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街での人気はうなぎのぼりで、それこそ少し歩いただけで人だかりができるようになってしまった
相変わらず街での依頼はこなしていたのだが、すでにその強さを知られていたためギルドでは指名の討伐依頼まで入るようになってきていた
命を懸けることもあるので当然本人の意思が尊重され断ることもできるのだが、街近くに出る魔物は率先して討伐することにした
それは街の人達が襲われないようにするためでもある
それも人気に火をつける理由であった
一か月はそのようにして過ごし、マナが溜まるまであと二か月ほどとなり、ルーナは街から姿を消した
誰にもばれずにひっそりと、夜中のうちに空を飛んで行ってしまった
この街にはもういられない。 目立ちすぎた
別のところでまたひっそりと暮らそうとも思ったが、魔物が増えすぎた原因を突き止め根絶する
それがひいては魔物の減少と街を救うことに繋がると考えた
お姉ちゃん、どうやって見つけるの? その元凶っていうのを
分かんないけど、多分魔物がいっぱいいるとこにいるんじゃないかな
ふっふ~ん、困ったときのサニーちゃんだよお姉ちゃん
え? どういうこと?
サニーはルーナに得意げに教えた
実はこの力の使い方の一つに探知があったのだ
ルーナは意識を集中させて大きな力の気配を探った
その結果、現在地の草原からそう遠くない位置に何か邪悪そうな気配があるのが分かった
しかも気配は一つではなく、あちこちに点在しており、そのうちのいくつかは相当に強い気配(ルーナにしてみれば取るに足らない)だった
この世界は優しい人が多い
まだ一つの街しか訪れていないがルーナはそう感じていた
できれば彼らの役に立ちたいし、元凶があるならば取り除きたい
予定通り三か月でマナが溜まりきっても転移するのはその元凶を取り除いてからでもいいだろう
ルーナはそう考えた。 その考えにはサニーも快く同意した
草原から飛び立つと、ここからそう遠くない元凶と思われる禍々しい気配の元へと向かった
段々と大きくなる気配、接近に気づいたのか、その気配は逃走を始めた
しかしルーナから逃げ切れるはずもなくすぐに追いつかれた
「くそ! なんだよお前! なんなんだよ!」
気配の元は男、体中からとげの生えたような姿に鋭い目つき、髪はぼさぼさで口からギザギザの歯が見える
男は観念したようにルーナに向き直ると懐からナイフを取り出して投げつけた
それはルーナに刺さることなく尻尾で叩き落とされた
「うげ! それ呪剣だぞ、かすっただけでも致命傷になるはずなのになんで平気なんだよ」
彼女にこの程度の呪いは通じない。 むしろ取り込んでおり、呪剣はその効力を失っている
「なんだよ! こんなのいるなんて聞いてねぇよ!」
男はさらに剣を抜き放つとルーナに斬りかかった
しかし、あっさりといなされて力によって拘束された
「答えて、あなたは何? 何をしようとしてたの?」
男は答えない
だから、少し力を強めた
「ぐぁあああ!! 痛ぇ、痛ぇなぁおい、でもな、言わねぇ。 死んでも言わねぇって」
かなりの痛みが全身に走ったはずだが男は口を割らなかった
しょうがないな、おねえちゃん、ちょっと変わって
うん
ルーナからサニーにシフトすると、その凶悪な気配に男は震え上がった
「な…え? さっきと違…あ、あぁああ」
男は恐怖に支配され、サニーに口を開いた
「俺は、魔王の配下だ。 ここにはある目的で来た」
「ある目的って?」
「それは…」
男は言いかけたところで急に口どもった
「そ、どっ、あぁっ、ぐぶぅっ!!」
急に男が口から血を吹き出し、まるでミイラのように干からびていく
「ぶっ、魔王! ざまっ お許じを!!」
男はそのまま絶命した
まるで何者かに絞られた様にぐしゃぐしゃにねじ曲がっている
「お姉ちゃん、これはなかなかにやばいやつがいるみたいね」
独り言のようにサニーが言う
うん、命を何とも思ってない、早く止めないと、もっと大変なことになっちゃう
「止めよう、二人でならできるよ」
そうね、サニーと一緒だもん、怖くないよ
男を丁寧に埋葬するとサニーはルーナにシフトし、気配を探り始めた
次はここから離れた場所に気配を感じる
この気配をたどって行けばいずれはたどり着くだろう。 元凶の元に
とある場所に一人の男が鎮座している
男はモニターに映った様子を見てほくそ笑んだ
「ほぉ、これはこれは、ついに私を倒す勇者が生まれた、もしくは来た、ということかな」
男はモニターを閉じると不敵に笑う
「これで少しは楽しめそうだな」
彼は知らない、圧倒的な恐怖が目前に迫っていることを
彼は知りえない。 平和な異世界から来た魔王だから