33.校外学習二日目【カイルの伴魂】
そう言われると、カイルは反論できない。
サリアはつらそうに眉を寄せた。
「フィーナも心配だけれど、同行している騎士が何を考えているのか、わからないのよ。
……何が目的か、カイルにはわかる?」
何も言えないカイルをしばらく見つめたサリアが、小さく息をついた。
「ガブリエフ・スチュードの娘として言わせてもらうけど、私はあなたとオリビア様は即刻宮廷に戻るべきだと思ってる。
私が采配できる立場なら、名簿に記載のない騎士が表だって動いたとわかった段階で、そうしているわ」
そこまで緊急性はないだろうと告げるカイルに、サリアは緩く頭を振る。
「オリビア様が護衛騎士の統率をとっていらっしゃるから、カイルもオリビア様ご自身も、この場に残られているのだろうけれど、オリビア様が統率をとっていなければ、そうなっていたはずよ」
カイルの視界の隅で、アレックスとレオロードが頷いているのが見えた。
重ねてサリアは告げる。
「フィーナを心配するのなら、じっとしている方が賢明よ。
下手に動くと、混乱して余計に時間と人員をさかれるのだから」
サリアの言い分はカイルも理解できた。
それでも不安と焦りは増していくばかりだ。
(――行きたいの? あの子の所に行きたいの?)
そうしたやりとりの最中、するり、と伴魂の意識がカイルの意識に滑り込んできた。
用心の為に、カイルの伴魂も主の側に連れてきている。
普段は教師や護衛騎士が復数人いる場所で、常に人目がある場所で警護されていたが、フィーナの件で主であるカイルの側へ控えさせていた。
カイルも伴魂も必要以外、意思の疎通はとらない。
その伴魂が、カイルに呼びかけて来る。
最初、カイルは返事をしなかった。
無視することで緊急の案件を抱えているのだと伝えようとしたのだが、伴魂は絶えず同じ質問を繰り返してくる。
質問はカイルが「是」とする内容だった。
それができるなら、今すぐそうしたい。
けれど現実は不可能で、フィーナ探索を単独でも決行した場合、周囲に迷惑をかけてしまう。
それはカイルが望んだ状況ではないのだ。
そうして思考を巡らしている間にも、伴魂は絶えず同じ質問を伝えてくる。
その度に思考を阻害されるカイルは、しびれを切らして伴魂に「静かにしていろっ!」と叫んでいた。
急に叫んだカイルに、アレックス、レオロードを含める近くにいた者たちが、驚いてカイルを見た。
伴魂を睨みつけるカイルを見て、伴魂と意識下の話をしているのだろうと理解する。
カイルが伴魂と意識下の話をしている様相を見せることは今までになかった。
警護として側に居る近しいアレックスとレオロードも、初めて見る姿だった。
初めてのことに、何事かと様子を見守る周囲の視線に、苛立ちが最高潮に達しているカイルは気付いていない。
カイルの怒声に身をすくめた伴魂だったが、それでもなお尋ねてくる。
(――あの子の所に行きたい?)
静かにしろと言うのに、構わず話しかけてくる自身の伴魂に、カイルは生まれて初めて、身の内から脳天へと突き抜ける怒りを覚えた。
「そうしたいに決まってるだろ!!」
気付いた時にはそう叫んでいた。
叫んだ後で、自分が声を発したのだと気付くほど、反射的に、感情的に叫んだ言葉だった。
カイルの怒声に伴魂は驚いたものの、その後に口にした内容には鼻歌でも歌いそうな嬉しげな様相を見せる。
(――いいよ。行こう、行こう。連れて行ってあげる)
「――――。
――――。
――……なに?」
自身の伴魂の言動ながら、言われた言葉の意味を理解できなかったカイルが眉をひそめてつぶやいたとほぼ同時に、伴魂が翼を広げて羽ばたきを見せた。
そうした時の伴魂の体は淡い光に包まれていて、主であるカイルも同じ光に包まれた。
光に気付いた周囲の者たちが、カイルに視線を向ける。注目を集めた中、淡い光が光量を増したかと思うと、ふっと、視線の先にいたカイルと伴魂の姿がたち消えていた。
カイルの周囲に居た誰もが、目の前で起きた状況に思考がついていかず、現状を理解するまでに時間を要した。
状況はわからないが、とにかく、光は魔法的作用、それによってカイルはどこかに行ってしまったのだとの見解になる。
「フィーナ捜索隊」は「カイル捜索」を最優先とし、現状はオリビアにも通達されたのだった。




