38.校外学習二日目【人語を介する伴魂】
白い伴魂がカイルの伴魂にとび蹴りを見舞った情景を目の当たりにしたフィーナは、声ない悲鳴を上げ、カイルはただただ驚きに声を失っていた。
(――ぴぇっ!?)
カイルの伴魂はとび蹴りをくらって、ころりと後方に転がり、一回転する。
そうしたカイルの伴魂に構わず、白い伴魂は叫び続けた。
『考えなしに使うなって言ってただろ!?
ナニ勝手に使ってんだよっ!』
(――な……何で何で!? 何で怒るの!?)
『何で怒られるのかもわかんねーのか!?』
(――だ、だって、ボク、カイルの望みを叶えてあげただけだよ?)
『だっからっ!
どうしてもって時以外、使うなって言ってただろうがっ!』
(――どうしてもって時だったよ?
カイルはその子の側に行きたいのに、誰も連れて行ってくれなかった。
一緒に捜すこともしてあげなかった。
ここから動くなって止めてた。
でもボクは側に連れて行くことができた。
……初めてだったんだよ?
……やっと……カイルの望みを叶えて上げることができたんだって嬉しかったんだけど……ボクがしたこと、間違ってたの?)
フィーナの伴魂の話は人の耳でも聞き取れる。
カイルの伴魂の話は、カイルには意識下の話で、白い伴魂も理解できるようだ。
カイルは自身の伴魂とフィーナの伴魂のやりとりを、呆気にとられて見ていた。
二伴魂のやり取りの中、フィーナだけが自身の伴魂の話しか聞こえず「え? え?? え???」と話の成り行きについていけず、取り残されている。
フィーナの伴魂に叱られたカイルの伴魂は、しゅんと項垂れて気落ちしている。
フィーナの伴魂も、カイルの伴魂の気落ち具合を目の当たりにして、それ以上、強く戒めることはできなかった。
浅はかな考えだったが、悪気はなかったのだ。
話が途切れたのを感じたフィーナが「何がどうなってるの?」と首をかしげる。
状況を理解しているカイルが事情を説明すると同時に、フィーナに尋ねた。
「フィーナの伴魂は人の言葉が話せるのか?」
「――…………えぇ~っとぉ?」
視線をさまよわせ、冷や汗を流しながらどうしたらいいのかと迷っているフィーナに、彼女の伴魂が先どって答えた。
『一応な』
恐れも隠しもしないフィーナの伴魂の態度に、カイルも気圧され気味だ。
目の前の状況に戸惑いつつも、目の前の現実を自分自身に無理矢理納得させた。
「いつから……と、聞くのは野暮か」
『そうでもない。初めから話せたわけじゃないからな』
「え、そうなの?」
カイルの質問の相手が、自分から伴魂に移ったことに「自分には聞かれない」と、フィーナは安堵する。
安堵しながら、フィーナは初めて聞く事実に驚いていた。
フィーナと伴魂契約した時にはすでに、人語を操っていたはずだ。
『人と獣。種族が異なるんだ。
生体の構造も言葉の種類も異なって当然だろ』
言われてみれば確かに。
フィーナは納得しつつも「だったら」と別の疑念が頭をもたげる。
「どうして話せるの?」
首を傾げるフィーナを、彼女の伴魂はつと視線を向けた。
純粋な疑問だとわかっているが、どう答えるべきなのかと、未だに迷いが生じる。
『――訓練したからな』
ふいっと自身の主から視線を逸らして、白い伴魂はつぶやいた。
単純なフィーナは「そうなんだ」と簡単に納得した。
……これが聡い主だったら。
――誰が、いつ、どのようにして。
等々、不審に思って問うてくるだろう。
そうした主でないことに、白い伴魂は幾分安堵しつつ――申し訳ない気持ちも抱えていた。
巻き込んだのは紛れもなく……自分なのだ。
カイルがフィーナの伴魂が「話す」事実を受け入れたところで、話の区切りとし、それから二人と二伴魂は、現在の状況把握をするため、膝を突き合わせていた。
まずは現状把握からだ。
フィーナとカイルとそれぞれの伴魂が、本来のレクリエーションのルートから外れた場所に居る。
外れているが、フィーナは現在地点を把握できているので、拠点となる休憩所にも、騎士団が詰めている拠点へも、行くことは可能だ。
目的地。
話し合いの結果、オリビアの元にしようと言うことになった。
生徒たちの休憩所でもよかったのだが、何かあったときに余計な犠牲を出してしまう可能性が高いと、満場一致で不許可となった。
フィーナの伴魂。
話せること、一部解禁です。
やっと話せる~~~。
どこまで解禁かは……すいません。まだ手探り状態です。(汗)




