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第五話 呪い

「しかし、君のような若い女性が私に何を教えてくれるというのだ?」


 ヒガンと名乗った異国の女性が言う、呪術師という初めて聞く言葉に戸惑いながらも、私は彼女が私に何をしてくれるのかを尋ねた。


 すると、黒い髪を靡かせる女は、真剣な顔付きで、その黒い眼で私の瞳を見つめる。


 彼女の顔を良く見ると、異国の人間ではあるが、顔立ちも良く、お淑やか雰囲気を醸し出していたカトリーナとは違うが、彼女もまた別の方向で十分美人だと思った。


 だが、下らない邪推をしている内に私は彼女の術中に嵌っていたことに気が付いた。


「か、体が動かない」


 眼球と口は辛うじて動かせるが、それ以外は全く動かない。力が抜けたわけではなく、動かそうとしても体が石のように固まって動かないのだ。


「ふふふ、少しは分かったかしら?」


 ヒガンは、満足げに微笑むと石のように動かなかった私の体は元に戻った。


「い、今の一体?」


 これが噂に聞く、魔法という奴なのだろうか?


 領内には魔法が扱える者が一人もいなかったため、魔法に関する知識は疎いが、領主として魔法に関する最低限の知識は知っていた。


 魔法とは、数万人に一人の確率で現れる、生まれながらに特別な力を持った人間だけが使える力のことであり、例えば、何もないところから火や水を出したりと、常人にはできない事ができるらしい。


 そして、魔法を使う者、魔法使いそのものが一種の強力な武器であるため、発見次第、戦力として使うために帝都に即時に送るというのが、帝国の各領主に課せられた命令の一つであった。


 だが、人口が千人ほどしかいないアズバーン男爵家に魔法使いはほとんど誕生しなかった。


 私の知る限り、五十年前以上前に一人だけ魔法を使える赤子が生まれたらしいが、その者は、生まれてすぐに帝都に送られたそうだ。


 私自身も魔法の才能もないし、仮に私が当主でいられたとしても、人口が少ない領内で魔法使いが生まれる可能性は限りなくゼロに近かったため、これまで魔法に対して深く考えたことは一度もなかった。


 このように、私は自分が知っている魔法に関する知識を伝えると彼女は、まるでどこかの女王様のように偉そうに笑った。


「ハハハハッ、まあ、こんな人が少ない辺境の田舎じゃ、魔術を使える人間なんて早々生まれないから元領主と言えどその程度のことしか知らないでしょうけど、それにしたってアンタ、元領主にしては少し無知過ぎるわよ?」


 彼女の今の言葉で、何故彼女が、私が元領主であったのか知っているのかと疑問に思ったが、言葉を遮ると怖そうなので、今は黙っていることにした。


「最初に無知なアンタに教えてあげる。まず魔法というのは常人には使えない特殊な能力の総称よ。そして魔法は大きく分けて三つに分類されるの」


 彼女は指を三本立てると、一本ずつ指を折りながら説明を始めた。


「まずは魔術。これが最も有名ね。さっき、アンタの言ったように火や水など、自然界にある物を生み出し自在に操る力のことよ。この大陸で最も有名だけど、遺伝もしないし、後天的には身につけられない、言わば生まれながらの才能ね」


 もう一本指を折る。


「次に錬金術。これは簡単に言えば、金属を加工する能力ね。どんな硬い物質も好きなように弄れるけど、この力は大陸南方に住む神の末裔と呼ばれるとある少数民族の血筋だけが使える力。だから、これもアンタには関係ないわね。でも、彼らが作った黄金や宝石で作られた工芸品や武具は、この国にも流れていて、帝都の市場で高値で取引されていたわ。アンタは知らないようだけど」


