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猫と月の夜想曲~猫に転生した異世界転生者は脇役です~  作者: 高月 すい
第三章 アールストーン校外学習
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37.校外学習二日目【攻防戦 3】


 その間に硬盾デュスクは砂粒の光に変じて消えていった。


 致命傷は避けられたものの、衝撃による痛みでフィーナはうずくまっている。


 ニックはうずくまるフィーナをつと眺めていた。


 生死を確認していたようだった。


 フィーナが硬盾デュスクで剣戟を防いだと知ると、再びカイルに剣を振りかざす。


 フィーナの側にいた白い伴魂は、ニックがフィーナの安否を確認した、その一瞬を逃さなかった。


『三つ! 光と水と火を用いて三方からなる障壁を成さん! 次なる術を用いて三位さんみ一体の了と成す!』


(ウソでしょ!?)


 フィーナの状況に構わず、前詞アンセルを唱える自身の白い伴魂に、フィーナは内心悲鳴を上げた。


 こっちは痛みで気がどうにかなりそうだと言うのに……! 


 思いつつも、反射的に呪文ルキを準備する。


 声を上げようと一気に息を吸い込むと、衝撃を受けた胸部が、ビキリ、痛んだ。


 上げそうになる悲鳴を無理矢理呑み込んで、両目をきつく閉じると、気力を奮い立たせて顔を上げ、ニックを見上げて腕を掲げた。


 伴魂が唱えた魔法の作用はわかっている。


 今を逃せないことも、フィーナに無理をさせると理解しつつ、前詞アンセルを唱えている伴魂の心情も、本能的な部分でわかっていた。


「っ! 輝流焔きりゅうえんから成りし天網てんもう!」


 気合いと気力の力技で、フィーナは呪文ルキを唱えた。


 腕を掲げたフィーナが何かしようとしているのは、ニックにもわかっていたが、痛みに耐える現状では実行できないと踏んでいたのだろう。


 フィーナを軽視したニックは、結果、呪文ルキで生じた魔法に対処できなかった。


 呪文ルキに応じて、虹色に輝く糸で編まれた網が出現し、瞬時にニックを捕えて絡め取ると、後方の木に縫いとめる。


 ニックは目を丸くした。


 肩から腰の辺りまで、虹色の網に体を巻かれて両腕の動きを封じられている。そうした状態で、樹木に固定されることでさらに動きを制限されていた。


「い゛っっった~~~い~~~~っ!」


 ニックを封じたのを確認すると、フィーナは胸部を抑えて痛みを訴えた。


 痛みを耐えるために「ううううう……」と苦悶の声を漏らしてる。


 そうしたフィーナをカイルは気遣いながらも、目の前で起きた状況を理解できるまでには思考が追い付いていなかった。


 まずをもってだ。


「……伴魂が……話した……?」


「……え……?」


 痛みで周りが良く見えていなかったフィーナは、カイルが言ったことを、初めは理解できなかった。


 伴魂が話すのなんて今さら。


 ……と思いつつ、自分の伴魂以外に話す子がいるのかな? と興味をそそられつつ。


 そうした思いを巡らせていたとき、ふと気付いた。


(――最後の魔法の前詞アンセル……っ!)


 意識下ではなく、人の言葉で唱えていた――。


 うずくまって痛む胸部を抑えつつ、傍らにいる伴魂に目を向ける。


 白い伴魂はカイルのつぶやきに気付いているのか気付いていないのか。


 カイルでなく、ニックと対峙していた。


『――本当に、伴魂が目的か……?』


 伴魂はニックに人の言葉で話しかける。


 その様子から、フィーナは、伴魂がこの場で人語を操ることを隠すつもりはないのだと感じた。


(――そういえば……)


 カイルと同様、ニックも伴魂が唱えた前詞アンセルを聞いているはずだ。


 なのに、カイルのように動揺が見えない。


 なぜ。――と、思ったと同時に、ドルジェの森での出来事がふと脳裏をよぎった。


 あの黒マントの男も、伴魂が話したのに、驚いてはいなかった。


 黒マントの男と同じような距離の詰め方をしたニック。二人が無関係とは、フィーナには思えなかった。


 ニックは魔法で縛られた状況から抜け出そうと試みているようだった。


 白い伴魂と対峙してるニックは、口を開く様子がない。


 白い伴魂を伺いつつ、スキがあれば魔法の網から抜け出そうとしているようだったが、上手くできないようだった。


 ニックは炎系の魔法を唱えて、呪縛を解除しようとしたが、唱える魔法は作用を成さない。


『無駄だ。いくつかの属性は無効にできる。

 ――それで? 誰に雇われた? 何が目的だ?』


 最後まで、ニックは答えなかった。


 呪縛から逃れるのが不可能と感じたのだろう。


 ぎり、と奥歯を強く噛みしめたかと思うと、数秒もしないうちに口の端から白い泡を垂らし、がっくりとうなだれる。


 ニックの様子を伺った白い伴魂が、こと切れていると確認した。


『――毒か……』


 奥歯に毒を仕込んでいたのだろう。


 舌打ちしながらつぶやいた伴魂の言葉に、カイルがぎょっとした。


 フィーナも身体の痛みで、カイルほど驚きを体現できないが、それでも驚いていた。


 まさか――人の死を間の辺りにするとは思っていなかったのだ。


 急転した状況に、わからないことだらけの実情。


 フィーナもカイルも、聞きたいことが多数あるが、何から聞けばいいのか、それすらわからないほど困惑していた。


 そうした状況を打破したのは、白い伴魂だった。


 白い伴魂はギッと目を吊り上げて、カイルの伴魂に振り返った。


 白い伴魂が自分を見たことに、カイルの伴魂は嬉しげな感情を宿す。


 意識下に流れてきた、鼻歌をさえずりそうなほど上機嫌の自身の伴魂をカイルが怪訝に思っている間に、フィーナの伴魂はカイルの伴魂の側に来て――。


『こっっっっのっ! バカ鳥っ!! 

 考えなしに何やらかしてんだよっ!!』


 カイルの足元にいる伴魂に、いきなり跳び蹴りを見舞ったのだった。




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