41.校外学習二日目【カイルの伴魂の能力】
「痛っ!」
最後の一つねりにカイルが声を上げる。
「エルド家流のお仕置き。
お姉ちゃんにもそうやって怒られてたんだよね~」
フィーナは笑いながら告げる。
最後の方は、カイルをからかう素振りが覗いた。
カイルも気付いていたが、ため息をつくに留めて、気付かないふりをした。
そうした二人の様子を見ていた白い伴魂が、自分の主に非難がましい視線を向ける。
『お前……人には「言葉づかい気をつけろ」とか言っときながら、自分の方が王族の扱い、雑すぎだろ』
「そう?」
フィーナの痛みも収まってきたので、再び歩き始めていた。
白い伴魂、フィーナ、カイルと道を横に並んで歩調を合わせている。
カイルは自身の伴魂を腕に抱えていた。
肩にとめてもいいのだが、長時間歩く分には疲れてしまう。
『殿下もびしっと言った方がいいぞ~。
こいつ、すぐ調子に乗るから――』
フィーナとカイル、二人が道の中央に並んでいて、白い伴魂は添え物程度に側にいる状態だ。
カイルに話を振った白い伴魂が、話の流れでカイルを見上げた時。
何かに気付いたように言葉を止め、探るように、しげしげとカイルを眺める。
カイルも視線に気づいて「どうかしたか?」と尋ねた。
『体、何ともないのか?』
「体?」
『ひどく疲れたりとか――』
「特には……」
怪訝な面持で答えるカイルに、白い伴魂は舌を巻いた。
『さすが王族。魔力の量、半端ねーのな』
白い伴魂の言葉に、カイルの伴魂が鳥の鳴き声で「ピーピー♪」と、嬉しそうに鳴いて羽をばたつかせる。
「暴れるな。大人しくしてろ」
諌めるカイルだったが、自身の伴魂の声は意識下に届いていた。
(――そうそう♪
カイル、すごいんだよ、すごいんだよ。
初めてなのに、全然疲れてないんだもん)
主が褒められたことに、嬉しげだ。
そうしたやり取りから――カイルは何となくだが、感じるところはあった。
「どういうこと?」
不思議に思ったフィーナが首を傾げる。
白い伴魂が、少々考えてから答えた。
『ソイツの特異能力、転移なんだよ』
白い伴魂が言う『ソイツ』の視線の先には、カイルの伴魂がいる。
フィーナの伴魂が言うには、魔力の強い伴魂の中には、特異能力を持つものもいるらしい。
そうした伴魂の能力は特別なもので、強力なものもあるという。
ただ――そうした能力を使う分には多大な魔力が必要で、主の魔力負担も大きいらしい。
フィーナが初めて魔法を使った時のように卒倒してもおかしくないし、命の危険もあるはずなのだが、カイルを見る限り、本人はケロリとしている。
白い伴魂の話を聞いて、カイルも驚いていた。
そのような気はしていた。後で人目がないところで、自身の伴魂に尋ねようと思っていた。
「なぜ知っているんだ?」
『本人から聞いたからな。伴魂は伴魂で付き合いがあるんだよ』
「そうなの?
――あ。だからしょっちゅうムダンガイハクしてるんだ」
『お前……意味わかって言ってんのか?』
「え?
夜帰って来なくって朝になって戻ってくるの、そう言うんだって聞いたよ?」
『間違いじゃないが……微妙に意味が違ってるんだよな……』
「じゃあ、こっちがあってる? ホウトウモノ」
『どっちもどっちだ。
違うし』
憮然とする白い伴魂。
機嫌を損ねるのはよくあるので、フィーナは放置した。
「でもすごいね。
転移? っていうの?
だからこうして来れたんだ」
「すごいすごい」とフィーナは目を輝かせるが、カイル本人は、困惑しているようで、浮かない表情をしている。
「自分でも、何が何だかわからないから、実感がない。
――フィーナが日ごろ「目立ちたくない」と言っていたこと、今なら何となくだがわかる。
自分でもよくわかっていないことで周囲が騒ぐと、どうしていいかわからない。
転移の件は、他に話さないでくれないか?」
「いいけど……転移する前は側には誰もいなかったの?
側に居たんなら、私が黙ってても話、広がるんじゃない?」
フィーナの懸念は、カイルも想定していた。
完全には無理だろうが、緘口令を敷くつもりではある。
……いずれは多数の者に知られることとなるだろうが。
『だから考えなしに能力使うなって言ったんだよ』
ぎろりと厳しい眼差しで、白い伴魂はカイルの伴魂に目を向けた。
「ピィ~~~~…………」
その点は反省しているのだろう。カイルの伴魂は肩をすぼめて、しゅん、と頭を垂れていた。




