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1-4

 倒れているルーナにふらふらと近づく石野、手を伸ばしルーナを抱きかかえ、その顔を見つめる

 顔は特に変わっておらず、少女の愛らしい寝顔のように見えるが、頭上には禍々しく曲がった角

 手に当たるのはフワフワの羽毛が生えた翼とぺとぺとした翼膜が張られた翼、そして長い長いトカゲのような尻尾

 ルーナの体はその姿に比べて年相応に軽かった


 周りで倒れていた子供やその両親たちが目を覚まし始めたのが見え、慌ててルーナをコートで隠しつつ家に戻った


 すぐに布団を敷き、そこにルーナをそっと寝かせる

 それから数分でルーナは目を覚ました


「う、うぅ」


「目、覚めたか?」


 声のした方を見ると、横に石野が座っていた


「私、どうなったの?」


 自分の胸元を見るが、先ほど刺さっていた槍は無く、傷跡すら見当たらないのでただの夢かとも思う

 しかしあの時の痛みは確かにあったし、心臓を槍が貫き破裂させた感触も生々しく覚えている


 石野は何も話さない

 どう言っていいのか分からず口ごもっていると、ルーナは自分の体の様子に気づいた


 手に触る翼と、尻尾にある布団の感触、頭に手をやるとそこには角


「ルーナちゃん、君は一体…」


 そこで思い出す先ほどの惨状、ルーナは子供たちとその保護者が無事回復したのを知らない

 みんなミシュハたちと同じように殺されたと思った


「あ、あああ、ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい…」


 謝り続ける目の前の少女

 あの訳の分からない黒騎士たちと何があったのかはわからないが、ルーナは自分たちを助けてくれた

 あのままルーナが黒騎士たちを退けてくれなければあの場の全員が殺されていただろう

 石野はそっとルーナに手を添えて大丈夫だと声をかけてやろうとする

 が、その手は何かにはじかれる


「なんだ、これは」


 バチバチとルーナの周囲を電磁場のようなものが包み始め、広がっていく


「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい…」


 泣きながら謝り続け、やがて電磁場は収束し、ルーナごと消えた

 布団にわずかなピリピリという静電気のようなものだけを残して—――


「消え、た?」

「ルーナちゃん、どこへ行ったんだ?…」


 完全に消えてしまった

 目の前で起き続ける様々なあり得ない現象に石野は戸惑った


 翌日にはこの一連の事件は集団催眠によるものと処理される

 事実誰一人として怪我すら追っていないことに当の本人たちもそう思い込むことにした

 ただ、一人の少女が行方不明として写真と共に連日ニュースで取りだたされることになる




―――――――――――――――


 気づくと外にいた

 うずくまっていたので気づかなかったが周りは森で、空にはきらきらと満天の星が瞬いていた

 涙をぬぐい、立ち上がると周囲を見渡す


「石野、おじちゃん?」


 石野の名前を呼ぶが、彼の姿はどこにもなく、ただ虫の声や夜鳥の声が響くだけ

 自分の体を見回すが、羽や角やしっぽは生えたままだ


「どこだろう?」


 何か居場所などがわかるようなものは周囲にはなく、しばらく歩き回ってみるが道もないためどこへ向かったらいいのかもわからない


「私のせいでみんなが傷ついて、死んじゃったからきっとその罰なんだ…」


 誰に言われるでもなくそう思った

 それは虐げられ、いつもお前が悪いと言われ続けたゆえ、思考回路が自らを攻めるように出来上がってしまっていたから


 とにかくまっすぐに進み続けるが、森が深くなるばかりで恐怖心が増してくる

 たった一人で暗い森をさまよい歩き、泣き出した


「ここ、どこなの?」


 森が深くなるにつれて不気味な気配が増してくる

 木々は風もないのに揺れ、ガサガサと草むらから音がする

 その草むらから巨大な甲殻虫のようなものが現れた


「ヒッ」


 それはこちらに気づくと否応なしに襲ってくる

 大きな羽を拾げ、まるで弾丸のように飛んできた


「キャッ」


 なんとか転がるように避けると、それは鋭くとがった角で後ろの大木に突き刺さっていた

 すぐにその角を引き抜くと、再びこちらに突進してくる

 転んでいたため今度は避けられそうにない


「やだ、助け、て」


 パーンと自分の目の前でその虫がはじけた

 どうやら自動で力が発動し、虫を殺したようだ


 恐る恐る立ち上がり、泣きながらまた森を歩き始めた

 まったく勝手がわからない場所でたった一人なことに不安を覚え、その場にうずくまって大泣きし始めた

 まだ幼い少女にとってはかなり酷なことで、泣き始めるのも無理はないだろう

 

 しばらく泣き続け、そのままその場で泣き崩れてしまった


 それを聞きつけてか、周囲を大量の魔物らしきものに囲まれているのにも気づかない

 一斉に襲い来る魔物たちはオートで発動するルーナの力になすすべなくすべてが一瞬で蹂躙された


 あとに残ったのはただ大量の魔物の死体の山

 

 しばらく泣き続けたことで少し冷静になれた

 いろいろ考えを巡らせてみることで一つ思いついた

 いままで翼などなく空を飛ぶという発想なども当然ない

 ならばなぜ背中に翼があるのか?

 もちろん飛ぶためだろう

 空から見れば街、ひいては人も発見できるかもしれない


「飛べるのかな?」


 つぶやきつつ翼をはためかすと、意外なほどあっさり体は持ち上がった


「やった!」


 そのまま上空高く飛び上がり、空中で静止

 ぐるっと周囲を見渡してみた

 夜のため暗いが、ルーナの目は暗闇を昼のように見渡せるので問題ない


 すると、森から外れたところの川沿いに、ある程度整備された道が見えた

 川に沿って進めば人が住む場所があるかもしれない

 そのまま川沿いに飛び、やがて小さな明らかに人が住んでいそうな村を見つけた


 当然そこの近くに降り立ち、村へ向かった

 この時ルーナは知らなかった

 ここはミシュハがいた世界でも、自分のいた世界でもないことに—――


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