第33話 ポーメじーさん
夕飯はまずまずだった。
ポトフのような煮込み系のスープと、硬いパンのみという質素なものだったが、量だけは十分にある。それを腹一杯平らげる。森の中では保存食だけしか口に出来なかったので、ジロキチは温かい食事に飢えていた。
ジロキチの見事な食いっぷりに、他の客達は唖然としていたのが、ご愛敬である。
たらふく平らげ腹をさすりながら部屋に戻り、扉を閉じた途端に瞼が重くなる。
(このまま寝てはイカン、風呂に入らないと。)
しかし宿に風呂はない。魔法で水を集めて清めるつもりだ。素っ裸になり水を集める。これを魔力で温水に変え、体に纏わせるように漂わせ高速で温水を動かすだけ。
(通称、魔法風呂。野宿用の簡易風呂モドキだ。)
洗い終わると排水を雨どいに流し、濡れた体の水分を魔法で飛ばし乾燥させる。これで全て終わりだ。あとは寝台に横たわって爆睡するだけ、食事と風呂を堪能したジロキチは、五秒も経たずに眠りに落ちるのであった。
*
翌朝、夜明け前にジロキチは目覚める。
部屋で外出着に着替え一階に降りる。すると女将が朝食の準備を始めていた。軽く頭を下げ朝の挨拶を交わし部屋の鍵を預ける。ジロキチは夕食のみで契約していたので、彼の分の朝食は無い。外食で済ますつもりだ。
その足で冒険者ギルドへ向かう。
商売柄24時間営業を強いられる冒険者ギルドは、突発の事態に備えて常に職員が詰めている。深夜早朝であっても通常通り依頼の受注は可能だ。だが、夜明け前である。さすがにガラガラだろうと予想していたが、およそ20人ほどの冒険者がいた。
(早えな。遠出でもするのか?)
彼らの依頼も気になるが、昨日聞けなかったギルドの仕組みについて、確認するのが先だと判断し職員のいるカウンターに向かう。今日は爺さんだ。
「お早うございまーす。依頼受けに来ました。」
ジロキチが大きな声で挨拶する。これではまるで営業の第一声である。しかし、気にしてはいけない。挨拶から既に接触は始まっている。相手に舐められない為にも、元気に挨拶は基本中の基本である。
「朝っぱらから元気じゃのぅ。」
「元気だけが取り柄なんで。初めて依頼を受けますので、G級依頼の紹介と質問よろしいですか?」
年配の職員に昨日、聞けなかった事をいくつか質問してみた結果。下記が判明した事実になる。
1 G級は都市周辺のモンスターだけが討伐対象。
2 黒い森はD級以上しか入れない。
3 昇格条件は依頼の達成数と成功率と難易度の総合判断。
4 複数の依頼を受けることは可能。
5 パーティーやクランにギルドは干渉しない。
6 素材の買い取りはギルド以外でも可能。ただし全て自己責任。
7 反社会的行為は軽度なら罰金刑。重度なら死刑。
8 ランクは世界共通。
こんなものだ。
その場で、都市周辺のモンスター間引き依頼を受ける。しかし、この職員は何でも知ってる。生き字引みたいだ。
(自己紹介して、返礼しないと申し訳ないね。)
「俺はジロキチ。修行中の身で金策の為に冒険者になった。懇切丁寧な説明ありがとう。為になったよ。」
ジロキチの挨拶が意外だったのか、年配の職員は驚いたようだった。おそらく荒くればかりの冒険者で、丁寧に挨拶するジロキチが珍しかったのだろう。
「フム、なかなか弁えとる小僧じゃ。ワシはウルク支部の世話役をしとるポーメという。ポーメじーさんと言えば誰でも知っとるよ。」
(ほーう世話役か。)
ギルドの運営に関与してる顧問的な存在だ。生き字引で世話役なら、肩書き以上のモノを持っている可能性がある。
(たぶん引退した冒険者からの転向組かな?)
どんな業界でも年配のOBに文句は言いづらい。皆、新人の頃にお世話になった経験があるからだ。それがあまりに酷いと「老害」になる。しかし、この爺さんの様子からは、そういったものは何も見えない。このギルドの長老と看て問題ないだろう。
「ところでジロキチよ。」
「何でしょう?」
突然、ポーメから話を振られる。
「背中の金棒を振ってみてくれんか?」
「金棒ですか?いいですよ。」
ポーメにそう言われて少し驚いたが、別に減る物でも無いと思い言われた通りにする。周囲に金棒が当たらない様に、人やカウンターから離れ加減して振る。
ブンッと音が鳴り、ブワッと空気が散った。
他の冒険者から注目されかなり恥ずかしい。ジロキチは赤面した。彼は面の皮が厚く他人の非難には滅法強いが、この手の称賛や注目は苦手だった。
「なかなか良い音を出しよる。お主ならすぐランクも上がろう。精進せよジロキチ。」
「ハハッ、世話役のじーさんに、褒められるとは光栄だ。じゃあ行くよ。色々ありがとう。」
これで準備は完了した。あとは適当な屋台で朝食をとり、間引き依頼をこなそうと思う。
*
ジロキチが立ち去った後、ギルドの奥から、目付きの鋭い女がポーメに近寄る。剣呑とした雰囲気を漂わせる2人。先程までの好好爺とした老人と同一人物にはとても思えない。
「あの男の裏を取れ。」
雰囲気が一変したポーメが、険しい表情で女に指示を出す。
「一体、何者じゃ?」
ボソッと、小さく呟いた声からは緊張が感じられた。
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