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1-6

 洞窟は山の岩肌にぽっかりと口を開き、見たものを不快にさせるような不気味な雰囲気、つたが絡み、そこかしこに気持ちの悪い虫が這っている


「相変わらずだな、ここは」


 そのまま虫に構うことなくルーナを抱えて洞窟へと侵入する

 ガシャガシャと鎧の足音を響かせながら聖魔法の一つ、ライトで明かりをつけると、その不気味な中が照らし出された

 まっすぐ遠くまで続く長く暗い道、それは下へ下へと下っていた

 しかししばらく進むと不気味な気配は全くなくなり、それどころか整備された道に光の魔法が入ったカンテラによって誰かがここを出入りしていることが分かった


 下り道の先、そこには木で出来た装飾の施された扉がある

 その扉に手をかけて引くと、整備が行き届いているのかスーッと開いた

 開いた先には玄関と思しき小部屋があり、メイド服の女性が出迎えた


「いらっしゃいませ~、こちら大賢者トロンの豪華絢爛素晴らしきお家でございま~っす」


 あまりにも唐突な元気よく響く女性の声に圧倒されつつ、それがトロンお付きのメイド型ホムンクルス、マリーであることが分かった


「やぁマリー、久しぶりだね」


「あらあらあら~、アルさんじゃぁないですか~」

「どうしました?トロン様の後を継ぐ決意ができましたか?」


 実をいうと彼、アルサスことアルは賢者トロンに認められるほどの魔導の素質を持ち、トロンが弟子をとった唯一の人物である

 それ故にずっと後継者としてすべての術を受け継ぐよう誘われてはいるのだが、かねてよりの夢であった魔導兵士になるため国の兵に入隊した


「いや、違うよマリー」

「トロンおじさんいる?」


「はい~、あの人は~、いつでもいますよ~」


 手をチョイチョイとこまねきアルを招き入れると、そのまま奥の部屋へ案内した


「お~いトロン様~」

「トロン様~」

「……」

「あれ?起きてこないな~」

「おいおっさんコラ!」


 急に口調を変えてキッと部屋の奥を睨め付けるとその奥にいるグースカ眠りこける初老の男の姿が見えた その男をマリーが力を集約させた拳で殴りつける

 寝ていたベッドごと男は地面にめり込んだ


「ふぐぅうう」という潰れた悲鳴と共に男の体はくの字に曲がる


「起きましたか~?」


「あ、あぁ、おはよう、マリー」


 優しそうな声、見た目もいかにも温厚なおじさんといった顔だ


「おやおやおや、アル君、私の後継者になr」


「なりません」


 即答されシュンとなるトロン


「そんなことよりこの子を見てください」


 ルーナをいつの間にか治っていたベッドに寝かせる


「なんだ?この子は」


「わかりますか?」


 トロンは顔に生えた無精ひげを撫でながらじっくりと観察する

 今まで見たことのない生物だった

 この世界にはエルフやドワーフ、翼人や果ては悪魔まで、人に似た種族はたくさんいる

 しかし少女の身体的特徴はそのどれとも当てはまらないし、当てはまるともいえた

 翼は翼人や悪魔の特徴に似ており、尻尾は竜人、角は角人

 ただ、あくまでも似ているのであって、当てはまってはいないのだ


「見たことない種族、だね」

「それに、この力」


 今はもれていないはずの力をあっさりと視るトロン


「これは、この世界の者じゃない」


 トロンの衝撃的な一言に目を丸くしながら驚いた


「どういうことですか師匠、この子は、別世界から来たとでもいうのですか?」


「うん、そうだね、体内の魔素、いや、魔素なのだろうかこれは」

「とにかく流れる力が全く違うんだ」


 ルーナの体内を流れる圧倒的な力の流れを感じる

 トロンはふさふさの毛におおわれたルーナの体を触り始める


 ドガァ!という音がしたのでアルがトロンのいた場所を見ると、そこにはマリーの腕があり、そのまま目線を前にすると、壁にめり込んだトロンの姿があった


「セクハラですよ~トロン様~」


「待て待て、マリー、これは触診だから、傷がないかとかどんな特徴があるのかとかいろいろ調べることがあるんだってば!」


「それはつまり…」

「セクハラですよね~?」


 ちょっと目が怖い

 アルは改めてマリーのご主人に対する異常な愛を感じて引いた


「とりあえず、引っ張って抜いてくれるかな?」


 アルはトロンの腕を引くと、壁から引き抜いた


 それからルーナの調査を終え、結論、やはりこの世界の生物ではないことが分かった以外何もわからなかった


「で、この子をどうしたいの?」


「はい、宮廷魔導士様はこの子を世界を滅ぼすものだとか破壊の権化だとか言っていたのですが」

「僕にはそうは思えません、ただの女の子にしか」


 トロンはコツンとアルの額をこずく


「表面だけ見ていては足元をすくわれると教えたはずだよ?」

「この子は本当に破壊の権化じゃないと言えるのかい?」


「それは…」


 答えられない

 確かにルーナが攻撃され、泣きながら謝り続ける姿に同情し、助けたくなったのは事実だ

 それがもしかしたら作戦で、機会をうかがっているのかもしれないのに

 それでも、直感が彼を動かす

 少女を助けなければならないと


「でも、僕は、この子を助けたいです」

「この子はあの猛攻の中どの兵士にもかけらほどの敵意を出しませんでした」

「だから、僕はこの子を信じてみたいんです」


 トロンはふ~とため息をつく


「甘い、甘いねぇ相変わらず」

「でも僕は君のそんなところを気に入っちゃたからねぇ」

「よし、僕も手助けしよう」

「ひとまずここにいればこの子の異様な力も漏れることはないし」

「回復するまでここで匿う」

「そのあとのことはそのあと考えよう」


 アルは彼の言葉に感謝した

 やはり、師匠はどこまでも優しくて、素晴らしい自分の師匠なのだ

 にこやかに微笑むトロンはそっと布団をルーナにかけると回復薬を調合し始めた

 それを鎮痛剤や睡眠薬とともに飲ませ、回復を待って少女自身から話を聞くためだ


 それから数日後、無事ルーナは目を覚ました


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