39.校外学習二日目【襲撃者の狙い】
「結局――目的は何だったんだ?」
オリビアの元、駐屯地へ向かいながら、カイルが問いかける。
フィーナも気になっていたのだが、ニックがカイルに対して剣を向けた状況を思い出すと、口にできなかった。
『俺を強奪しようと見せかけて、王子を狙ってたっぽいな』
さらりと告げる自身の伴魂に、フィーナはハラハラした。
自分が標的となっていると知らされるのは、気持ちのいいものではない。
フィーナは気を使って口にしないようにしていたのに、白い伴魂はぺろりと話してしまう。
『最近、きな臭い話もチラホラ出てたからな。
――だろ?』
「なぜ――……。
……いや、聞くだけ無粋か」
カイルは軽く目を見張りつつ、途中、諦めたように吐息をついた。
「ごくわずかだ。
噂の域を出ないと思っていたんだが」
『その噂が当人の耳に届くって時点でアウトだろ』
「『アウト』?」
『ダメだってこと』
「……そうだな」
「――ちょっと――」
カイルと白い伴魂の話の途中、フィーナが声をひそめて自身の伴魂に話しかけた。
「もうちょっと言葉づかい、どうにかできない?
カイル、王子なんだよ?」
『お前だって普通に話してるだろ』
「私はセクルト貴院生だもん。
カイルと同学年だし、カイルも認めてるし」
(――認めたか?)
妙な間合いで口ごもるサリアには許した覚えはあるが、フィーナは苛立ちを噴火させてから、なし崩しだったように思う。
結果として、嫌な思いもなかったし、気が楽だったので放置しているが。
『俺だって人間じゃねーもん。
人間の礼儀作法なんて関係ねーし』
「………………。
…………あれ?」
言われればそうだ。
伴魂に人間の王族への礼儀作法を求めるなど、聞いたことはない。
フィーナは伴魂を抱えて歩いている。
時折、ニックに受けた打撃箇所が痛むらしく、小さな声を上げて顔をしかめていた。
白い伴魂が、フィーナに負担をかけないようにと自分で歩くことにする。
腰をおろして休んでいたフィーナの様子を伺った後、カイルは口を開いた。
「もう、あんな真似はするな」
「あんな真似……?」
痛みはあるが、しばらくじっとしていると収まってくる。
そうして休み休み歩いていた時に、カイルが告げた。
フィーナは痛みで顔をしかめつつ首を傾げた。
「王族だからと庇わなくていい」
言いつつ、カイルはその時の情景を思い出して、口を固く引き結んだ。
振り降ろされるニックの剣、その軌道上に自分を庇って躍り出たフィーナ。
崩れ落ちる姿――。
今、思い出しても、すっと足元が冷える恐ろしさを感じる。
フィーナはカイルの言葉に眉を寄せていた。
何か言おうかと考えていたが、結局、上手い言葉が出て来ない。
結果――。
「――カイル……」
呼ばれたカイルが顔を寄せたところを、彼の両頬を、両手でつまんだのだった。




