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ここはどこだろう?
胸にあいた穴、そこから血は流れていない。 だがふさがっているわけではなく、心臓をそれてはいるが向こう側が見えるくらいに大きな穴だ
胸の穴を触り確認すると、急激にその穴は埋まっていった
私はあの後、またどこかに飛んだんだ。 そうだ、妹、サニアはどこに?
私はいつもお姉ちゃんと一緒にいるよ
心の中での問いかけに誰かが答えた。 それは頭に響くように聞こえる
だって、私の体はお姉ちゃんにあげたんだもん。 だから私は今お姉ちゃんの中にいるの
私の中? だって、それじゃぁサニアが動けないじゃない
んーん、いいの、私はお姉ちゃんを守るときだけ体を借りれればそれでいいの。 それにね、私たちが手に入れたこの力はもともと一つだった。 今力が一つになったから神様の再生までできるようになったの
そう言われて思い出す。 邪神、いや、あの世界の女神を殺してしまった後のことを
今いる世界に転移する直前、自分の体から何か波導のようなものが流れ出るのを感じた
その波導は周囲を埋め尽くし、傷を負ったものを癒し、亡くなった者を復活させ、存在を消された女神を再生させた
あの力、私たちの力だったんだ
そういうこと
サニアは嬉しそうに答えた
これからはずっと一緒、どこに行こうとも二人なら乗り越えられるから
ルーナはそれを聞いて安心した。 今まで自分がいた世界は仲間はいたものの最終的には彼らに恐怖を与え離れていったしまった。 本当の意味では仲間ではなかったと思った
対してサニアは本当の姉妹である。 幼いころから仲が良かった姉妹。 大切な妹。 たった一人の家族
あ、それと、お姉ちゃん名前変えたでしょ? 私のことも今度からサニーって呼んで。 ルーナお姉ちゃん
うん、わかったよ。 サニー
二人は自分たちを再確認するように呼び合った。 それは二人だけで生きていく決意の表れでもあった
落ち着いたところで周囲を確認するが、ここは何もない広い広い荒野のようだ
見渡す限り地平線が彼方に見えるだけで本当に何もなかった
何にもないねお姉ちゃん
うん、とりあえず進んでみよう
二人は翼を広げて荒野から飛び去った。 音速をも超える速度で…
しばらく飛んでいると大きな城とそれに連なるように並ぶ城下町が見えてきた
飛んでいるのが見られればトラブルになるかもしれないので近くの人気のないところに降り立つとローブで体を覆い隠し、フードを深々とかぶって角を隠した
降り立った場所から歩いて30分ほどでその城下町と外とを隔てる門までたどり着いた
そこは人が多く、中に入るために手続きをしている人々の姿が見えた
うーん、見たところ人間以外の種族もいるみたいだし姿を見られるだけなら問題ないかもね
うん、いってみよう
二人は心の中で相談すると中に入ることにした
ゆっくりと怪しまれないように列に並び、フードを外した
角のある種族も見えたので全く目立っていないようだった
しばらく列を進むといよいよ自分たちの番となった
「やぁこんにちは、お嬢ちゃん一人かい? お父さんやお母さんは?」
兵士らしき男にそう聞かれ戸惑っていると
お父さんとお母さんは死んじゃったので一人で旅してますって言って
と、サニーの声が響いた
うん
「あの、お父さんとお母さんは死んじゃって、一人で旅してるんです」
「一人でかい!?」
兵士はかなり驚いていた
「もしかして魔術師かなにかかい? それならまぁ君くらいの歳でも、いやでも一人だからなぁ…。まぁいいや、大変だったんだね。 これ、少ないけど僕のおやつ、あげるからよかったら食べてね」
兵士は懐から袋を取り出すとルーナに渡した。 袋からはフルーティな香りが漂ってくる
中を見るとドライフルーツが入っていた
「それ、僕の母さんが作ってるんだ。 おいしいから食べてみてね」
ニコリと笑っている兵士、どうやらかなりいい人のようだ
兵士にお礼を言うとあっさりと中へ入ることができた
もらったドライフルーツを食みながら道を歩く。 看板の文字を見ていると、見たことのない文字だがなんとなく理解できた。 これも力の恩恵なのかもしれない
その看板の中に冒険者連盟と書かれた看板を見つけた。 前にいた世界にも同じようなものがあったので稼ぐにはいい手段になるかもしれない。 この世界のお金など持っていないので登録して自分で稼ぐことにした
早速扉を開けて中に入ると、いかにも戦いに慣れていると言った風貌の者たちが一斉にこちらを見た
依頼者だと思ったのかその視線はすぐに下がる
受付へ向かうと受付嬢が笑顔で迎えてくれた
「いらっしゃいませ、冒険者連盟本部へようこそ」
どうやらここが大本らしい。 早速冒険者になりたい旨を伝えると受付嬢は少し驚いた顔をしたが、このくらいの歳の子が登録することもあるらしいのですんなり手続きができた
10分ほどで身分証明書のようなカードが出来上がり、手渡された
そこには自分の名前とランクなどがかかれており、ランクは最低ランクのGと書かれていた
レベル表記もあるのだが、そこには測定不明と書かれていた
「測定不明? あぁ、これはですね、レベル1にも満たない力だとこう表記されることがあるんです。 大丈夫、依頼をこなしていけばレベルは上がっていきますよ」
ほんとはこの世界のレベルではルーナの力を測れなかっただけなのだが、レベルが低すぎても測れないのでそれで納得したようだった
ルーナはこの世界ではなるべく目立たず、仲間を作らずに過ごそうと考えた
そして新たな目標も定めた。 それは、サニーの体を手に入れることだ
いや、正確に言えば自分の体を手に入れてサニーにこの体を返す
そしてまた二人で平和に暮らす
ただそれだけが二人の願いとなった