魔王と騎士
転移が完了したリゼラスはすぐにルーナの位置を確認した
まともに正面からやりあって勝てる相手ではないことはこの数回の戦闘でわかっている
しかし今回はキュレスがいる
一見ただの少女だが、彼女もグリドと同じくドラグリオ帝国の七英騎士の一人である
グリドと同程度の実力を持つ魔導騎士だ
手に持つのは聖杖アルカナム、魔法の威力を数段あげてくれるだけでなく、地面に突き立てることで無数の光の槍が突き出し敵を襲う
さらに彼女にはアストから特別な力を与えられていた
ルーナの力を奪い取る力だ
攻撃が当たればそこからルーナの力を奪い、その力はアストへと帰っていく
「さて、リゼラス、グリド、私は単独であの少女を殺してきますので、あなたたちはここで待機していなさい」
偉そうにふんぞり返るキュレスだが、それだけの実力がある
しかもリゼラスとグリドは同僚であるにもかかわらず逆らえない
アストの洗脳がいきわたっている証拠だ
素直に頭を下げる二人はその場で待機することになった
何日、何週間、何か月かかろうがこの場を動くことはないだろう
キュレス自身はそんなにかける予定などないが…
「えーっと、方向はっと…。 あっちね」
キュレスは魔法で宙に浮かび上がるとルーナのいる方向へと飛び立った
その直後のことである
リゼラスとグリドに忍び寄る影があった
「これはこれは、面白いね」
「誰だ!」
リゼラスがその声の主に向かって剣を突き付ける
立っていたのは男、少年だった
「おっと、僕は敵じゃないよ。 まだね」
「まだ?」
「君たちの出方によるかな。 君たちは何者でこの世界に何をしに来たの? 僕が世界を滅茶苦茶にするのを邪魔するなら敵だよね」
「邪魔などするつもりはない。 私たちの目的はルーナという少女一人のみ」
その名前を聞いて少年は笑った
「なんだ、じゃぁ僕は味方になりうるよ。 なんてたってその子、この世界で勇者に認定されてるからね」
少年は楽しそうに笑っている
「お前は何者だ?」
「あぁそうか、まだ名乗ってなかったね。 僕は三崎仁、この世界で魔王をやらせてもらっている異世界人さ」
その後、リゼラスは魔王と手を組んだ
目的は勇者の殺害
同じ目的を持つために組んだだけで仲間とは言えないが、一時的にでも戦力は強化するに越したことはない
リゼラスは意志を奪われていながらも考えることはできた
恐らくだがキュレスではルーナに勝てない
それは幾度となく戦ったリゼラスが一番よくわかっていた
ルーナを少し強いだけの少女とみて侮っているキュレスでは無理だろう
だが逆らうことはできない
そのため忠告もできなかった
アストに洗脳される前はまるで姉妹のように仲が良かった二人
その時の思いがまだわずかながら残っていたリゼラスはキュレスが死地に向かっていったことを心の奥底で悲しんでいた
「まぁ、君たちはちょこちょこ協力してくれればいいからさ。 僕に任せておいてよ」
魔王自らがルーナを消してくれると言っている
ならば自分たちも手を貸せと言われるまではおとなしくしていようと思った
下手に手を出せば以前のようにルーナに完膚なきまで叩き伏せられるのが落ちだ
次に失敗すれば自ら命を絶たなければならない
あれ? 自ら命を? なぜ?
リゼラスの中に産まれた疑問という名の波紋
それはやがてリゼラスの中で大きく大きく広がっていくこととなる