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転勤先は魔法の国  作者: NTかわち
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第32話 宿屋タンポポ亭

 宿を探すついでにウルク市街の構造を簡単に調べる。



 ギルド前の道路は都市の中央広場へと続く。いわゆるメインストリートだ。その中央広場を中心に、道が放射線状に広がっている。この放射線状の道の間に家が建ち並び、一番奥が城館エリアである。



 メインストリートの両側はズラリと商店が並んでいる。


 飯屋、飲み屋、道具屋、宿屋、武器屋、それに何だか解らない店など、色々な店が軒を連ねていた。



 呼び込む声が喧しい。


「安いよ!安いよ!うちは一品100リラからだ!」

「各種ポーションあるよ!」

「飲み放題3000リラだ。寄ってかなきゃ損するよ!」



 凄い喧騒だ。大昔に行った歌舞伎町みたいな感じだ。とにかく客引きが多い。店からの呼び込みと一体になって凄まじい熱気が感じられる。見物したいところだが、まず宿屋の確保をするべきだ。



 マルクから貰った皮袋には、銀貨5枚と銅貨8枚が入っていた。銀貨1枚を登録料としてギルドに払ったので、残り銀貨は4枚だ。贅沢は出来ない。



(初めからする気もないけどな。)



 風呂メシ抜きは許せるが大部屋だけはゴメンだ。最低限のプライバシーは確保したい。そうなると裏通りの宿屋でも探すべきか?



(よし、見物がてらブラブラしながら探すとしよう。)



 裏通りに入ると歩行者も減った。



 家同士を縄で繋ぎ洗濯物が干されていた。


 なんとなく生活の匂いがする。この区画は商業区画や冒険者達の通うエリアとは、また違ったエリアの様だ。地元民が住む区画のように思われる。行き交う人も買い物かごを提げた主婦や、ワーワー騒いでる子供ばかりだ。



(来るとこを間違えた?)



 そう考え始めた時に、寝台が描かれた古い看板を見つけた。書いてある文字を読むとタンポポ亭とある。ここは宿屋か?ちらりと中を覗くが誰もいない。



 カウンターに置かれた卓上ベルを鳴らす。


 奥から「はーい。いま行くよー」と声が聞こえた。年配の女将が、エプロンで手を拭きながら、バタバタとやってきた。



「4、5日止まりたいんだが、部屋の空きはあるかい?」


「大丈夫だよ。うちは夕食付きで一泊5000リラだよ。」



 まあ、そんなもんかと思い。宿泊料を5日分前払いした。これで残りの銀貨は2枚だ。



「二階の角部屋が空いているから、そこを使っておくれ。」


「了解、角部屋ね。」


 女将から部屋の鍵を受け取り、早速部屋に向かう。5畳ほどの大きさに、クローゼットと寝台が置かれた殺風景な部屋だ。しかし掃除が行き届いており、シーツも綺麗だった。日当たりも良い。



(イイね。部屋は当たりだ。)



 相場は見当も付かないが、これで夕食付き5000リラなら、長期滞在を考えてもいい。



 背嚢から所持品を取り出し、クローゼットへ仕舞う。ベッドに腰掛けると、ドッと疲れを感じた。自覚していなかったが、慣れない環境で疲労していたのだろう。



(ふぅー、やっと落ち着くことが出来た。)



 やはり個室は良い。人の目を気にしなくて済む。都内の人混みには慣れているが、人間以外の他種族の中で歩く経験は無かった。それにしても、やはり異世界。獣人、エルフ、ドワーフに何でも有りだ。驚きを越え呆れるしか無かった。しかし、自分は日本人。彼らにしてみれば「おまえの方が珍しい。」と思うだろう。



 それが何だかおかしくて、ジロキチはクスクス笑った。




(落ち着いたし、ずっとサボってた装備の手入れでも、久し振りにするかぁ。)



 ボロ布を取り出し、魔法で水を集め、ポンチョとブーツを磨いていく。シャル様から頂いたミスリル製のナイフは、軽く拭くに留める。ナイフの手入れと言えば“研ぎ”だが、とても素人に手を出させる代物ではない。



 よく創作物で、刀を鍛冶屋で研いで貰う描写があるが完全な間違いだ。実際の鍛冶屋はそんな事をしない。研師とぎしと呼ばれる専門の職人が別にいる。



 そして日本刀が持つ独特の色気、あの妖しい光や刃文はもんは研師の手によって施される。



「鍛冶」と比べると「研ぎ」を軽く考える者は多いが、研ぎというものは、高度な研磨技術と何種類もの砥石を使い分け、複数の工程を必要とする高等技術だ。師匠に弟子入りし、何十年も修行を重ね、初めて一人前として認められる熟練の職人芸である。



 あまり知られていないが、刀剣研磨の分野には人間国宝になった人物が5人も存在する。



 それだけ要求される技能が高いのだ。



 しかも、この下賜されたナイフは、ミスリル金属という謎物質で作られている。どんな砥石を使うのか見当すらつかない。大人しく職人に任せるのが無難だろう。




 それに比べて、人一倍扱いが悪いのが金棒こと金砕棒である。



 重量を一切考慮せず、ただひたすらに頑丈であることを突き詰めた結果、武骨どころか禍々しくすら感じる質感とフォルム。材質はギガステン鉱石と呼ばれるファンタジー金属だ。その特徴は、超重くて硬い。それだけだ。



 おそらくドワーフ製だが、どんな精練や加工をしたのか全く解らない。大陸中を荒らし回った、オーガの親玉が持っていた武器とだけ聞いている。



 幾多の犠牲者の血を吸った上に“悲劇的”な親玉オーガの末路から、呪われていたとしても全く驚かない。いや、呪われている可能性の方が高いだろう。しかし、ジロキチにはシャル様の指輪がある。この指輪がある限り精神攻撃は無力だ。



(そもそも俺にとって、呪いよりもシャル様の方が怖い。)



(呪いは目に見えないし触れることも無いけど、シャル様は現実の存在だからね。そんな不確かな存在よりも、シャル様の造り出す地獄は確かに存在するんだ………………。)




 そんなこんなで装備品の手入れを終えた頃、女将さんから夕食を告げられた。

いつの間にかブックマークを10件頂きました。

ありがとうございます。

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