地球
ルーナがいなくなって以来石野は様々なことを調べていた
苦手だった化学や物理、今まで信じていなかったオカルトの類まで多岐にわたる
その中に興味深いものを見つけた
それは異次元に関するものだ
世界は多数の次元で出来ており、またパラレルワールドなどの異世界が重なり合って“世界”と言う者ができている
異世界同士は重なって入るが互いに干渉、認知することはできない
しかし例外はある。 例えば古来から伝わる神隠し、これは人がどこかへと消えてしまう現象だ
誘拐やただの家出などもあるだろうが、中にはどう考えても人の仕業とは思えないものまである
消えたと思っていた者が数か月後行方不明になった時と全く変わらぬ姿でもどってきたり、不思議な世界に行っていたと語る者もいたらしい
眉唾なものも多いが、異世界や次元の存在については論文にもなっており、実際に証明もされている
つまり、別世界はあるのだ
石野は目頭を押さえ老眼鏡を外す
ここのところろくに寝てもいない
部下たちはオカルトめいたことを調べる石野にあきれ離れてしまった
今でもついてきてくれているのはたった一人、岸田だけだ
彼はルーナの体を調べた科捜研(科学捜査研究所)の人間である
一見するとただの人間だった少女、しかしその体の節々には明らかに人と異なるところがあった
背中のレントゲン、そこに映るのは羽根の痕跡のような骨、爪はまるで猛獣のようにとがっており、突然変異とも言い難く、まるで初めからそういう生き物であったかのように自然だった
椅子にもたれかかり、少し睡眠を取ろうと目を閉じる
その時勢いよく扉が開かれた
「石野さん! 面白い情報が入りましたよ!」
飛び起きた石野、そこに立っていたのは岸田だった
「おう、どうした? 嬉しそうだな」
「そうなんすよ、聞いてくださいよ。 これこれ、実は少し前に行方不明になってた少女がみつかったんですけどね。 名前は立木桃、年齢は16歳、一年ほど前に学校の帰りに行方不明となり家族が捜索願を出しています。」
「それがどうした。 家出した少女が帰って来ただけだろう? 珍しくもない」
「いや、それがここからなんですって! すごいっすよ! なんとこの子、異世界に行ってたらしいんです。 誰も信じていませんがね、その子の証言に面白い記述があるんす」
「ほぉ」
「私はルーナちゃんっていう異世界人と一緒に旅していました。 どうです? この名前、聞き覚えあるっすよね?」
石野は驚いた
同じ名前なだけかもしれない。 しかし、その少女に話を聞いてみたくなった
「それだけではないんすよ。 実はこの子、先輩の言ってた甲冑を着た奴らに会ってるみたいなんす」
「なんだと!?」
「ここまで一致してるんですからルーナちゃんってのはもしかして、って思わないすか?」
「あぁ、聞いてみる価値はありそうだな」
翌朝二人は東京に住む立木桃という少女の元を訪ねた
彼女からの証言により確証を得た
彼女の言うルーナは石野の養女となった少女で間違いなかった
石野は何らかの方法で異世界に渡れないかと考え始めていた
それは興味からではなく、少女を守りたいという決意から来るものだった