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猫と月の夜想曲~猫に転生した異世界転生者は脇役です~  作者: 高月 すい
第一章 魂の伴侶
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10.フィーナの伴魂


 伴魂と契約できているのか。


 フィーナとネコ、双方につけた腕輪はそれを確認するものだという。


 伴魂は魔力の保有量によって契約の有無が変わってくるので、貴族社会において伴魂は目に見える指標となっていた。


 伴魂を取得した当初は、伴魂とのやりとりの感覚を判別しがたい。


 また、幼子からの聞きとりによる判別も難しかった。


 伴魂と契約できているのか。


 当人にも他の人にも判別できる道具が、アルフィードが持ち込んだ腕輪だった。


 人と伴魂、腕輪をつけて規定の魔法を唱えると、契約しているもの同士の腕輪が光って反応する。


 伴魂が少なからず出世に影響する貴族社会において、幼子の契約がうまくいったのかどうか、判断できるものとして使われていた。


 腕輪の存在を知っていて、オリビアが所有していることも把握していたアルフィードは、数日だけ貸してもらえないかと頼んだ。


 オリビアは快く承諾したが、同時に「なぜ」との疑念を告げた。


 フィーナの伴魂事情はオリビアも知っていたので、アルフィードが妹に使うのだろうと想像できる。


 が、村人には意味がないと思っていた。


 光る事で伴魂の判別を為す腕輪は、魔力が少ないと契約が成立していても光りはしない。


 村人の契約する伴魂では腕輪はまず反応しないだろう。フィーナも同じはずだ。


 そういった事情からアルフィードが腕輪を求めた理由がわからなかったのだ。


 アルフィードは思案したが、結局、全てを包み隠さず話すことにした。


 オリビアにごまかしはきかないだろうし、アルフィード自身、ウソが苦手だった。


 フィーナが倒れたこと、ネコの存在。


 アルフィードはネコがフィーナの伴魂になったのではと考えていると話すと、オリビアは目を丸くした。


「どうしてそう思うの」


 アルフィードはフィーナが倒れた時のこと、そのあとの事を話した。


「フィーナから魔力を吸っても、まだ飢餓状態だったと思う。

 私もネコの体を抱き上げるとき、魔力を吸われると覚悟してた。

 ……けど――」


「……吸われなかった、か。

 なるほどね」


 アルフィードの後を継いでオリビアはつぶやいた。


 伴魂の契約を交わした獣は、経口摂取以外、主からしか魔力供給を受けない。


 契約を交わした魔物が、皮膚接触による魔力吸収を、主以外の生物から行うことはありえなかった。


 そうした状況から、フィーナとネコは伴魂契約を成してしまったのではとアルフィードは危惧する。


 自身も気付いたら伴魂契約を成していた。


 フィーナと状況が似ているから、何かしらの手掛かりがあればと考えるものの……これまで何の不都合もなくすごしてきているので参考になる事など、まるでなかった。


 宮仕えをしているので、村人より伴魂の情報を知っている程度だ。


 事情に納得したオリビアは、改めて腕輪の貸し出しを承諾した。


「私も同行する」


 ……との、条件をつけて。


 オリビアの突拍子もない提案に、アルフィードは目を丸くして驚いて、懸命に考え直すよう諭した。


 オリビアの身分で村に訪れることなどあり得ない。

 しかし。


「腕輪はあるけど、家の物なのよね。

 貸すのは誰も文句言わないだろうけど、やっぱり見張りは必要だから。

 アルフィードが無くすとは思ってないけど、何があるかわからないでしょう?

