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第六話 隠れ里と新たな仲間

誤字脱字報告ありがとうございます。

「門徒・フライ、ようこそ、隠れ里へ。一同を代表して歓迎するよ。導師・ヒガンの言う異国の言葉でコドクノギシキと呼ばれる最終試練の日までよろしく頼む」


 集落の中央で解散後、エドガーと言う私とそれほど歳の離れていない男に、今後、私が住むことになる家屋を案内された。


 曲がりなりも屋敷に住んでいた元貴族である私からすれば、案内された家屋はとても小さく質素な物であったが、一人で使う分には十分過ぎるほどの広さと生活するのに十分な量の家具や衣服がそろっていた。


 廃村とは言え、昔は数百人近い人間が住んでいた村を使っているだけに、住む家は腐るほど余っているらしい。埃まみれの室内のリビングに行くと、彼は詳しい説明をしてくれた。


「すでに知っていると思うけど、ここにいる全員が、導師・ヒガンに導かれた門徒であり、そして復讐者だ。生まれも環境も、年齢も性別も身分も異なる。だが、僕達には、殺したほど奴がいるという共通点がある」


「それは君もか? 門徒・エドガー」


 エドガーという男は、私よりも遥かに美形で、どこか気品に溢れる雰囲気を放っているが、それでも、先ほど見た他の門徒達と同じく彼の瞳の奥に底知れない闇を感じられた。


 そして恐らく、私も同じ目をしているのだろう。


 彼は小さく頷く。


「みんな自分の過去をあまり話さないけど、自分と同類だと一目見れば分かる。僕がこの里に来たのは、二年ほど前で、それから導師・ヒガンが少しずつ門徒を集めて、君でちょうど二十四人目だよ」 


 その後、自分がヒガンの一番弟子あると教えてくれたエドガーは、お互いに椅子に座って、修行以外で自分が知っているここで生活について教えてくれた。


「では、一通り話したし、導師が先ほど言っていたように、今日は、埃まみれのこの家を使えるように掃除をするとしよう。導師からは、今日一日に限り、修行を止めて手伝いをしろ言われているから、僕も一緒に手伝うよ」


 そう言って、エドガーは笑顔を見せてから先に掃除を始める。


 もし、彼が心に闇を抱えていなければ、今、爽やか笑顔をしていただろうが、復讐者の巣窟にいる人間と分かっているだけで、彼の笑顔は、見ていて気持ちの良い笑顔ではなかったが、自分も同じ人間だと理解しているので、それについては追及しなかった。


 しかし、ただ黙々と掃除するのも、あれだったので、互いに傷を抉らないように配慮しながら、自分達の過去や趣味嗜好について楽しく語りあった。


「そうか、帝国北方に住んでいたのか。なら、冬は大変だったのでは?」


「そうだよ。毎年秋くらいになると、住人総出で山に何日も籠って、冬場を凌ぐ分の食料をかき集めるのさ」


「うわー、それは大変だな。ていうか、住民総出って、フライがいた場所はよっぽど僻地なんだな」


 やはり、住民総出で、冬用の食材を集めていたアズバーン男爵領はかなり異端な領地だったらしい。私はエドガーと会話をして、改めて自分の領地がいかに未開の僻地にあったのかを思い知らされた。


「そう言えば、エドガーは、どこに住んでいたんだ?」


 自分の故郷について話したのだから、自然の流れで、今度はエドガーの故郷について尋ねるが、私の問いを聞いてエドガーの顔が一瞬だけ、曇ったのを見逃さなかった。


 私は、辛い過去を思い出すのであれば、言わなくていいと言おうとしたが、エドガーは大丈夫と口を開いた。


「僕は、生まれも育ちも帝都だった。あの場所はお金さえあれば、大抵の物が揃う場所でね。僕の家は結構な金持ちの家で、何不自由のない暮らしをしていたんだけど……あの日、全てを失った」


 しかし、それでも、やはり思い出したくない過去があるのか、ごめんと呟く。


「言いたくないのであれば、無理して言わなくていいさ」


 私がそう言うと、彼はありがとうと返事をし、でもこれだけは伝えておきたいと、一番伝えたいと拳を握り締めて力強く叫ぶ。

 

「僕には使命がある! 僕の家族を奪った宰相達をこの手で殺し、その後、腐り切ったこの国を変えるという使命が! そのためなら何だってやる!!」


 決意に満ちた彼の言葉から、私はエドガーが帝都在住の貴族、もしくは名のある商家の人間で、あの宰相に冤罪を着せられて、私と似たような状況に置かれたと予想した。


 そう考えると、自分と同じような境遇のエドガーに親しみを感じたが、ロッキード子爵にさえ復讐できれば、そこで満足する私とは違い、エドガーには復讐した後に帝国を救うと言う大きな目標があるようだ。


 同じ復讐者とは言え、復讐を果たした後に、腐り切った帝国を変えたいと言うエドガーの目標と、たった一人に復讐できればそれで満足するであろう私の目標を比べて、なんだか少しだけ自分が惨めに思えた。


 その後は、また傷を抉らないように本当に他愛無い話をしながら掃除をし、一段落がついた所で、エドガーは自分の家に帰っていった。


 彼が去った後、私はベットで横になると、睡魔に襲われて深い眠りについた。









 翌朝、ヒガンが私の家にやってきた。


 これから、どのような修行をするのかと、少しだけ胸を高鳴らせていると、彼女は、私を里の中央付近にある彼女が生活している旧村長の家に案内した。


 体を鍛えたり、戦闘技術を学んだりするのだろうかと想像していた私はこんな場所で、どのような修行をするのだろうかと、疑問に思ったが、その私の疑問に答えずに、彼女は私を村長の家の地下にある牢屋の中に放り込んだ。


「これはどういうことですか?!」


 また牢屋?! 


