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1-3

 相変わらずルーナは虚ろに何かを考え、悲しみの表情を浮かべている

 石野は困った

 学校に行かせようにも彼女は全く動いてくれないし、何を話しかけてもあいまいな返事ばかりで暖簾に腕押し


 学校に行かなくても一応小学生くらいの勉強は見てやれる

 幸いルーナは物覚えがいいのでどんな勉強だろうと難なくこなしていった


 このまま俺が教えてもいいが、友達ができないな

 これじゃぁあまりにも不健全だ


 そこで石野は彼女を公園に連れて行った

 休みの日の公園は子供たちの声にあふれ、活気に満ちていた


「ほら、ルーナちゃん、ここなら友達がいっぱいいるぞ」

「話しかけてみな」


 石野がルーナと同じ年くらいの子供たちの元へ彼女を連れていく

 初めて来る公園、同じ年頃の子供達、あふれる笑顔と笑い声

 ルーナの顔に少し表情が戻った


 トテトテと少年や少女が遊ぶ遊具に向かう

 公園にいながら手に手に小型の携帯ゲーム機をもって一緒に遊んでいる子供の一団や

 真面目に普通に滑り台で遊ぶ子供達

 公園にはいろいろな自分の知らない遊びが転がっていた


 中でも一番興味を引いたのは花壇

 その色とりどりの花を見つめるルーナは、やがて、目に涙を浮かべ泣き始めた

 周りの子も不思議そうに彼女を見、心配そうに様子を見に来る子もいる

 その中の一人の女の子がルーナに話しかけた


「どうしたの?外国の子?名前は?」


 ルーナと同じくらいの女の子で、面倒見のよさそうな少しおっとりとした子だった

 ―彼女が外国の子と聞いたのはルーナの髪の色は白く、目の色が金色だったせいだろう―


「な、なんでも、ないの、ごめんなさい」


 ルーナは泣き止み、涙をぬぐうとその子に向き直る


「ねぇ、一緒に遊ぼうよ」


 少女はルーナの手を取る

 

 あったかい


 その少女の温もりを感じながら手を引かれ女の子たちの輪に連れていかれると、今の時代に珍しく、だるまさんが転んだを始めた

 今まで友達のいなかったルーナはやり方がわからず、少女たちに教わって一緒にやることになったのだが、やり始めてみると楽しく、少しずつ明るい表情を取り戻していく


「うまいね、ルーナちゃん」


 少女たちは珍しい外国の少女(皆そう思っている)とともに遊び、やがて、日が暮れ始めた

 彼女たちとまた遊ぶ約束をし、石野の元へと戻ると、石野は満足そうな笑みを浮かべていた


「楽しかったか?」


「うん!」


 ようやく年相応の元気さを取り戻したルーナ

 

