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転勤先は魔法の国  作者: NTかわち
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第46話 晴れの門出に

「どういう事なんだ?!どうしてウルクから出て行くんだよ!!ちゃんと説明しろ!」



 下町の大衆食堂の一角から大きな怒鳴り声が店内に響く。昼食の客も捌けた昼下がり。パルは怒っていた。



「俺達は友達だろう。理由も説明せずに出て行くのはおかしいと思わないのかよ?」



 理由は言えない。俺の旅の目的は日本への帰還方法を調べることだ。異世界に飛ばされたことは、シャル様達以外に打ち明けるつもりはない。それを知ってパルとメルが危険になるとは思わないが、転移魔法の開発者は人間を生け贄に使った。用心に越したことはない。



「すまんな。返す言葉も無い。話せないのは個人的な事情が有るからだ。」



 シャル様の下僕である俺と、深い関係だと知られる事も良くない。その凶性から人間達より、恐怖と悪夢の代名詞とまで謳われたのがシャル様だ。俺が臣従している事がバレたなら、必ず探索の手が入る。そうなると浮かび上がるのがパルとメルだ。


(追及されるのが俺なら何も問題はない。だが……………パルとメルに迷惑は掛けられねぇ。)



 黙っているのが気に入らないのか、さらにパルが畳み掛けるように怒鳴る。



「お前にとって俺達はそんなに頼りねぇのかよ!俺達が弱い雑魚だから話せねぇのか?それだけでも教えてくれよ!」



 パルの言葉が染み入る。それは乾いた砂が水を吸うようなものだ。心の篭らない美句麗句を百万言ならべても、心の篭った真摯な言葉ほど胸に訴えかけるものはない。


(すまねぇ……………堪忍してくれパル……………)



 俺の沈黙を肯定と捉えたパルは激昂した。



「街の連中とは違って、孤児に偏見持たねえ良いヤツだと思ってた俺の間違いだ!どこなりとも行きやがれ!!」


 そう言うと躊躇うメルを強引に連れ、食堂から飛び出した。






  *





 ウルクに来て約半年、慣れ親しんだ宿であるタンポポ亭の女将さんに別れを告げ旅立つ。

 初めての来訪した人間の街ウルク。パルとメル、露店のチンピラ、ポーメ爺さん、武器屋の店員、ウサギ貯金、色々あった。



 半年という短い期間だったが、言い表せない濃さがあった。一般常識にうとく、右も左も判らない俺を助けてくれたパルとメルには感謝してもしきれない。恩返しと思い、黒い森で無茶させたのは苦い思い出だ。とはいえ必要だから無茶させたことに後悔はない。



 そろそろ城門が見えてくる。あの城門を潜り抜ければウルクとはサヨナラだ。ふと見ると所在無げにメルが一人で佇んでいる。それを見て足早にメルに近付いた



「メル!見送りに来てくれたんだ。嬉しいぜ。」


「ジロキチさんには凄く御世話になりました。見送らないなんて有り得ません。はい、これお弁当です。」



 嬉しい。本当に嬉しい。ケンカ別れしたものと思っていただけに、見送りは無いだろうと考えていた。だからこそ、この見送りと弁当は有難い。



「それと、ごめんなさい。パルは意地を張って来ませんでした。後で叱っておきます。」


「メル、パルの事は叱らないでやってくれ…………アイツも男だから意地も張るよ。男同士は色々有るんだよ。」



 思春期だから仕方無い。誰だって意地張って大人とケンカするものだ。そういうものとして受け止めるしかない。それよりもメルが来てくれたのでアレを渡せる。



「この前のアレでパルのナイフを破壊しちまったから、コイツをパルに渡してくれ。」



 背嚢から一振りのナイフを取り出す。鋼鉄のナイフだ。破壊したナイフの代わりになればと思い。例の武器屋で購入した。金貨8枚もした逸品だ。俺のミスリルナイフを渡しても良かったが、主君からの下賜品はおいそれと渡せない。



「Cクラスでも通用するナイフだ。パルへの餞別に渡すつもりだったが……………。俺の替わりに渡してやってくれないか。それと、これも2人で使ってくれ。」



 もう1つある。それはエラさんが持たせてくれたポーションだ。効果は折り紙付きで、欠損だろうが消し炭だろうが、全く関係なく回復させる脅威の回復薬だ。これを人目に付かないようにコッソリ渡す。



「そいつは超強力なポーションでな。即死以外は完治させる恐ろしいシロモノだ。切り札として持っとけ。但し、絶対に他人に知られるな。パルにも言うな。アイツは隠せない性分だ。」


「パルはああ見えて情に脆いだろ?困った人がいれば必ず助ける。その点、メルなら自制出来るし計算も出来る。そいつは本当にヤバい物だ。バレたらお前らを殺してでも、奪おうとするぐらいの代物だって事を忘れるな。」



 俺の強い口調を聞いて、緊張したメルが頷きながら言う。



「分かりました。絶対に言いません。このポーションは私が責任を持って管理します。」



 そうだそれでいい。メルは可愛い犬耳っ子だけじゃあない。孤児として育ち、伊達に厳しい世間の目を受けて育っただけはある。冷静に客観的に、そしてシビアに物事を判断出来る。自分とパルと孤児院、ギリギリで俺、それ以外は信用しないだろう。



「最後にアドバイスだ。色々悩んでいるだろうが、討伐をメインに考える必要はない。メルは既に優秀なスカウトだ。この先、戦い続ければ魔力は問題なく上がるだろう。それを戦力に割り振ってもいいが、感覚を強化しても良いと思う。」



 困惑気味にメルが尋ねる。



「感覚ですか……?それは一体どういう事ですか?」


「強化魔法は身体の強化だけではないんだ。五感の強化も出来る。メルご自慢の嗅覚をさらに強化すれば、索敵能力は跳ね上がるだろう。」



 そう強化魔法の身体強化は、筋力だけではなく五感も強化する。視力を上げれば望遠鏡。聴力ならデビ…………地獄耳になる。犬獣人のメルが嗅覚を底上げすれは、間違いなく強力な武器になるだろう。



「教えることが出来れば良かったんだが、他種族との感覚の違いを上手く説明できねぇ。済まないが試行錯誤しながら、感覚を掴んでいくしかないな。」


「いえ、大丈夫ですよ。今までだってパルと2人で試行錯誤してきました。それと同じです。」



 迷いなく言い切るメルの顔は、自信に満ち溢れている。迷いの無いその顔は、パルとメルの将来に何の不安を感じさせない。例え何があろうとも2人で未来を切り開くだろう。


(強いなぁこの子は……………………。パルよ、お前じゃメルに太刀打ち出来そうにない。将来、カカァ天下で間違いなしだ。頑張って生きろよパル!!)



「そろそろ行くよ………。ありがとうなメル。名残惜しいけどサヨナラだ。」


「こちらこそ、ありがとうございました。ジロキチさんの事は忘れません。また会える日を楽しみにしています。」



 丁寧に頭を下げ、別れの言葉を伝えるメルの様子は堂に入ったもので、とても15歳には見えず、同世代かと錯覚させるものだった。



「おう!またな!」



 大きく手を振りながら、俺はゆっくりと歩き出す。渡すべき物を渡し、話すべき言葉を話せた。これで2人に関しては心置きなく旅立てる。そう思える気持ちが足取りを軽くした。








 あとは金魚の糞を始末するだけだ。

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