 帝都での投獄生活がトラウマになっていた私は、彼女にすぐにここから出すように猛抗議をした。


 すると、ヒガンは冷たい口調で、独房内にある机の方を指差した。


「今から修行開始よ。まずは、机の上にあるもの使ってあなたが憎むべき相手の絵を書きなさい」


 机の上には、絵を書くために必要な絵の具や画材一式があった。一応貴族の嗜みとして絵描きを学んではいるが、当然、画家と呼ばれるほどの腕前はない。


「絵を書くためにここに来たわけではない!!!」


 だが、私の抗議も無視して彼女は淡々と伝えるべきことを伝えていった。


「食事は毎日、私がここに持ってくるわ。それと、用を足すならそこの蓋を開ければ、そのまま深い穴になっているわ」


 そして、腕一本が通るくらいの鉄格子の前に、数百枚はあろうかという大量の白紙の紙の束を置いた。


「別にオークションに出すような芸術品を作れとは言っていないわ。人間以外にも、物とか家紋、何なら帝国の国旗でもいいわ。ともかく、あなたが憎むもの滅ぼしたいものを、ひたすらこの紙に描きなさい。全部描き切ったら、ここから出してあげるわ」


 そう言い残し、ヒガンは去っていった。


 まだ出会って日は浅いが、彼女が一度決めたら最後まで貫くタイプだというのは理解しており、また帝都に投獄された時とは違い、今回は時が経っても解放されないため、彼女の指示通りに、ただひたすらに描くしか道はなかった。


 なので、牢屋から一日でも早く出るためにも、鉄格子の向こうにある紙の束を上から数枚取り出すと、急いで机の上に向かった。


「と言っても、被写体もないのに、どうやって描けばいいのやら」


 絵にしたい奴は、すでに決まっているが、そのためには被写体が必要だ。しかし、当然だが、この場にそんなものはない。


 それでも、筆を取らないと始まらないと、筆を握り、白紙の紙の書き始めた。すると、


「あれ? 筆が進む……」


 幸いと言っていいのかは、微妙だが何故かこの場に被写体がなくても描きたいものは十分に描けた。


「ハハハ、そうだ。あの顔を忘れるはずがない!!! そうだ!実際に見なくても十分描ける。あの憎きロッキード子爵を!!」


 そして、私は、延々と暗い地下にある牢屋の中で、我を忘れて、憎きロッキード子爵や偶に彼の側近達の顔を書き続けたのだった。






 それから二か月後、指示されたことを全て行った私は牢を出されたが、牢を出る直前に、私は机の上に置かれた最後の紙に描かれた一枚の絵に目を通し、とても満足した。


 何故ならば、そこに描かれていたのは、悲痛な表情で許しを乞うロッキード子爵の姿であったからだ。


 あの絵に描かれたような未来が来ることを心の底から祈り、私は次の修行に進んだ。








 

 




 時はフライが里にやってきた夜まで遡る。


 里の全員が深く寝静まった夜遅く、普段の生活で使用している旧村長の家を離れたヒガンは誰にも気が付かれないように慎重に集落を離れて、門徒達に近づくことを禁止している山の上に建てられた小さな屋敷に赴いた。


 その屋敷には、数多くの部屋があり、そのほとんどから使用されている気配が感じられなかったが、一室だけ、明かりが灯されている部屋があった。


 明かりと言っても、室内にある数本の蝋燭に火が灯っているだけで、部屋の隅の方は闇に覆われれているが、それでも、外に光が漏れないように窓には木の板が張られていた。


 そして、部屋の奥には、床よりも一段高い台座があり、その上に、東方の国々で武士と呼ばれる者達が纏う鎧兜を身に纏った一人の男が正座していた。


 足の先から頭まで全身を鎧で覆われた男の顔さえも、東方の伝説にある鬼と呼ばれる生き物を模した仮面をしてるため、ヒガンには男が今どのような表情をしているのか伺い知ることはできない。


 それでも、普段は門徒達の前では偉そうに振る舞っている彼女が、その男の前では頭を垂れていた。


「大導師様、予定通り、憎悪と言う名の毒を持った贄を一定数集めましたので、ご報告に参りました」


 男は、仮面の隙間から鋭い眼差しをヒガンに向ける。齢二十ながらも、常人よりも過酷な人生を歩み、多くの強者と戦ってきた経験豊富な呪術師であるヒガンでさえ、この男の放つ圧倒的な威圧感を浴び服の下では鳥肌が立っていた。


「数は揃いましたので、これより私は里の外には出ません。贄達の修行に集中し、全ての贄達の修行が終了次第。蠱毒の儀式を取り行う予定です」


 ここ二年間、ヒガンは帝国各地から素質のある者達を集めるために度々里を出ていたが、フライが来たことで儀式に必要な分の贄は揃ったので、新たな呪術師を誕生させる蠱毒の儀式が終わるまでは里の外へ出ない旨を大導師である男に告げた。


 そして、男が小さく頷くのを確認するとヒガンは一礼をして部屋を出ていった。


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