 失った悲しみの穴は何かで埋めるしかない


 翌週の日曜日もまた公園へ行った

 そこにはこの前と同じようにあの少女たちがいて、また遊びに誘ってくれた

 ルーナはすでに有名になっており、今度はさらに多くの子たち、男の子たちも交じって遊んだ

 ゲームにいそしんでいた子たちもその輪に加わり遊ぶ


 楽しかったし、幸せで、あの時の悲しみを忘れることができた


 それも、あまり長くは続かなかった


 それは突如として公園を襲う


 公園の中心に現れた謎の亀裂

 空間を裂くようにその亀裂はペキペキとひび割れ、開いた


「危ない!みんなこっちに避難しなさい!!」


 石野が慌ててその異常な亀裂から子供と保護者を遠ざける

 走って逃げる子供達

 その中の一人、最初にルーナを誘ってくれた女の子が転び、逃げ遅れた

 ルーナが駆け戻り、その子に手を指し伸べ立ち上がらせ、二人で手をつないで逃げる

 が、遅かった


 亀裂から何かが投擲され、ルーナの背中に突き刺さり、胸から飛び出た


「ルーナ!」


 石野はもう一人の少女を親元に逃がし切り、ルーナに駆け寄り抱きかかえる

 小さな体に突き刺さっている禍々しい槍はその槍先を血で染め、ルーナの体力を奪っていく


「しっかりろ、今救急車を呼ぶ!」


 大量に血を吐き出し、うっすらと目を開け石野を見るルーナ


「無様だな、それでこそ貴様の最後にふさわしい」


 空間をバキリと両手で押し広げ、出てきたのは黒い鎧の女騎士、リゼラスだった


「蹂躙しろ」


 それだけ言うと、後ろから同じく黒い鎧を着た騎士たちが飛び出し、その場にいたこども、親を斬りつけ串刺し殺害し始めた

 その最初の犠牲者になったのはルーナを誘ってくれた少女と、その母親だった

 母親が少女を守るようにうずくまったがそこを槍で一緒に串刺しにされる


 ルーナはうっすらとあいた意識の消えそうな目でその様子を見る

 記憶が、蘇り、自分の中を何か黒いものに覆われ始めるのが分かった


「クソ!やめろ!何してんだお前ら!」


 常備しているピストルを女騎士に向ける


「止めなけりゃ撃つ!」


「ほぉ、この世界の武器か」

「くだらん、何の魔力も感じないな」

「いいだろう、撃ってみろ」


 石野は、リゼラスに、銃を放った


 パンッと乾いた音がし、リゼラスに直撃した、が、鎧にはじかれ傷一つ負っていなかった


「馬鹿な、ピストルが効かんだと!?」


「この鎧は物理無効魔法の付与がなされていてな」

「まぁその程度の攻撃ならば素の状態でもかすり傷一つつかんがな」


 リゼラスは腰にある宝剣を抜き、石野に向けて笑った


「っく、もう少し我慢してくれ、ルーナ」


 血が止まらない、ルーナは深く意識が静まっていく

 まるで暗いくらい海の底にだんだんと沈んでいくかのように


―ねぇ、私がやろっか?—


 ふと頭の中で聞こえる声


―昔みたいにさ、二人で一緒にやろうよ―

―あんただけ別世界に逃げちゃって、私は動けなくなって独りぼっち―

―でも、許してあげる、戻ってくれたんだもの―

―じゃぁ、交代ね―


 ルーナの意識は完全に、沈んだ


 カッと見開かれるルーナの目は銀色に輝いていた


「ルーナ、意識が戻ったか、よかっ」


 石野はルーナに殴り飛ばされ、数メートル飛んだ

 とても少女の力ではない


「ここじゃあんま力でないな」

「まぁマナがないもんね」


 翼がその背中から飛び出し、角が伸び、尾がシュルシュルと伸びる


 石野は薄れる意識の中その様子を見ていた

 あのおとなしく、可愛らしい少女が化け物のように姿を変えていく


「あなた、もう一人の私をずいぶんいじめてくれちゃって」

「フフ、でもいいわ、ちょっとだけ遊んであげる」


 自分の胸から飛び出た槍を無理やりに引っこ抜くと、傷口はみるみるふさがった


「化け物が!」


 リゼラスが斬りかかると、意外なほどあっさりルーナの肩口に刃が食い込んだ

 吹き出る鮮血がリゼラスの顔を染める


「あらら、痛いじゃない」

「それ、聖剣かしら?」


 肩に食い込んだ刃を抜き、何度も斬りつけ、そのたびにルーナに傷が増え、血が飛び散った

 血まみれになりながらゆっくりとリゼラスに近づく


「ま、その程度の聖剣じゃ、私、問題ないのよねぇ」


 切り口はすでに再生し、まるで何事もなかったかのように立つルーナ


「私に傷を負わせたいならデュランダル以上の聖剣でも持って来なさいな」

「ま、全部私が破壊しちゃったからないんだけどね」


 尻尾をヒュッとふると、リゼラスは吹き飛び、木に叩きつけられた


「ん、もう限界なの?」

「つまんな~い、てかあんた意識戻るの早すぎんのよ」

「私がまた封じられる前にサービスしといたげる、感謝しなさい」

「ま、次私が目を覚ますときはもっと歯ごたえありそうなやつの前で死にかけなさいよ」


 ルーナが手を広げ、天使のような黒い翼をはためかせると、辺りにいた黒騎士は一気に倒れ、さらに傷つき殺された人々は何事もなかったかのように傷口が治り、蘇る


「さて、今の名前はルーナだっけ?」

「じゃぁ私はサニーって名前にしようかしら」

「あたしとあんたは、表裏一体だしね」


 それだけ言うとルーナ、もといサニーは再び意識の奥底へと眠りについた


 目を覚ます石野

 周りを見渡すと、人々、子供たちは倒れているが、ただ気絶しているだけのようだった

 黒騎士達はまるで死んでいるかのようにピクリとも動かない

 ただ、その中でリゼラスのみ動いていた

 

 鎧は砕かれ、肋骨は粉砕され、大量に吐血しながらもルーナを睨みつけている


「グブッ、く、ぐっ、今日の、ところは、引いてやる」

「だが、逃がさん、お前の位置は捕捉した」

「必ず殺す」


 リゼラスは何かを懐から取り出すと放り投げた

 そこから触手のようなものが伸び、黒騎士達を拾い上げるとリゼラスと共に空間のヒビの中に戻り、空間は修繕された


 残され、一人意識が戻っていた石野は今見た惨劇と現象、ルーナの正体に驚き、何もできずにいた

 ジッと異形になり果てた倒れているルーナを見る


 あの姿、あの力…

 あんなものを見せられて俺は、俺は変わらずあの子を愛せるだろうか?


 そう自問するが、答えは見つからなかった


撃てぇ!

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