 ふん、どうせ、私は何も知らずに田舎に引きこもっていた領主ですよと、心の中で自虐した。そして、彼女は次が重要だと強い口調で言う。


「最後に呪術。これは私の生まれ故郷である大陸の東にある国で生まれた力。多分、知識として知っていても実際に帝国の人間でこれを見た者はほぼいないと思うわ」


 彼女は、あなたは数少ない目撃者ねと呟くと、私に指を刺す。


「さっき、アンタの体を硬直させたのが呪術。呪術とは簡単に言うと呪い。どうでも良い人間には大して力は発揮しないけど、術者が、最も憎悪する相手に対しては、絶大な効力を発揮するわ。私の場合は、対象が私が本心から殺したいほど憎むべき相手であれば、今アンタにやったように体を一時的に硬直させるのではなく、そいつの体を永遠に石に変えてしまうわ。まあ、要するに憎めば憎むほど強くなる。それが呪術よ」


 私もただ、聞いているだけではない。そこまで彼女が強く言うことから、彼女が何を言いたいことに察しがついた。


「なるほど、つまり、魔術や錬金術と違って、才能も血筋も必要ないわけか」


「どうやら馬鹿ではないようね。その通りよ。呪術は特殊な修行と儀式をやれば、理論上は誰でも身に着けられる。でも、それでも、挑戦するには資格というものがあるわ」


 ここまで言われれば、彼女が言いたいことはよく分かった。


 呪術が憎しみによってより強くなるであれば、誰かを殺したほど恨んでいる人間でなければ、呪術を会得するための資格すらないわけだ。


 同時に、彼女が私の素性について知っていたことも理解できた。


「呪術を会得できるほどの憎悪を抱いている人間として、ずっと、私をマークしていたのか?」


 私の問いに彼女は即答した。


「あら、気がついていたの? その通りよ、私は帝都に情報網を持っていてね。アンタの事は帝都の酒場で一時だけ話題になったわ。また何も知らない哀れな地方貴族が中央の貴族のおもちゃにされたってね。よくあることだから、一週間くらいで消えちゃたけどね」


 そうか、色々と分かった。ならばもう私から言う事は何もない。


 呪術を会得したことを決意した私に対してヒガンは最終確認をする。


「さて、話を聞いて、呪術を会得する覚悟はある?」


 私はただ一言「ああ」と頷いた。


 そして、彼女は歓迎するわと両手を広げた。


「ようこそ、新たな門徒、フライ。私の事は今から導師・ヒガンと呼びなさい」


 こうして私はヒガンという異国の女性の弟子となった。










 導師・ヒガンは、この国に呪術を教えるために、遠く東の国から来たらしく、私以外にも帝国の各地で見込みのある人間を集めて弟子にしていた。


 更に、人がいなくなった廃れた村を使って、弟子にした呪術師見習い達が修行するための隠れ里まですでに用意していた。


 その隠れ里は、アズバーン男爵領からそう遠くない場所にあり、彼女が所有する馬車に乗って一週間ほどで着いた。


 馬車が着いたその地は、周囲を険しい山々に囲まれた秘境の中にある集落で、私と同じく二十人近い帝国人が住んでおり、彼ら全員が私と同じく、何かに深い恨みを持った門徒と呼ばれる呪術師の見習いであった。


 到着してすぐに、導師・ヒガンは、集落の中央にある広場の台座の上に置かれた毛虫の姿をした何だが気味の悪い石像の前に彼らを集めると、簡単に私の自己紹介をしてくれた。


 それから、他の弟子達の自己紹介や、ここでの生活についての説明をした後に、最後に注意事項を述べた。


「ここにいる者は全員知っているけど、もう一度言うわ。あそこにある建物には決して近づかないように」


 ヒガンが指す方向を見ると、集落からかなり離れた位置にある山の上に建てられた小さな屋敷のような建物が見えた。何故あんな外れた場所にあるのかは気になるが、遠くから見る分には、普通の屋敷のようだった。


「門徒・エドガー。この新しい門徒、フライに私に代わってここの詳しい説明をしてあげなさい」

 

「かしこまりました。導師・ヒガン」


 こうして、人里離れた山奥で、私の復讐が始まった。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 主人公の危機感のなさとか無知な感じとか気になるような。真面目な流れに急に混ざる軽いノリも違和感が。
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