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第一話 優しい領主様

転生物を書いていましたが、いまいち筆が進まないので、以前書いた復讐ものをもう一度書いてみました。

「領主様、きれいなお花を見つけたからあげるね!」


「ありがとう、リリー」


「俺も、父ちゃんが領主様に差し上げろって、川で釣った魚を持ってきた」


「私も、ママに言われて、風邪に良く効く薬草持ってきた」


 そう言って、子供達は、私一人では持ちきれないほどのの量の贈り物を差し出してきた。


「ハハ、こんなにたくさんだと、私一人では持ちきれないな」


「じゃあ、僕が領主様の屋敷まで運ぶのをお手伝いするよ」


「ありがとう。サム」


「僕は大きくなった兵士なるんだ! だから、これくらいの荷物へっちゃらさ」


「あ、ずるい。俺も領主様の手助けをする」


「私も!私も!」


「これこれ、お前達、領主様が困っているぞ。もう少し落ち着け」


「いいんですよ。オンじいさん、私は生まれてから、これまでまともに剣を振るったこともない貧弱な男です。多分、兵士志願のサムや、毎日野山を駆け巡っている子供達の方が私よりもよっぽど体力がありますよ」


「そうですか、まあ、領主様がそう言うのであれば、儂からは何もありません。これお前達!領主様にご迷惑を掛けるでないぞ」


「「「はーーい!!」」」


 領内の様子見るために、一人散策していた私は、途中で出会った子供達と共に、領内にある唯一の街の中心部に建てられた自分の屋敷に帰った。





 私の名前は、フライ・アズバーン男爵。ブーゲリア帝国の貴族で帝都から遠く離れたこの小さな領地を代々守ってきたアズバーン男爵家の当主だ。


 両親を早くに亡くし、長年に渡り祖父が当主をしていたが、半年前に他界し、その後、二十歳という若さで私が当主を引き継いだ。


 祖父から貴族位と領地を継承した私は、領主としての経験も浅かったため、他の領主達とは違い、祖父の頃の制度をそのまま施行した。


 それが、良かったのだろう。


 元々、このアズバーン男爵領は、交通の要所でもなく、珍しい資源が取れる土地でもないし、他所で売れるほどの伝統工芸品もない。あるのは、街から肉眼で見える距離にそびえる一年間を通して雪が降り積もる神秘的な白い霊峰と雄大な山々がもたらす自然の恵みだけだ。


 自然は美しいが、お金を稼げるほどの観光名所ではなく、冬の時期は、激しい吹雪で街の外には出られない日が一か月近く続くため、この地域に住む他の生き物と同じく、冬に備えて食料を蓄える。そんな場所だ。


 そのため先代当主であった祖父は領民から、自分達が暮らしていく分と、もしもの時の蓄え、それと中央に送る税以外では、領民から税金を取らなかった。


 聞いた話では、他の領主達が領民から徴税する税金の十分一くらいしか、領民から税金を取っていないらしい。


「私達に必要なのは、大自然の恵みと領民達の笑顔。それ以外は必要ないのじゃ」


 これが、亡き祖父が私に残した最後の言葉だった。


 私は、その言葉を生涯守り抜きますと誓うと、祖父は笑みを浮かべて安らかに旅立った。


 領主になりこの半年間、私は忠実にその言葉を守った。領民を虐げず、過度な税も要求しない。暇さえあれば、町に顔を出して領民達と触れ合った。


 自分で言うのも、何だが領民から慕われていると思う。


 そう、幸せに満ちた日々だった。



「あ、カトリーナ様だ!」


 屋敷の正門の前に一人の若い女性がいるのを発見して子供達が、彼女の元へ走り出した。


「お帰り、フライ」


「ああ、ただいまカトリーナ」


 茶色の髪を靡かせる彼女の名前はカトリーナ。領内で我が家の次に力を持つ商人の家の長女で、来月結婚予定の私の婚約者だ。


 次期領主である私と、領内で最も力を持つ彼女の家の長女であるカトリーナが結ばれるのは、子供の頃からすでに決められていたことであった。


 いわゆる政略結婚と言う奴だが、幼少期の頃から一緒に過ごしていたため、夫婦というよりは、幼馴染、いや兄妹という感じがしていた。


 領民達にその事を話すと、彼らは笑いながら「今はそうでも、結婚すれば変わりますよ」と言っていた。


 正直言って、彼らの言葉は未だに理解できない部分もあるが、結婚式を挙げるまでは、そうなのだろうと割り切ることにしていた。




 荷物を運んでくれた少年達と共に、屋敷の玄関に彼らがくれた物を置き、別れの挨拶正門戻ると、カトリーナは一緒についてきた少女達に囲まれていた。


「いいな。私もカトリーナ様みたいに綺麗になりたい」


「アンナが大きくなったら、お化粧の仕方を教えて上げるわよ」


「え、本当に! やった!!」


「えーーアンナばっかりズルい。私も私も!!」


「じゃあ、私も……」


 領内一の美人と言われるカトリーナは、特に年頃の少女達に大人気だ。


 今日も、ワイワイ騒いでいる。この光景は微笑ましいが、残念ながら、日が沈んできたので、今日はここまでだ。


「さあ、みんな、暗くならないうちに帰りなさい。カトリーナも、結婚式までは実家で寝泊まりしないと」


「ええ、そうね。昼間はフライのお仕事の手伝いや屋敷の家事をしているけど、やっぱり夫婦になるまでは、家で寝ろとお父様がうるさいからね。それじゃあ、みんな帰りましょうか」


