第8話 やったぜ!明朝体!
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乾パンのポリ袋を誇らしげに掲げる。
日本なら間違いなく、頭のおかしな人扱いだろう。だが、残念ながらここは異世界イデア。誰もジロキチを知らない謎の世界だ。
証拠にそれを見た彼女は驚愕している。
「中身が……………透けて……………見える?まさか、透明……………なの?」
「どうぞ、お手に取ってご覧下さい。」
そう言って彼女に手渡すと、食い入る様にポリ袋を確認し始めた。
「見たこと無い材質ね。本当に透明だわ。でもガラスじゃない。柔らかいわ。そして軽くて丈夫なのに薄い。古代の遺物?それとも新しく錬金術で産み出された物なの?」
彼女は何やらブツブツと小声で言っている。
(よし、バッチリ食いついた。ここから巻き返すぜ。)
ジロキチはこの好機を見逃さなかった。ここで挽回しなくては後が無くなることを知っていたからた、
「教養のある方かと、お見受け致しますが、こちらをご存知でしょうか?」
ジロキチの質問に考え込みながら彼女は答えた。
「確かに、この透明な袋を見たことはありません。でも、だからと言って転移した証明にはならないわ。」
「仰る通りでございます。」
ジロキチは自信満々に言い切る。
「それでは透明な袋に【印字】されている文字を、ご覧頂けますでしょうか。あなた様はこれまでに、この印字された文字または類似の文字を、今までご覧になったことはございますか?」拝見は謙譲語です。
そう言って、彼は大きな字で〈乾パン〉と、デカデカと表示された部分を指差す。
彼女は無言で首を振る。
「見たこと無いわね。」
「その文字は【規格が統一】され印字されております。裏側の右下をご確認下さい」
「!!」
彼女は明朝体で書かれた、製造年月日・製造者・会社の所在地を確認しさらに驚いた。
「この精巧な………書体は………一体?………………魔法なの?」
(まさか明朝体で、ここまで驚いてくれるとは。ありがとう明朝体!!)
(さあエサは十分撒いた。あとは釣り上げるだけだ。そうだろう異世界人さんよ。)
ジロキチは大きく息を吸って、彼女を説得するための最後の締めをする。ここで取りこぼす様では、社畜ソルジャーは名乗れない。彼はこの営業トークで厳しいノルマの海を渡ってきたのだ。
「知ってみたいと思いませんか?異世界を!」