34.校外学習二日目【ニックの行動】
◇◇ ◇◇
身を隠した樹木の根本で、フィーナは息をひそめていた。
距離をとっていたニックが、追いついて、背後の獣道を歩いて近づいている気配を感じながら「早く通り過ぎて」と祈っていた。
「景惑なる闇衣」の効力中は大声で叫んでも、声は外に漏れない。
わかっていても、背後に近づくニックの足音に、自然と息をひそめてしまう。
腕の中の白い伴魂は、フィーナの心配とは異なる懸念から周囲を注視し、思考を巡らせている。
(ニックをやり過ごして、しばらくは静かにしていて、それから――)
伴魂は考えてくれないので、自分で打開策を考え、シュミレーションしている時だった。
『……ん?』
伴魂が眉をひそめて周囲に視線を巡らす。
「どうしたの?」
伴魂は『……いや……』とつぶやきつつ、戸惑いをにじませる。
『……なんか……変な感じが……』
言われて、フィーナも辺りを伺うが、何も感じない。
「何もないけど――」
フィーナがそう告げたか告げないか、そんな時だった。
フィーナもふと、違和感を感じて周囲を見渡した。
何がどうおかしいのか、問われても明確には答えられない。答えられないが、奇妙な感覚を覚えた。
居ない者を感じるような、居る者を感じないような――。
そうした時だった。
周囲を見回していた中、背後を見ていた時、視界の隅に光るものが映ったように思えた。
(何……?)
光ったように見えたものにつられて視線を向けた視界の中で、ふっと淡い光を見たかと思った次の瞬間、カイルとカイルの伴魂が、突然その場に現れた。
「………………。
………………。
………………。
………………え?」
目の前で起きた事象に、フィーナは思考が停止した。
驚いて、ただただ、カイルとカイルの伴魂を呆然と見つめていた。
姿形はカイルとカイルの伴魂に見えるが、本物だろうか?
そう考えるほどに、彼らが出現した様子は現実離れしていた。
腕に抱いているフィーナの伴魂も、目を丸くして言葉を失っている。
虚を突かれているフィーナと彼女の伴魂同様、カイルも自身の状況を把握できていないようだった。
驚いた表情を浮かべて、慌てたように、焦ったように周囲を見渡している。
そうして周囲を見渡している中、カイルは十数メートル離れた先にいるニックに気付いた。
カイルが姿を見せたのは、ニックが歩いていた獣道の通りだった。
ニックも、突然姿を現したカイルに目を丸くしている。状況を把握できない虚を突かれた様子、本人なのだろうかと信じられない様子は、傍から見ていた分にも見て取れた。
カイルもニックを見て驚いていたが、側にフィーナの姿がないと気付いた途端、表情を険しくする。
「……フィーナはどこだ」
問われたニックは、カイルの言葉で我に返ったようだった。
カイルを本人だと認識し――ニックは愉悦の笑みを浮かべた。
(――――っ!)
フィーナは、笑みを浮かべるニックを見て、不安と恐れにかられた。
剣を突き付けられて、伴魂を要求された時には恐れなど感じなかったのに、今は鼓動が早鐘を打つ緊迫感に包まれている。
無意識のうちに、腕の中の伴魂を抱きしめたが、伴魂は伴魂で『――そっちかよ、クソっ!』とつぶやいてフィーナの腕の中から抜け出す。
ニックとカイルにも注意しながら、伴魂の様子を気にしていたフィーナは、視界の隅に見えた、ニックがとった行動にぎょっとした。
ニックは剣を抜いていた。
「――まさか、そちらから出向いてくれるとは……」
言いながら、愉悦に顔を歪ませながらニックはカイルとの距離を詰めていく。
剣を抜いただけでも信じられないというのに、ニックはそのままカイルへと足を進めている。
カイルもニックの行動に対して、信じられないものを見る表情を浮かべていた。
更新に時間かかってしまいました……。
すみません。
なかなか思ったように話が進まないですね……。
(以下、追記)
ようやく切りのいいところまで書き終わりました。
切りのいいところまで行かないと、途中修正が激しいので、更新を控えざるをえなかったのです。
数日分は書き溜め確保できました。