第29話 ついに人間と出会う
出発してはや3日。
未だジロキチは人間とは出会えていなかった。
何度目かのモンスターの襲来を蹴散らしながら進む。走らず歩いているので、エンカウントする機会が増えた。昨日は巨大イノシシに襲われた。
藪がガサガサしたと思った、その直後、いきなり突進してきたのだ。だが、彼の問題ではなく難なく回避し、そのままやり過ごそうと思い、先に進んだ。しかし、その猪は何を思ったか、何度も突進を繰り返すのだ。仕方がないので、素手で腹パンし昏倒させてやった。
なぜイノシシは異世界でも狂暴なのか? これが分からない。都市部の人は野生イノシシを知らないと思うが、イノシシの狂暴性は日本の野生動物の中でも、ヒグマの次ぐらいに危険だ。
しかも以外に大きい。日本で捕獲されたイノシシの最大記録は240kgのオスである。ちなみに月の輪熊が120kgだ。なんと月の輪熊の2倍の重さだ。それが時速40kmで走る。この体重の突進でキバが刺さると、成人であっても足の動脈を余裕で貫通する。
絶対に近寄ってはいけない。
ジロキチが腹パンした個体は500kg以上あるだろう。一般人なら即死コースだ。あのイノシシはこちらが人間だと判断していた。それでも執拗に突進を繰り返したことから、ヒトとの戦闘経験があり、かつ「負けた」のではなく「勝った」経験があるからだろう。
(普通の動物は、痛い目に会うと学習するからね。あのイノシシに敗れた人達はどうなったのか?あんまり知りたくないね。)
しかし、異世界は何でも巨大だ。魔力が影響している可能性もある。ジロキチは動物が大きくなっても何とも思わないが、ムカデ・ゲジゲジのような足が多い、グロテスク系は本当に勘弁して欲しいと切実に思っていた。
忍よる影、無数に蠢く足、飛び散る体液。
(冒険者になって、討伐金が出たとしても絶対にイヤだ。勝つとか負けるとかの問題じゃなく、精神的に太刀打ち出来そうにない。ダメだ。考えただけでも鳥肌が立つ。)
(こういう時は、余計な事を考えず走ろう。走って邪念を振り払うべきだ。)
ジロキチそう考えて無心に走った。
数時間ほど森の中を跳ねるように走っていると、前方から怒号と剣戟の音が聞こえる。
(おお、ついに人間と遭遇か?)
新作戦も思案済みだ。行くしかない。全速力で駆ける。もはや走るというよりも、数mを飛ぶといった状態だ。
(捉えた!)
木々が無く拓けた広場で、豚人間が5匹と人間3人が戦っていた。人間が3人倒れている。劣勢だ。あの豚人間が竿師で有名なオークと呼ばれるモンスターだろう。一丁前に槍と棍棒で武装している。
ジロキチが不埒な考えをしている間も激闘は続いていた。彼は加勢するつもりだ。当然、人関側だ。オークとコミュニケーションを取れるとは思えない。瞬間的に距離を詰め、彼らの前に飛び出した。
ドゴオオォォォォォォン!
ゴロゴロゴロ。
(やってしまった!勢いがつきすぎて着地に失敗した。くっそ、大恥かいちまった。しかし、間に合ったぜ。よし作戦開始だ!)
名付けて【8代将軍オラつき作戦】だ。
江戸に蔓延る悪を裁くため、あえて身分を隠し、貧しい旗本として市中を見回る上様。
超有能な上様の索敵能力は驚異的だ。
“かならず”悪人に絡まれた町娘を見つけ出し、優れた剣の腕前で助ける。そして唐突に自己紹介を始めるのだ!!
「オレは貧乏旗本の三男坊、得田新之助」
これだ!これしかない!
(この無理やり感がたまらんね。)
オラつくオークを締め上げ、感謝されつつ、勝手に自己紹介。まさに王道である。
よーし、まずオークを血祭りだ!
クケケケケと奇声を上げながら、ジロキチはオークに突擊する。
「オラッ、作戦のために死ねや!!」
振り上げた金棒が命中する。1匹目は衝撃で腹部が消しとんだ。2匹目が慌てながらジロキチを槍で突く、それを掻い潜りながら接近し、下から上へアッパー気味に金棒を振い抜いた。確認するまでもないミンチだ。
3匹目は棍棒を上段に大きく構え、雄叫びを上げながら接近してきた。ブンッと棍棒が振られるが、素手で掴んで動きを止め頭突きで黙らせた。
これで3匹は始末した。残りは2匹。問題ない。だが、仲間の惨殺を目撃したオークは戦意喪失し逃走した。
(いまだ!ここしかない!このタイミングだ。)
「オレは 貧しい下僕の ジロキチ。」
テンプレ通りのセリフを言おうと、生存者に向かって振り向くと、そこには誰一人居なかった。残されたのは倒れ込んでいる2名の冒険者しか居なかった。
「まさか、擦り付け?」
擦り付けとは、他者へ手に負えないモンスターを押し付ける行為だ。もちろんマナー違反。礼すら言わずに逃げるとは。呆れて物も言えなかった。
(倒れた2人もそのまま放置しやがった。仲間を見捨てるとは見下げ果てた奴らだ。)
仕方がない。怪我を負い残された2名の様子を診るため、ジロキチは彼らに近づくのであった。
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