第6話 焚き火の先に
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ジロキチは中庭の探索を終え、さらに周辺の様子を探った。
隣接する建物は完全に崩壊し、崩れた石材が彼の行く手を阻む。ふと、見上げると大きな木が建物から突き出していた。
(一体、何年経てば、こんな状態になるんだ?)
少なくとも数百年は経っている。何かしらの遺物が見つかればと思っていたが、木製なら完全に風化、金属製でも経年劣化で使いものにならない可能性が高い。
ジロキチは更に周辺を探索してみるが、他の建物は完全に森の一部になっており、基礎部分だけが露出していた。
(収穫なしか………。)
ジロキチが探索を開始してから、すでに何時間過ぎたのか分からない。だが、そろそろ陽の落ちる時間だ。探索を終了して夜営の準備をしなければならない。暗闇で薪を集める作業などしたくはなかった。
宿泊する場所はすでに決めてある。最初の大広間だ。そこしか屋根が無いのだ、他に選択肢はなかった。その大広間も一部分、天井が崩れている。しかし、少しでも風雨を凌げるだけマシであると、ジロキチは考えていた。
随分脆くなっているので、何かの原因で天井が崩落すると死ぬかも知れない。数百年経た建物である、崩れる可能性はあった。初めはジロキチも不安でしかたなかった。だが、建物が放棄されてから数百年。その数百年後の転移した初日に全壊する。その確率を考えれば、有り得ない事だと思い直した。
(クックッ、ねぇよ、宝くじの一等よりも低い確率だぜ。運が悪過ぎて、逆に諦めがつくわ。)
ジロキチは、なぜかその考えがおかしくて、一人笑うのだ。
*
手間取りながらメタルマッチで着火する。火種から小さな木片に火が移り、さらに大きな枝に燃え移っていく。パチパチと燃える焚き火を見つめながら、畳んだダンボールに座り、乾パンを噛りながら彼は物思いにふける。
ジロキチは今日の探索で何かしらの手掛かり、もしくは遺物を入手出来ると思っていた。しかし残念ながら、彼の想定よりも遥かに収穫が無かった。これは彼の予想よりも遺跡が荒廃するスピードが早く、遺物の殆どが土に還っていた可能性と、遺跡を放棄した人々が全て持ち去った可能性がある。
(どちらにしても分からない事だらけだ。)
なぜ自分なのか?なぜこの場所に転移したのか?なぜ会社が異世界転勤なんて命じたのか?
考えれば、考えるほど、ジロキチの考えは纏まらない。
実は先ほど異世界転移など、まやかしではないかと彼は考え、恥ずかしながら、中学生以来の夜空の観察をしていた。
そこで彼は信じられないものを見た。
何と巨大な恒星を2つも発見してしまったのだ。
巨大とはいえ小指の先ほどの多きさだ。しかし、地球上から観察する、一等星の倍以上大きなサイズである。とても信じられなかった。星自体の距離が近いのか、星自体の光る力が強いのか、それについては分からない。ただ、ここが地球上ではないこと“だけ”は理解した。
(分かりたくない事だけが分かり、分かりたい事だけが分からない。儘ならない。)
動くものといえば自分の影だけだ。
焚き火のパチパチとはぜる音を聞きながら、彼はポツンと小さく自嘲する。ジロキチにとって頼りになるのは炎だけ、それ以外の存在は何もない。味気の無い乾パンが喉に絡む。彼は意気消沈していた。
焚き火に薪を追加する。
ジロキチは自分の残された時間が、それほど有るとは思えなかった。食料と水を切り詰め、最小限の行動を取ったとして、もって1週間。それが彼の結論だ。
これは探索をせず、体力の消耗を抑えての話だ。積極的に救出を求め、移動に体力を使用した場合、おそらく3日程度で動けなくなるだろう。どちらが正解なのか、それは誰にも分からない。
(どっちも不正解の場合も………………。)
ジロキチは悲観的になりネガティブな発想に捕らわれていた。その時、焚き火の向こうで何かが揺らめく。気のせいだろうと、彼が顔を上げると人影が見えた。