 あれでも結構高いのよ」


 紛失した時の金銭負担を掲げられると、アルフィードは何も言えなくなる。


 黙り込んだアルフィードにオリビアは「決まりね」と嬉々として顔を輝かせ、休息日の手筈をとったのだった。


 そうしてオリビアの手の元、腕輪で確認がとられ、ネコが伴魂だと判明した。


 望んでいた伴魂を取得して、リオンとロアも一安心、フィーナもこれで皆と同じだと喜ぶ――かと思われた。


「伴魂……?」


 フィーナが傍らのネコを見て、戸惑いをにじませる。


 フィーナと両親にアルフィードは腕輪がどういったものかを説明した。


 話を聞いても誰もがまだ戸惑っている。


「え……でも……お話……できないよ……?」


 フィーナの言う「お話」は意思の疎通の事だろう。


 伴魂を取得している人から聞いていた、意識下での意思の疎通がないのだという。


 伴魂との意思の疎通は目で見えるものでも耳で聞こえるものでもない。


 意識の下にすべりこむような……頭に響くようなものだと聞いていた。


 誰もうまく説明できないが、伴魂を取得すれば「これか」とわかる。フィーナはそれを信じていた。


 しかしこうして側にいても、フィーナはネコの意識を感じない。


 マーサやジークが伴魂とやりとりをする様がうらやましかったフィーナには、ショックでもあった。


 アルフィードはフィーナに自覚がない可能性も考えていた。


 ネコと側にいるのに「伴魂を得た」とフィーナが騒がないのだから。


 伴魂に関して様々な話を収集していたフィーナが、それらしい状況になって気付かないわけがない。


 だとしたら伴魂とのやり取りができていないのだろうとアルフィードは考えていた。


 兆候としてはネコがフィーナの側から離れない状況も該当するのだが、なついているだけと本人を含めた家族は思っているだろう。


「今はできなくても、そのうちできるようになるから」


 アルフィードも、自身が伴魂を得た時、初めは気付かなかった。


 側から離れない小鳥はわかっていたが、意思の疎通らしきものを交わしたのは、それからずいぶん経ってからだった。


「そうなの……?」


 アルフィードはフィーナの前に膝を曲げると、妹の手を両手で包みこんだ。


 目線を合わせた高さで妹を見つめ、安心させるように微笑んだ。


「大丈夫。心配しないで」


 元気づけようとする姉の気持ちはフィーナにも感じ取れた。


「……うん」


 表情は不安を湛えていたが、口元を引き締めて姉を信じると頷いた。


 アルフィードは幾分安堵して、オリビアの手順の元、フィーナとネコから腕輪をはずして持ち主へ返却した。


 フィーナは改めてネコを見つめた。


 じっと見て思案を巡らせた後、諦めたように息をつく。


「肩に乗るのは……無理だよね……」


 マーサやジークがうらやましかった一つに、肩にのった伴魂との耳元での潜めいたやり取りがある。


 いつかは自分も。そう思っていたフィーナだったが、白いネコの大きさでは到底無理だ。


「それは無理ね」


 ぽつりとつぶやいたフィーナの声は、オリビアに届いていた。


 子どもらしい憧れを耳にして、思わず口元がゆるんでしまう。


 オリビアの声に、びくり、とフィーナは体をすくめた。


 誰かに聞かれていると思わなかったから、恥ずかしさで顔が一気に紅潮した。


「お、オリビア様……」


 オリビアはくすりとほほ笑むと、フィーナの頭部をくしゃりと撫でた。


 フィーナが得た伴魂は、貴族の間でも望まれる獣だ。


 少数であるため、手に入れることが難しく、獣自体気分屋なので、契約自体難しいと聞いていた。


 羨望される伴魂を得たというのに、残念だと息をつくフィーナ。


 姉同様、欲のない心根を目の当たりにして、オリビアは笑みがこぼれていた。


 ――だからこそ。この姉妹が愛おしいのだ。


