リゼラス
少女キュレスはルーナの後を追うため走る
縦横無尽に移動するルーナを捕らえるのはかなり難しく、イライラしていた
そこで気づく
「考えてみればあっちは魔王を探してるんだったわね。 だったらあいつの元にいればいいんじゃない。 あたしのバカバカ!」
一人恥ずかしそうにしているキュレスは魔法で宙に浮くと空を飛んで移動し始めた
ルーナと比べればずいぶんと遅く、とてもではないがルーナに追いつけないだろう
だが彼女は魔王を探している
魔王の元にいれば向こうからやってきてくれるのだ
そのままキュレスはリゼラスとグリドがいる魔王の元へと戻って行った
魔王の潜伏する小さな村
ここの住人は全員がすでに操られており、魔王が何をしていようが誰も不思議に思うことはない
魔王である三崎仁はその村で気晴らしのように村人を殺害していた
一日に一人、彼の前に連れ出されて殺される
しかもその殺すときには洗脳を解き、できるだけ悲鳴を長くきくためにゆっくりとじっくりと時間をかけて殺していた
彼は元の世界にいたときから小動物を虐待して喜んでいた根っからの嗜虐者である
「ひどいことしてるわね」
キュレスが魔王の元に戻ってくると仁は老人の男を拷問している最中だった
「やぁ君か、どうしたんだい? 一人で勇者を殺すって言ってなかった?」
老人の悲鳴が響く拷問室の中で二人は話し合う
「別に、あのガキ、あんたを探してるんだからここにいれば勝手に来ると思っただけよ」
「ハハ、それもそうだ」
手と顔を血まみれにしながら仁は笑っている
「てかそんなじじぃ痛めつけて楽しいの? 若い方がもっといい悲鳴あげてくれるんじゃない?」
「僕はね、好きなものは最後に取っておく主義なんだよ。 子供は最後、その方が楽しみが増すってもんだよ」
さわやかな笑みを浮かべているが、仁に対してキュレスはゾッとした
こいつ、かなり頭壊れてるわね
相変わらず仁は手を止めずに老人をいたぶり続けている
老人は目を見開いて死亡していたがそれでも尚骨を折る手を、体を切り裂く手を止めない
老人から完全に血が失われ、体に傷がない場所がなくなり、やがて細切れになっていく
もはや人の原型をとどめなくなってから満足したように息を突いた
「さてと、ちょっとはストレス解消になったかな。 で、どうする? 僕はまだ動きたくないし、君たちもここで勇者が来るのを待つかい?」
「そのつもりよ。 ところで、リゼラス達はどこかしら?」
「うん、村の端にある小屋にいるよ」
魔王に教えられた小屋まで行くと、リゼラスとグリドは中でおとなしく待機しているようだった
「キュレス、どうしたんだ?」
「何でもないわよ。 ここであの化け物を待つことにしただけ」
「そ、そうか」
自分はなぜキュレスに気を使っている? あれ? 私とキュレスは姉妹のように仲が良かったはず?
脳に不思議な電流が走るリゼラス
疑問がどんどん違和感へと変わっていく
「何見てんの? 殺すわよ?」
キュレスにそう言われ目を伏せたが、疑問はぐるぐると頭を駆け巡っていた
キュレス、ちゃん? あれ? 私は何を思って…。 グリドさんも何も言っていない。 おかしいのは自分なのかな? あれ? おかしいって、なんでこんなこと思ってるんだろう?
おかしい、おかしくない、おかしい、おかしくない、アスト様…。 アストってだれ?
皇帝を守らなくては、いや、皇帝は死んだからいいのか? 皇帝が死んだ!? なんで?
アスト様を守らなきゃ…。 ルーナを殺す! あいつは許せない! なんで? 両親を殺したから!
リゼラスに対するアストの洗脳が解けようとしている
アストの洗脳は完ぺきだ
通常解けるはずはない
しかし、リゼラスは特異体質だった
洗脳に耐性が生まれつきあったのだ
そのことは本人も知らず、当然記憶を読めるアストも知らない
本人が知らないことは読めないからだ
脳に電流が走るように洗脳を打ち破っていく
逃げなきゃ、アストから、ルーナにこのことを伝えなければ。 わかってる、あの子は両親の敵、でも、あの子の意志じゃないことはわかってる。 だから、あの子に伝えなきゃ、アストの正体を!
パキーンとガラスの砕けるような音が頭に響き、リゼラスの洗脳は完全に解けた
しかし今は動けない
キュレスもグリドもリゼラスより強い
二人相手では逃げるにしても分が悪すぎた
だから彼女は機会をうかがうことにした