「「「はーーーい」」」


 こうして、私と共に来た子供達は今度は、カトリーナと共にそれぞれの家に帰っていった。


 領主の座を継いでから半年間、何も変わらない幸せで平穏な日々が続いていた。


 あの日までは。








 三日後、正式に当主に就任した通達と、そのお祝いのために、帝都から使者が来た。


 帝都からの人間が来るなど、数十年ぶりだそうだが、これは数か月前から分かっていたことなので、皇帝陛下の代理人である使者を歓迎する準備は万全だ。


 我が男爵領を上げて、歓迎式を取り行った。


 大した特産品もない我が領地だが、決して多くはない自然から取れる恵みをふんだんに使って、来月行われる結婚式よりも豪華な、それこそ年に一回用意するのが、やっとなほどの盛大な料理を振舞った。


 また、カトリーナ自ら、領内の若い女性達と共に、領内の伝統的な踊りを披露して、場を盛り上げた。


 私もカトリーナも領民達も、心の底から使者達をもてなした。


 使者の方々も楽しそうな様子であったが、ただ一人、皇帝陛下の代理人としてきた使者のトップであるロッキード子爵は、何故か一度も笑顔を見せず、必要な事以外では一切口を開かなかった。


 私はそれを不審に思ったが、詳しいことは知らないが、我が領地とは違い、現在帝国全土で反乱の兆しがあるそうで、帝都はその対応に追われていると、事前に商人であるカトリーナの父親から聞いていた。


 なので、皇帝陛下と共に、過酷な帝都からやって来たロッキード子爵を私如きが心配するのは、身の程知らずと考えて、何も尋ねないことにした。


 歓迎式は領内を上げて盛大に行われ、その間これと言った問題は一切起きなかった。




 しかし、翌日、使者の方々が帝都に帰る直前、ロッキード子爵が別れの挨拶の後、強い口調で一言だけ尋ねてきた。


「これで、終わりか?」


 もしかしたら、お口に合わなかったでは?


 子爵の言葉を聞き、最初に脳裏によぎったのは、常日頃から帝都で美味しいものを食べていると思われる子爵の料理に対する不満だろうかであった。


 次に考えたのは、歓迎式の催しに子爵の気に入らないものがあったかもしれないであった。


 後から、考えてみれば、この時の私の考えなど検討違いもいいところであったが、平和なアズバーン領を出たことのない私では、子爵の欲するものを用意できないのは当然のことであった。


「失礼ながら、料理も、宴も、我が領内で行える最高峰の物をご用意致しました。これ以上の物となると……」


 明らかに不満そうな子爵にどう返事すればいいのか、迷っていると子爵は、これまでに一度も見せた事のない笑顔を見せた。


「そうですか。いや、何。貴殿が用意して下さった宴が余りにも素晴らしかったもので、ついこれ以上の物はないかと、考えてしまった。アズバーン男爵本当に申し訳にない。では、貴殿とアズバーン領の繁栄を帝都から陰ながら応援させて頂きます」


 そう言い残し、ロッキード子爵は馬車に乗って、帝都に帰っていった。


 子爵の様子には不可解な点もあったが、辺境の地にある我が領に帝国が何かしらの干渉をすることはほぼない。つまり、これで心配事はなくなったわけだ。


「これで、安心して式を挙げられるな」


「ええ」


 心配事が消えて、私とカトリーナは、ほっとため息をついた。










 帝都への帰路につくロッキード子爵が乗る馬車の中にて、


「お前達、よく、あんな田舎くさい飯を美味しいそうに食べれたな」


「そりゃあ、陛下の代理であるあなたとは違い、俺達は家来として振舞わなければいけませんから」


「でも、まさか、あそこまで酷いもんを出してくるとは思わなかったぜ。途中で、吐かなかった自分を褒めたいくらいだぜ」


 ロッキード子爵の側近である二人の従者は、共に酷い目にあったと愚痴を溢した。帝都で毎日華やかな宴を味わっているこの三人にとって、アズバーン男爵領の人間が誠心誠意こめて開いた宴など鼻くそ以下であったが、それでも、一つだけ、見るべきものはあった。


「あの踊り子達は可愛かったな」


「特に、あの男の妻になる女は、帝都でも中々見ない美人だった。まあ、頑張って探せば顔だけ良い美人なんていくらでも見つかるだろうがな」


 結論から言えば、側近二人にとって、アズバーン男爵領が数か月掛けて用意した歓迎式など一晩寝れば、忘れる程度の物であった。しかしながら、彼らの主人であるロッキード子爵は違った。


 それが分かっているから、二人の従者は何も言わず、ロッキード子爵も狭い馬車の中で声を荒げたくなかったので、口を閉ざしていたが、彼の頭の中は怒りで埋め尽くされていた。


(田舎貴族の若造の分際で、仕事とは言え、帝都からわざわざ来た俺に貢物一つ寄越さないとは、ふざけた真似を……必ず後悔させてやる!!)


 帝国の法律の上では、賄賂を贈ることは犯罪である。だが、中央の情報がほとんど入ってこない辺境の地にいるフライ達は知らなかったが、反乱が起きる寸前まで腐敗した帝国において、賄賂を贈ることは当たり前の事となってしまった。


 仕事柄、地方貴族の領地に赴くロッキード子爵は、ほぼ毎回、必ず領主達から賄賂を受け取っていたが、遠く辺境の地まで来たのに、今回はその賄賂がなかった。彼はその事に大いに腹を立てていた。



 そのような事情を知らなかったフライ達の元に、領主就任の祝いとして、カトリーナと共に帝都に招待したいという手紙が届いたのは、アズバーン男爵領の全員が待ちわびていた二人の結婚式の二週間前であった。


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