 側にいてほしいと切に願うほどに。


 ふと、フィーナは膝に視線を落とした。


 何かが触れる感触につられて見下ろすと、白いネコがそっと膝に前足を置いている。


 見上げる空色の瞳が、膝に乗ってもいいかと尋ねているようで、フィーナはくすりと笑うと、背を撫でて了承を示した。


「お話しできなくても、何となくはわかるから、いっか」


 膝に乗って体を丸める白い猫の背を撫でながら、フィーナはオリビアに微笑んだ。


 オリビアもフィーナに微笑み返して……フィーナの手の動きでネコの毛並みの心地よさを窺い知り、うずり、と好奇心が頭をもたげた。


「……触ってみても、いい?」


 好奇心に負けて告げるオリビアに、フィーナは二つ返事で了承した。


 初めこそ、おそるおそる触れていたオリビアだったが、一度撫でると歓喜の声を上げ、何度も何度もネコの体を撫で続けていた。


 オリビアとフィーナがやりとりをしている間、アルフィードは様子を見守っていた両親に、白いネコがフィーナの伴魂になったと再度話をする。


「大丈夫なのか?」


 フィーナに聞こえない小声で、リオンがアルフィードに尋ねた。


 ちらりと白いネコを見る視線には微かながらも恐れが浮かんでいる。


 フィーナとネコの魔力量が見合ってないのではないのか、フィーナには過ぎた魔獣で、幼い娘には耐えられないのではないのか。


 ……そう思いながらも、簡単に「契約解除」できない懸念も抱いている。


 両親が準備して契約書を通す手順と異なるので、解除するすべがあるのか。


 通例のない状況への不安を抱えていた。


 アルフィードは両親に「大丈夫」と伝えた。


 少し離れた場所にいるオリビアをちらりと見ながら、アルフィード自身のことがあったので、事例を調べていた、これからも調べると告げる。


 娘の言葉に、両親はようやく安堵の色を見せたのだった。


 伴魂を得たけれど、まだ馴染んでないので、学校にはしばらく伏せていたほうがいい。


 試験はぎりぎりまで待ってくれるのだから、それまでに打ち合わせが必要だろう。


 そんなアルフィードの提案に両親も同意した。


 フィーナも同意してくれた。


 アルフィードは休息日の二日間、家で過ごす予定だったが、オリビアの同行があったため、今回は宮中に帰ることとなった。


 久しぶりに姉と過ごせると楽しみにしていたフィーナは落ち込んでいたが、仕方ない。


 一番の目的だった伴魂をどうにか取得できているので、姉が不在でも不安は以前より少なかった。


 宮中に戻るオリビアに同行して、アルフィードも馬車に乗り込んだ。


 使用人の二人と御者は手綱を引く、御者の席に並んで座っている。


 馬車のなかはオリビアとアルフィードの二人だけだ。


 それはオリビアが指示したことでもあった。


 気心許せるアルフィードと忌憚ない会話を楽しみたい意図でのことだったが、今はこの状況をありがたく思う。


「主従逆とはね……」


 オリビアは我知らず、ぽつりとつぶやいていた。


 馬車内の椅子に座ってから、アルフィードは硬い表情のまま、黙り込んでいた。


 家族と別れ際に見せた柔らかな笑顔がウソのように、感情を消している。


 オリビアのつぶやきに返事はなかった。


 アルフィードは無表情のまま、うつむき加減に顔を伏せ、膝の上に置いた手を見つめている。


「アル――。アル!」


 オリビアに呼ばれても反応がなかったアルフィードだったが、幾度目かの大きめに呼ばれた声で、ハッと顔を上げた。


 オリビアを見る目は「初めて呼ばれていると気付いた」と言いたげなものだった。


 虚をつかれて、目を瞬かせている。


 そんなアルフィード自体、これまで目にしたことはない。


 動揺の激しいアルフィードを珍しく思いつつ、隙がないと思っていた親友も、人の子なのだと親しみをもちつつ。


(……私の時は、どうするのだろう)


