2-13
リゼラスは動かない
魔王の後ろに控えるように立っている
「どこを見ているんだい?」
そう声をかけられたときにはすでに魔王の鋭く伸びた手が目前に迫っていた
それを楽々躱すとのびた手を掴んで引っ張った
中空へと引き上げられ、そのまま地面に叩きつけられる魔王仁
すぐに体勢を立て直すと今度は魔力で作り出した闇を纏う剣を突き出した
その切っ先がルーナをかすめると、ほんの少しついた傷跡から呪痕が広がった
「うっ、熱い」
呪痕はどんどん広がっていく
お姉ちゃん、変わって!
うん
ルーナはサニーに体の主導権を譲った
すぐにサニーは呪痕を爪ではぎとる
血が吹き出たがその傷はすぐに再生し始めた
「へぇ、そんな方法で止めちゃうなんて思わなかったよ。 じゃぁ、体中に呪いをかけたらどうなるのかな?」
呪いの剣の数を増やすとそれらが宙に浮き始めた
仁の周りを剣が回り、回転鋸のようになった
一撃でも当たればそこから呪痕が広がって行ってしまうのでサニーは集中してぎりぎりでかわしていく
「速いね、こんなに当たらないなんて初めてだよ。 おい、お前、手伝えよ!」
リゼラスに仁が呼びかけた
リゼラスのことは捨て駒のように使っていいと言われていたのでサニーの動きを死んででも止めさせようと思ったのだ
そしてリゼラスは動き出す
仁に悟られないよう素早く、彼の背後に回り込むと彼を抑え込んだ
その際剣が彼女の体を傷つけ呪痕が広がり始めたがそんなことも構わずに仁を引き倒した
「何を! 僕は味方だぞ!」
「あなたをここで止めます。 この世界の人々のためにも!」
洗脳の解けたリゼラスは本来の性格に戻っていた
人を思いやり、正しい心を持った本来のリゼラスに
呪痕が広がり蝕んでいく
「早く! 討って!」
サニーは一瞬戸惑ったがすぐに仁の首に腕を振り下ろした
「や、やめっ」
グシャッという音が響き、仁は頭をつぶされ痙攣しながら息絶えた
呪痕が体の半分ほどに広がっているリゼラス
サニーはルーナに体の主導権を譲る
リゼラスに駆け寄りすぐに呪痕を力を使って取り去った
と言っても皮を剥ぎながら痛みを感じさせないほどの高速治療を行っただけなのだが
「私を、助けるのですか? 私はあなたへの憎しみであなたの家族を皆殺しにしたのですよ? あなたがあの時力の暴走を抑えられなかったということが分かっていながら…」
それは長い間自分の両親の敵の情報を追っていくうちにわかっていたことだった
本当に彼女を憎んで殺すべきなのだろうかと悩んでいた時アストが召喚され、彼に心の闇を広げられた上に洗脳されてしまった
「私は…。 わたしだってどうしたらいいのか分からない。 私はあなたに殺されても仕方のないことをしたし、あなたも私の大切な人たちを奪った。 それは許せない。 あなたを今ここで本当に殺したいくらい憎い。 でも、それじゃぁダメなんだと思う。 それじゃぁ私は本当にただの破壊神になってしまうから」
リゼラスの肩に手を置いて彼女を抱きしめた
お互いに理解しあうために
彼女らは和解した
そして、この世界を、自分たちの元いた世界を救うために動き出した
邪悪な勇者を討つのだと誓った