32.校外学習二日目【運営陣の動き】
◇◇ ◇◇
ニックとフィーナの行く先が把握できなくなった事態は、アールストーン鍛練場を混乱させた。
生徒の安全を図るため、レクリエーションは中断、中断時点での問題の正解率、チェックポイントのどの地点にいたのかを順位の評価対象とし、休憩所に呼び戻された。
警護についていた騎士がオリビア主導の元、対処をとりつつ、状況把握に努めているのを見ながら、カイルは身動きのとれない自分をはがゆく感じていた。
フィーナの事情はオリビアにも通達している。
レクリエーション途中だった生徒が全員戻ったのを確認してから、フィーナの捜索にあたるというのが、オリビアが出した指示だった。
フィーナ一人より、その他多数の生徒の安全を図ったものだろう。
オリビアの指示も心情も理解できるのだが、カイルは面映ゆく思えてしかたなかった。
ニックが名簿にないと発覚してしばらくすると、オリビアに協力していたサリアとジェフも戻ってきた。
二人ともフィーナの事情を聞いているのだろう。どちらも顔を強張らせている。
「どういうことなの?」
端的な話しか聞いていなかったサリアが、状況を把握したいとカイルに事情説明を請うた。
同席したジェフも含めて、カイルはニックがフィーナを呼びに来た所からのやりとりを、サリアに話した。
「あの時、もっと強く止めて入れば――」
話終えたカイルは、そう、ほぞを噛んだ。
違和感は感じていたのだ。おかしいと感じてはいたのだ。
その違和感に、おかしいと思う心根に、明確な理由がつけられなかったため、「大丈夫」と告げるフィーナを止められなかった。
カイルの話を聞いたサリアは、眉根を寄せて考えた後、近くに居たアレックスとレオロードをつと見て、尋ねた。
アレックスとレオロード、二人はカイルの護衛の為に側に居る。
カイルが学生として過ごす分はある程度距離をとっているのだが、今回は不測の事態の為、カイルの安全を図れるよう、常に側に付き従っていた。
「ニックという方がどのような方なのか、ご存知ですか?」
問われた二人は互いに顔を見合わせた。
そして二人が総じて出した答えは「顔見知り程度で性格等はよく知らない。
騎士としての成績も普通で、良くも悪くも目立つ人間ではない」だった。
「その方の目的は、何だと思われますか?」
「やはり、エルド嬢の伴魂でしょう」
「エルド嬢の伴魂の珍しさは、私共騎士の間でも有名ですから」
「カイル殿下も、そう思われますか?」
アレックス、レオロードの発言を聞いてからのサリアの言葉に、カイルも頷いて肯定を示した。
サリアは側にいたジェフにも視線で問うと、ジェフも同様の答えを告げる。
四者同一の答えを聞いて、サリアは視線を落として思考を巡らした。
考えた後「……私には……わからないのです」とつぶやいて顔を上げた。
「これほど怪しまれているのですから、仮にフィーナの伴魂をその方が得たとして、自身の伴魂だと言い張っても、誰にも認められないでしょう。
なのに同行者だと偽って、オリビア様の名を語っての虚言。
発覚した時のリスクが高すぎます」
発覚しない――という状況はあり得ない。
フィーナの伴魂は、国で同一の伴魂は存在しない。似ている伴魂もいないだろう。
そうした唯一無二の生物を、他の者が取得して「フィーナの伴魂とは異なる」と主張しても、誰も信じない。
事態が発覚した時、ニックは貴族籍剥奪される可能性もあるのだ。
そうしたリスクを負ってまでフィーナの伴魂を奪うのだろうか。
それがサリアの懸念だった。
言いながら、サリアも不安を抱えていた。ニックが伴魂が狙いでないとしたら、何が望みなのか――。
カイルはアレックスとレオロード、ジェフが可能性の話をしているのを横目で見つつ、サリアに近寄った。
気付いたサリアが怪訝な表情を浮かべる。
そのサリアに、カイルは小声で「抜け出す手助けをして欲しい」と告げた。
驚くサリアに「頼む」と告げる。
サリアは考える様子を見せたものの、きつく目を閉じて頭を横に振った。
フィーナと仲がいいサリアだったら、フィーナを案じて応じてくれるだろうとカイルは思っていた。思いこんでいた。
思惑に反したサリアに、カイルは「なぜ」と驚きを隠せない。
「フィーナが心配じゃないのか」
「心配よ。けれど、今、動いても余計混乱するだけ」
「だが――」
「では聞くけれど、どのように助けようと思っているの? 明確な場所はわかってる?」
「それは――」
口ごもるカイルに、サリアは再び首を横に振った。
「行動を起こせば、どうにかなる問題じゃないの。
下手に動くと、他にも迷惑をかける可能性が高いし、フィーナ捜索に割く人員をカイル捜索に充てないといけなくなってくるわ。
それでもいいの?」




