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猫と月の夜想曲~猫に転生した異世界転生者は脇役です~  作者: 高月 すい
第三章 アールストーン校外学習
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40.校外学習二日目【カイルの想い、フィーナの想い】


「『なっ……!』」


 カイル当人と白い伴魂が目を白黒させる。


「何をするっ!」


 叫ぶカイルにかまわず、フィーナはつまむ両頬から手を離さなかった。


「バカなこと言うからよ」


「バ、バカなこと!?」


 両頬をつまんでいても、添える程度の軽いものなので、カイルも会話が可能だ。


 思いのほか近距離にいるフィーナに「顔が近いっ!」と焦って告げるが、フィーナは手を離さなかった。


「庇うなとか、無理なこと言うんだもん」


「無理かどうかの話じゃない、自分の身が危なかっただろ!? 

 現に今も体が痛んでるだろ!」


「そうだけど。それとこれとは話が別」


「何が別なんだ!」


「考える前に体が動いてたんだもの。庇うななんて無理」


「――っ! それで――っ! 

 こっちは息が止まる思いをしたんだっ!

 俺の為に――俺のせいで傷つく姿など見たくない!」


 悲痛に顔をゆがめるカイルの言葉に、フィーナもようやくカイルの心情を理解した。


 理解はしたが。


「心配させてごめんね。でも、約束はできない」


 小首を傾けて、フィーナはへらりと笑う。


 カイルは悲痛の色を濃くした。


「フィーナ……」


「カイルが王族だから庇ったんじゃないよ?

 カイルが「王族だから庇うな」って言うから「王族とか関係ないのに!」って、腹がたったんだけどね。

 カイルが王族でも王族でなくても――カイルだったから、庇ってた。

 私だって目の前で人が傷つくの、見たくないもの。考える前に体が動いちゃう。

 だから――約束はできない。守れる自信ないもの。

 それでも庇われたくないと思うのなら――そうだ!」


 考えを巡らせて、いい事を思いついた! と顔を輝かせるフィーナは、勢いでカイルの両頬に力を入れてつまんでしまった。


「いたっ、痛い!」


 離せと告げるカイルだが、フィーナの手を振り払うことに――他人に触れることに戸惑い、行動に移せずにいる。


 そんなカイルの心情に構わず「いいこと思いついた!」とフィーナは嬉々としている。


「庇われるの嫌だったら、庇う私を庇えばいいじゃない!」


「――――――。

 ――――――。

 ――――――。

 ――――――なに?」


 フィーナの提案に、その場の時が止まった。


 言っている意味が、わからない。


 わからないまま、フィーナの言った状況を想像してみる。


 今回のニックの件に当てはめるとだ。


 カイルが斬られそうになる → フィーナが前に出てカイルを庇う → そのフィーナをさらにカイルが前に出てフィーナを庇う……。


『……どんな茶番だよ……』


「…………あれ?」


 げんなりと指摘を入れる白い伴魂に、自分で言ったことを想像しながら、フィーナは首を傾げた。


 冗談ではなく、本気で思っていたらしい。


 カイルは真面目に想像した状況が、白い伴魂の一言で実質無理であること、『茶番』の一言で、一瞬で道化じみた様相に転じてしまい、思わず吹き出してしまった。


「カイルまで笑う?」


 自分の考えに自信を持っていたフィーナが「いい案だと思ったんだけど」と口を尖らせた。


 笑いのツボに入ったカイルはひとしきり笑ったあと「そうだな」とつぶやいた。


 自分を庇うフィーナを、さらに庇うのは無理でも。


 自分の頬をつねるフィーナの両手に自身の両手を添えると、カイルは口を開いた。


「人に庇われなくともいいよう、鍛練すればいいんだ」


 そう考えると、落ち込んでいた気持ちが、自然と晴れやかになる。


 フィーナとの実力の差を見せつけられたが、追い付けないと決まったわけではない。


 越えられないと決まったわけではない。


 今すぐには無理でも、いずれは――いつかは。


 悲痛の面持ちから一転、不敵な笑みを浮かべ、挑むように見つめるカイルの瞳に、フィーナは一瞬、見入ってしまった。


 そうした後、カイルらしいなと、つられて笑みがこぼれる。


「そうこなくっちゃ」


 カイルの言葉に自分への挑戦も含まれていると感じたフィーナは、にっと笑うと、つねっていた頬に力を込めて「うにっ」と横に引っ張った後、カイルの頬を解放した。




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