滅びに向かう世界1
オルファスでは戦いの準備が着々と進んでいた
世界中から実力のある冒険者、高名な賢者、剣豪、格闘家などが女神二人の元へと集まって来た
その中には先の戦闘でアナサ達を止めるためにルーナと共に戦った冒険者たちもいる
敵対していた者同士も手を取り合っていた
お互い確執はあるがそんなことは言っていられない
「ほんとにこの世界が救えたら私に…。 家族をくれるんでしょうね?」
アナサはそう女神に聞いた
アナサが魔人になってしまった理由、人を食べるしか生きていくすべがなかった理由
女神はそれを理解していた
アナサは自分を愛してくれる家族が欲しかった
姉のようなピニエだけではなく、父親や母親が
彼女の両親は既に死んでしまっているが、女神をもってすればそれは些細な問題だった
「えぇ、あなたに温かい家庭を、優しい両親を、そして平穏な暮らしを与えましょう」
「そう、じゃぁ協力したげる。 いいわよね? ピニエ」
「アナサがそれでいいのならぁ、あたしは構わないねぃ」
他の魔人たちも同意した
それぞれ女神から条件をもらっていたので異論はないようだった
彼らはもともとが皆不幸と偶然が重なり魔人化してしまった者たちである
幸せになりたいという気持ちは他の誰よりも強い
着々と準備の進んでいく中女神たちは何かを始めたようだ
それは勇者召喚のための儀式
再び彼女を呼ぶために
東京のとある場所
そこに一人の少女がいた
彼女は数ヵ月行方不明になったのちに突如として帰って来た
周りから騒がれたが言っても誰も信じてくれないだろうと思い記憶がないと一点張りをした
彼女、桃は確かに勇者として戦っていた
しかし今ではそれもどこかで見ていた夢なのかもしれないと思った
両親も友人たちもそんな彼女を奇異の目で見るようになっていた
この世界にもはや桃の居場所はない
ただ一人、彼女の話を信じてくれた男がいた
元刑事という立場にありながら熱心に桃の話を聞いて信じてくれた
それどころでなくルーナのことを知っている男
ルーナは彼の養子でもあったのだ
今心を許せるのはその男、石野だけだった
彼とはたびたび連絡を取り合える仲となっていたので悩みなどを良く聞いてもらっていた
そんな日々が続いていた桃が自分の部屋で呆けていると目の前に光が現れた
「これ、は…」
この光を知っていた
数ヵ月前自分を召喚した光
「また、あそこに行けるの?」
桃は考える間もなく手を伸ばす
「石野さん、お父さん、お母さん、私、もう一度行ってきます」
そして、再びあの世界へと召喚された
勇者として