 溺愛する妹の変事だから、アルフィードは激しく動揺している。


 ……だったら。


 自分に、常ならぬ、対応の難しい事象が起きたら。


 目の前の親友はどうするのだろう――。


 常日頃、感情の起伏のないアルフィードでも、激しく動揺してくれるのか。


 感情の起伏を露わにしてくれるのか。……そうしてくれたら、どれほど幸せなことか。


 そんな思いを抱きながら、けれど優先すべきは現状対策だ。


 顔を上げたアルフィードは、情けないほどくしゃくしゃに顔を歪ませていた。


「……ごめんなさい……」


 謝罪を告げつつ、顔を伏せて膝の上の拳を握りしめる。


「動揺、してて……」


 アルフィードの言葉は、オリビアも理解できた。


 今日、フィーナの伴魂確認を行ったのは、それはそれでよかった。


 リオンとロアには話していないが、アルフィード自身もオリビア経由で腕輪による伴魂確認を行った経緯がある。


 アルフィードをよく思っていない輩に「伴魂疑惑」をでっち上げられた、セクルト貴院校時代のことだ。


 アルフィードの伴魂、小鳥は伴魂でなく、金銭で買い取ったものを手なずけているだけなのでは。


 そんな訳のわからない主張に、オリビアが道具を用いて誰の目にも明らかとしたのだ。


 ……その時も。腕輪の光は、アルフィードの方が強かった。


 決して、伴魂側の腕輪の方が、眩く輝いてはいなかった。


 光の強弱は、伴魂契約の主従具合を現している。


 光が強い方が主で、弱い方が従者。


 それはこれまで変わらず言われてきたことだ。


 アルフィードもセクルト貴院校時代、アルフィードの腕輪の光が強く、伴魂の光の方が少ないと示したことによって、疑惑を晴らしたのだ。


 ……なのに。


 フィーナの場合、光の強さが逆になっていた。


 あれではフィーナが伴魂に使役されていると見られてもおかしくない。


 そうした事例がない云々より、貴族の方々は目に見える物を信じる傾向にある。


 ネコがフィーナの伴魂かと疑われた時、アルフィードがとった手段が、フィーナには逆効果となる――。


 そんな思いを巡らせているのだろうと、オリビアはアルフィードの思考を慮った。


 思考能力の差から考えて、例え魔力の差があろうと、伴魂が人に優位になるとは考えられていない。


 互いの魔力の量が見合わず、契約を解除した例はあれど、伴魂に使役された人の例は記録に残っていなかった。


 獣の従者になることはないだろうと、オリビアも思っているが、問題は――。


 魔力に対する主従関係。


 魔力が少なくなったと思えば、魔力の補充を望む。


 通常の伴魂関係なら、互いの魔力量に見合った相手と契約を結ぶので、何ら問題ない。


 だがフィーナの事例となると、下手をすると生命の危機に及ぶ。


 伴魂が望んだ魔力供給を、通常の伴魂契約だったら「これ以上は無理」と断ることもできるのだが、フィーナの形では、断るなど無理な話だ。


 だったら、伴魂契約を解消すればいいのではとも考えられるが、通常と異なる契約を成したとなると、解除方法も通常と異なる。


 一番は互いが解除の意思をもつ必要があり、親が用意した伴魂契約だと、契約書を破棄すれば解除となるが、フィーナの場合、解除方法がまったくわからなかった。


 そうした経緯等を考えて、アルフィードは思案に暮れ、落ち込んでいるのだろうとオリビアは考えた。


 アルフィードらしいと思いつつ、では。とも考える。


 どんな解決策を考えているのかと。


 アルフィードはオリビアに付いて宮中に戻るとした。


 フィーナの現状を考えるなら、側にいて牽制をかけるだろうに。


 こうして宮中に向かっているということは、白い獣がフィーナに害を成さないと判断して、自身は何らかの手がかりを捜したくてしかたない――もしくは、考えている案を確認したい、との意図があってのことだろう、とオリビアは考えていた。


「……で?

 どうするの?」


 オリビアの問いに、アルフィードは思慮を巡らせた後、言いにくそうに口を開いた。


「確認してからだけど……探したいものがあるの」


 そうして告げた物は、オリビアは初めて聞いたものだった。


 アルフィードによると、珍しいがそれほど入手困難ではないという。……ただ。


「探すのに時間かかるから……しばらく、お仕事お休み……したいんだけど……」


 言いにくそうに告げる友人に、オリビアは苦笑を洩らす。


 権力をかざせば、即日でも入手可能であろう人物を目の前にして、頼みごとがその品でなく、必要な金銭でもなく、探すための休日とは。


 どこまで欲がなく、人を頼るのが下手な友人なのだろう。


(やれば自分でできてしまうから。……ってこともあるんだろうけれど)


 能力的には器用だが、世渡り的には不器用すぎる。それに。


「……アルが私にお願い事するのって、いつも自分のこと以外よね……」


「え?」


 小さくつぶやいた言葉はアルフィードには聞き取れなかった。


 首をかしげるアルフィードにオリビアは「いいわよ」と了承した。


 安堵するアルフィードに「ただし」と条件をつける。


 アルフィードは嫌な予感がしていた。


 似たような話の流れを、つい最近、した気がする……。


 イタズラを思いついた子供のように、オリビアは楽しげな笑みを浮かべた。


「私も同行するから」


「ダメ! それは絶対ダメだから!」


 予感は的中し、アルフィードは頭をぶんぶん振ったのだった。

 

 



 ……アルフィード場面、多いですね……。

 主人公、誰かって感じですが。

 主人公はフィーナです。フィーナはこれからです。

 でも、次回もアルフィード主体です。(汗)

 構成上、さらりと流すより書きこんだ方がいいだろうと思ったので。


 オリビアも想像以上に出張ってきます。どうしよう。

 

 次回は、アルフィードが言っていた探し物です。


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