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転勤先は魔法の国  作者: NTかわち
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第75話 勝利の女神はスカートをチラつかせた!

ビッテン萌え

 刻一刻と動作が鈍くなる身体。



 まるで水の中で動き回っているのかと、思わせるほどルセロは消耗していた。余裕を持ってを回避したハズが紙一重になり、全力で振るった剣は勢いを失ないヨレヨレだ。もはや思考に身体が追い付いてはいない。



(じり貧だ、打つ手がねえ。)



 伯爵の攻撃を何とか凌いではいるが、それも時間の問題だろう。形勢は一方的に伯爵へ傾いている。いつ致命傷を喰らってもおかしくない。俺の頭に死という文字がちらつく。ルセロが死ぬ。考えたくは無いが、現実にそれは起きようとしている。



 常に危険と隣合わせの討伐と特別厳しい訓練の日々。お互い手探りながらも懸命にこなし、その合間には、ささやかながら観光に食事にと、本当の兄弟の様に楽しんだ。思い起こせば、兄貴!兄貴!と付きまとう、ルセロの声が聞こえる。



(クソッ、縁起でもねえ。勝負はまだ着いちゃいねえ。何か手はあるはずだ。)



 実は打開する方法が存在する。


 リスクが高く間違いなく危険だが、一か八かの逆転を狙うならそれしかない。俺は初めから迷っていた。それについて助言をするか否か。



 リスクを考えるならさせない方が良い。しかしこの状況で、リスクを考慮したとしても無意味だ。勝負に出る以外、ルセロの生きる道は無いだろう。そう決心して祈りながら指示を飛ばす。




「ルセロ!“鎧”を外せ!」





  *





 誰もが唖然とする。



 イエペス子爵や譜代派の家臣達、対戦している当の伯爵ですら驚いた顔をしている。驚いていないのはシャル様ぐらいだ。無理もない。プレートメイルを脱着してしまえぱ、全身が危険に晒される。胴体はもとより、手足の損傷ですら致命傷になる可能性が高い。四肢を流れる動静脈に傷が付けば失血死は免れない。



 それを理解した上で、プレートメイルの重量が及ぼす悪影響をはかりにかけた。そもそも、プレートメイルを装着した経験がルセロに無く、今回は譜代派の神輿として奉り上げられた結果、立派な鎧を着けたに過ぎない。普段の訓練や討伐でも、プレートメイルなど装備しない。



 俺からの指示を聞いたルセロに迷いはなかった。皆が唖然とする中で、素早い手つきで留め具を外す。胴体、腕、足と順に外していく。1人で取り外せるタイプで助かった。鎧によっては外部の手助けが必要な場合もある。最後の完全に取り外すと何時ものように身軽になった



(防御はこの際、度外視だ。博打になるが仕方ねえ。)



「ルセロ…………、ゆっくりやれ」



 落ち着かせる為の助言を行い。口を閉ざす。これでいい。何度も助言を重ねるのは混乱の元になる。助言をした所為で混乱する。まさに本末転倒だ。それにルセロは馬鹿ではない。言葉の意味を推測し、考えるだけの頭脳を持っている。俺はルセロを信じるし、ルセロもまた俺を信じるだろう。それが兄弟分というものだ。



 戦闘はすぐに再開された。



 当初はスタミナ切れを起こし、明らかな劣勢だったものが、徐々にルセロの動き良くなり、体力を回復しつつあるのが見て取れた。無理に打ち込まず、受けに徹し、守勢ながらも体力の回復を優先する作戦だ。



(そうだ、それでいい………。どうやら意図は伝わっていたようだな。)



 未だ伯爵の勢いは衰えず攻撃は苛烈を極める。



 ルセロも完全には避ける事が出来ず、数ヶ所の浅手を負ったが、戦闘に支障は無さそうだ。何よりも眼が死んでいない。逆転を狙おうと虎視眈々と輝いている。



 勝負を捨てない人間特有の、何か仕出かす“恐さ”をハッキリと感じる。


(行け!ルセロ……!やって見せろ、伯爵を打ち倒し、敵討ちを遂げてみせろ!その壁を超えて初めて子供から“男”になるんだ!)




 それは一瞬だった。



 ちょこまかと逃げ回るルセロに業を煮やし、伯爵の攻撃が大振りなった瞬間。素早く内側に潜り込み、身体が前のめりになった、伯爵の頚部を切り裂く。ザッという音と共に、頸動脈から大量の血が噴き出す。



 伯爵には首を切られた実感が無かったのだろう。流れ出る血を見て、初めて違和感を感じたとしか思えない仕草で、首を撫でる様に触り、自らの出血を覚った。


 そして力が抜ける。


 剣を取り落とし、片膝を着き、両手で出血を押さえようとしながら、必ず訪れるであろう死から、逃れだそうとする。伯爵に痛みは無いだろう。だが、後方からヒタヒタと迫る死神は、正確に認識していた。驚愕、後悔、恐怖といった様々な感情が現れては消えていく。





 伯爵は狐の様に狡猾で、獅子の様に勇ましく闘い、犬の様に呆気なく死んだ。






「兄貴…………!オイラ……………やったよ…………!」



 涙を流し、俺に語りかけるルセロ。



 俺は返答するよりも先に、駆けつけて抱き締めてやった。



 泣いているのは俺も同じだった。


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