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猫と月の夜想曲~猫に転生した異世界転生者は脇役です~  作者: 高月 すい
第三章 アールストーン校外学習
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36.校外学習二日目【攻防戦 2】


「……え?」


 その姿に、フィーナは眉を寄せる。


 氷槍がかすったのだろう。


 体を屈するニックの顔の、頬から下半分が白く凍りついている。その鼻の下部から口にかけて、パキン、と、割れてぼろぼろと崩れた。


 凍ったものが壊れるように剥がれ落ちたその皮膚の下には、人の口元が現れた。


 フィーナもカイルも目の前で起きていることに、思考が付いていかない。


(――『マスクだ』)


「『マスク』……?」


 意識下で聞こえた伴魂の呟きを、フィーナが聞き返す。


(――『お面みたいなものだ。顔を隠してたんだろ』)


「お面で顔を隠すって――」


 フィーナと伴魂が意識下の話をしているとカイルも気付いたようで、フィーナの言葉に耳を傾けている。


 フィーナは混乱していた。


 今、どのような状況になっているのか、全くわからない。


(――『狙いは俺たちじゃないってことだ』)


「……だったら……?」


 思い出されるのは、カイルに剣を抜いた姿。


「――久遠の闇 深淵のしとね つむいだ衣を我が身駆に」


 ニックが唱える前詞アンセルに、フィーナは警戒した。 


 ニックが唱えた魔法は、フィーナも知っているものだった。効力も知っている。


 完成すると厄介だと認識したフィーナは、反射的に叫んでいた。


燃焼レンショウ!」


 魔法完成をさせじと呪文ルキだけで発動する簡易な魔法を唱えて、ニックの足元に火炎を生じさせる。


 気を殺いで、魔法完成を阻害させたかったのだが、ニックは足元に生じ、衣服に飛び火した火炎を打ち払いつつも魔法を完成させた。


「――幻惑なる夢法衣ほうい


 呪文ルキと共に、ニックの姿が気配と共にかき消える。


 突然、姿を消したニックに、フィーナは「ああ、もう!」と叫び、カイルは驚きの声をあげた。


「なんだあれは」と尋ねるカイルに「静かにっ!」と一喝して黙らせる。


「幻惑なる夢法衣」は「景惑なる闇衣」と似た作用のある魔法だった。


「景惑なる闇衣」は場所を移動できないが、作用範囲内なら何人でも入れて中で話ができるし、気配も消せる。


 持続時間も一日と長かった。


 一方「幻惑なる夢法衣」は、姿も気配も消せて、移動可能。


 魔法は場所でなく人単位の効力なのだが、話し声、物音は筒抜け、継続時間も数分と短いものだった。


 術にかかった者が何かしらに強く衝突したり、大きな動作をとると、効果は消える。


 足音までは隠せないはずなので、フィーナは背後のカイル達をかばいつつ、聴力に神経を集中させていた。


 ニックはそれなりの手練てだれなのだろう。


 足音も、枯れ枝を踏んでしまう音も聞こえない。


 気配も消えているので、静寂が周囲を包んでいた。


 どれほどの時が流れただろうか。


 短いような長いような――。


 実際は数分程度と短い時間が過ぎた後、フィーナは微かながら枯葉を踏みしめる音を耳にした。


 後方を――背後にいるカイルの先を見るが、何もない。


 ――が。


「! カイルっ!」


 視界の隅に映ったわずかな光に、フィーナはとっさにカイルの前に庇い出た。


 カイルのいたはずの場所――今はフィーナが居る地点に、剣が降り降ろされる。


 同時に、剣を振るったニックの姿が揺らめいて現われた。


「っ! フィーナ!?」


 叫ぶカイルの目の前で、フィーナに剣が降り降ろされた。


 ザン、と鈍い音がカイルの耳に届く。


 剣戟を受け、その場に崩れ落ち、両膝をついてうずくまるフィーナ。


 カイルはフィーナの名を叫び呼んで、様子を確かめる。


 血の気が引く思いを感じながら、同時にニックへのたぎる怒り、フィーナの生命を危ぶむ焦りが身の内でない交ぜとなって渦巻いている。


 フィーナは痛みに顔をしかめていた。


「……いったぁ……」


 カイルは切られた場所に目を向けて――。


「――硬盾デュスク……」


 わずかな安堵と共に小さくつぶやいた。


 フィーナの胸元から腹部にかけて、淡い光を放つ盾があった。


 カイルには唱えた声が聞こえなかったが、ニックの剣が降り降ろされる前に、反射的に唱えていたのだろう。


 盾と同様、物理的な攻撃は防いでくれるが、魔法は防げない。


 攻撃は防いでくれても、それによって生じる衝撃までは防ぎきれなかった。


 刃物での切りつけによる致命傷は防げても、棍棒で殴られた同等の打撃痛までは防ぎきれない。


 苦悶の声を漏らし、呼吸も荒い。


 痛みをこらえるフィーナを見て、命潰える恐れを抱いたカイルは、致命傷でないと知り、幾分の安堵を見せた。




魔法に関して。

訳あって使い分けてます。

詳しい事は後々わかっていく予定です。

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