の伴侶
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11.買物の護衛


 二日間の休息日の翌日、世間が各々の仕事をこなす日々の初日に、アルフィードは宮廷と街を区切る門の前で馬車を待っていた。


 フィーナの伴魂対策となる物を購入に向かうのだが、アルフィード自身、貴族街で買い物をするのは初めてなので、我知らず心臓が高鳴ってしまう。


 なぜか周囲から「物応じしない」性格だと思われているが、本当はそうではない。


 予定外の事象にすぐに対応できなくて、しばし硬直して、その間に想定できうる限りをシュミレーションして、その上で最善だと思われる行動をとっているだけなのだ。


 ……その判断が限りなく短時間で行われるので、第三者目線から見るとそつなくこなしているように見えてしまうのだと、本人は気付いていない。


 妹のフィーナは幼いころから姉を側で見ているので、他人が気付かない、無表情の中に隠れた感情の機微を経験で察している。


「お姉ちゃんって、結構ドジでかわいいんだよ」


 と、友人に話しても、同意を得られないのをはがゆく思っていた。


 逆にオリビアはアルフィードのそうした一面に気付いていたが


「他の人は知らなくていい。私が理解していればいいのだから」


 と敢えて放置していた。

 

 そうした状況から、アルフィードは「11の年巡りにしてはしっかりした子」との周囲の評価を得ていた。


 アルフィードの宮仕えは、主にオリビアの側仕えだ。


 オリビアがアルフィードを「お気に入り」と公言して憚らず、後々、オリビアを補佐することを見越した仕事を与えられていた。


 住まいも宮仕えの一角に準備され、食事も宮仕えの者達と共にする、必要な身の回りの物は支給されるか、オリビアが発注する折についでに頼んだりするので、街で買い物する機会がないまま、一つの年巡りが来ようとしていた。


 宮仕えした当初、自分には貴族街は関係ない場所だと思っていた。


 衣服も支給された皆と統制されたものを纏うし、仕事で使う物は全て用意されている。


 ……確かに、そうなのだが。


 そうした中でも、宮中での人との関わりから、ちょっとした物へのこだわり、街であったことなど「無関係」ではいられないのではと考えるようになっていた。


 考えは、宮仕えを始めた最初のころから持っていた。


 ……ただ。


 貴族街から遠く離れた、村出身の自分が足を踏み入れることが、どうしても敷居が高く感じられた。


 オリビアから聞いている、アルフィードに支給されている給金でたいていの物は賄えるだろう。


 けれど……どうしても、貴族街に自分は場違いなのではないかとの意識がぬぐえずにいた。


 そうした思いがあったが、オリビアの同行は絶対に避けるべきだった。


 同行などダメだと言い張ったアルフィードに、オリビアは首を傾げて「でもアルだけじゃ買い物できないでしょう?」と弱みを突いてくる。


 答えに窮したアルフィードだったが同時に気付いたことがあった。


「――オリビアだったら、教えられるの?」


「そ――、それはっ!

 セ、セスが教えてくれるもの!」


 激しい動揺から、オリビアも貴族街での買物の経験があるのだと窺い知れた。


 ……お忍びで、だろうが。


 公にできないので、焦った返答となったのだろう。


 ちなみにセスとは、オリビアの家の執事で、その時、側にいなかった者である。


 数十年来、オリビアの家の執事を務めている初老の男性だ。


 その場に居合わせていたら「そうですねぇ」と表面上オリビアに同意しつつ、実際は「そんな事実ない」と暗に含んだ物言いをするだろう、使用人だった。


 正直、オリビアの同行には惑わされた。


 気心の置ける人が側にいると、それだけで心強いのだから。


 ……けれど。


 オリビアの立場を考えると、許されることではない。


 ましてアルフィードの身内の件で成してしまうなどあってはならないことだった。


 そうしたアルフィードの頑なな拒否を、オリビアが渋々了承した。


「だけど。

 うちのを誰か同行させるからね」


 オリビアはビシ、と、その一点だけは譲ることはなかった。


 オリビアの言う「うちの」とは、彼女が所属する騎士団のことである。


 オリビアは騎士団に所属して、小さいながらも一つの班を任されていた。班の構成人は総勢六名。


 小班が数班集まって中班となり、中班がいくつか集まって騎士団の構成となっている。


 オリビアが小さいとはいえ、班を任されたのは権力と立場の面からである。……つまり、実力ではない。


「それは後からどうにでもする」


「実績なんて、後から付ければいいのよね?」


 と黒い笑いを漏らしてオリビアは公言しているので……まあ、どうにかしてしまうのだろう。


 騎士団の内情まではアルフィードにもわかりかねるので、オリビアに任せるだけだ。


 そうしたオリビアから任された騎士は「新採用」と思しき人だった。


「ディルク・ベルーニアであります! アルフィード様の護衛として、同行させていただきます!」


 御者として馬車を伴い、門に訪れた若人は、御者の席から降りると、アルフィードを前に直立不動の姿勢を正した姿で、声高らかにのたまったのであった。

 



なぜ。

なぜ長くなる……。

本当は一話で買い付ける予定でした。

買物編、数話に渡ります……。

意味はあるのです……。

世界観を出すためでもあるし……。

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