第84 後始末とニックネーム
地平線に光が灯る。
夜明けだ。ゆっくりと昇る太陽を眺めながら陣地に戻る。草原に昇る朝日を見ていると、昨夜の激闘がまるで嘘のようだ。
しかし、戦いは確かに存在した。至る所でその凄惨な証拠を見つける。防衛の為に作られた土壁は所々で崩壊し、堀はゴブリンの死体で一杯に埋まっていた。昨夜の攻防が、どれだけ激しかったのかを物言わぬ死体が物語る。
「あら、アンタ生きてたの?」
荷馬車の上から声を掛けられる。眠そうな顔をしたロバータだ。
「お互い様ですぜ、姐さん。こっちも死闘だったみたいですね。」
一面に散らばる死体を眺めながら答える。
「…………3人死んだわ。ホブゴブリンが数十体は混じってたから…………。まあ仕方無いわね。」
やはりホブゴブリンに苦戦したか。元々の能力もあるが、雑魚ゴブリン達の捨て身の補助があると、途端に化けるモンスター。それがホブゴブリンだった。
「そうですか…………。」
「それよりも、アンタがあの光の魔法を使ったんでしょう?」
流石に気付いたか。あんな目立つ魔法も無いからな。それに彼女は傭兵のリーダーだ。部下の魔法を把握する、なんて事は当然しているだろう。傭兵みたいな命懸けの職業で、自分の部下の能力を知らない。そんなリーダーは失格以外の何者でもない。
「ええ、まあ、俺ですね。でも役に立ったでしょう。」
「ああ、助かった。月夜とは言え暗闇で、あの数のゴブリンとやり合うなんて、正直ゴメンだからね。」
ロバータは懲り懲りといった様子で首をすくめる。無理もない。昨夜のゴブリンの総数は、少なくとも500は下らない。護衛任務とは名ばかりで、小規模な戦争と言ってもおかしくない。それで犠牲者3名なら、彼女の指揮能力は十分高いと思われる。
「他にも魔法が使えるんだろう?良かったら怪我人を診てくれないか?」
俺に何があったのか、あえて聞かないのが彼女らしい。触れるか触れないかの微妙な機敏を、あくまで素知らぬ態度で通し、それを以て、こちらに配慮する姿勢が好ましい。言葉以外のやり取りを済ませ、俺は彼女の申し出を快諾した。誠意には誠意を、である。
*
数時間かけて治療を行う。重傷の者は少なく、多くは軽傷だった。この程度であれば、今後の旅に支障は出ないだろう。まだ目的地まで数百㎞もある。リタイヤされては困るのだ。討伐ならば俺1人でもやれるが、護衛となると、とても手が回らない。荷馬車だけでも50台近い大規模な隊商だ。やるべき仕事は山の様にある。
治療を済ませ、陣地の後始末を行う。ゴブリン達の死骸を、このままにはしておけない。放置しておけば、死体を狙ったモンスターが大量に現れ、他の旅人の迷惑になるだろう。そして何より不衛生だ。これだけ多くの遺体があるのだ、恐ろしい伝染病の温床になる可能性は高い。
(それに、アンデット化されるのも怖いしな。)
ファンタジー全開の異世界なら、何が起ころうと不思議ではない。死霊魔法の存在は確認している。むしろその一番の使い手が吸血鬼だ。シャル様なら片手間レベルで使いこなせる。俺としても、何者かに操られた腐った死体を、愛用の金棒で殴るのは、さすがにご免蒙りたい。
(腐った肉体のミンチ……。考えただけでゾッとするぜ。)
堀に死体を集め、高熱の火魔法で処理する。灰になるまで燃やし尽くした後、土壁を崩して埋め、痕跡を消す。治療と合わせて丸一日が潰れた。その日は結局、動く事が出来ず、もう一泊する羽目になった。
その夜は何事もなく、翌朝、早い時間に隊商は出発した。
ロバータとはあれから何も無く、向こうも積極的に接触しようとはしなかった。俺も薮蛇にしたくはない。進んで係?わるつもりは毛頭無かった。
数日経って、完全に隊商の雰囲気も落ち着いた。あれからも、モンスターの襲撃を散発的に受けた。しかし、犠牲者を出す程のものはなく、護衛の傭兵達だけで撃退した。俺も魔探で貢献しておいた。お陰で呼び名は〈金棒のあんちゃん〉から〈勘の良いあんちゃん〉になった。
何時になったら、名前を覚えて貰えるのだろうか?
風邪回復!




