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1-2

 その日ルーナは近くの花畑まで来ていた

 少し前にミシュハに連れられてきた場所で、ここまでなら一人で来ても良いとの許可も出ていた


 いくつかの可愛い花を摘み、木に巻きついていた細い蔦でまとめて束にし、簡易の花束の完成だ


 ミシュハお母さん、喜ぶかな?


 誕生日を作ってくれ、プレゼントをくれたミシュハが明日25歳の誕生日を迎える

 彼女へのプレゼントとして花束を贈る

 それは本当の母親に虐げられてきた彼女の夢の一つでもあった


 嬉しそうに花束を抱えるルーナ、満面の笑みで、ちょんちょんと飛び出た花を綺麗に整えると街に戻るために立ち上がった

 ふと街の方角を見ると、大きな黒煙が上がっていた

 一抹の不安を覚え、駆けだす


 街に戻ると、そのすべてが真っ赤に燃えており、焼け焦げた臭いが周囲に漂っている

 急いでミシュハたちのいる施設の元へと走っていった

 走る間周囲を見渡すと、ところどころに街の人が倒れており、大量に流血している人は明らかに死んでいるとわかった


 ミシュハお母さん、クリアおばあちゃん…

 お願い、無事でいて


 そう思いながらようやく施設までたどり着いた


 施設の前には黒い鎧を着た騎士のようないで立ちの人間たちが大挙して施設を取り囲んでいる

 建物の中からミシュハ、クリア、ザスティン、ルーナを教えてくれていた先生たちが拘束され連れだされる


「お前たちは何者です!クリア様を離しなさい!」


 ミシュハが騎士たちに向かって叫ぶ


「黙れ、大罪人どもが」

「破壊神はどこにいる?」


 黒い騎士のリーダーと思しき女性が静かに問う


「破壊神は封印されたままだぜ」

「何わけわかんねぇこと言ってんだよ」


 ザシュッ


 何かを斬る音がして、ザスティンの体が崩れるように地面に倒れ込んだ


 ザスティンお兄ちゃん!


 声にならない悲鳴を上げる

 今起きている惨劇が恐ろしすぎて体が動かない


「そこの二人以外は邪魔だな」

「殺せ」


「ハッ!」


 黒い騎士のリーダーがそう命じると、ドルレリッサとニニアは喉元を掻っ切られ、殺された


「なんてことを!あなたたちには人の心はないのですか!」


 目の前で友人たちを殺され涙ながらに訴えるミシュハ


「フン、破壊神に魂を売った貴様らが私に人に道を問うか」

「次は貴様らの番だ」

「どの道居場所を吐こうが吐かまいが貴様らは殺すがな」


 宝飾の施された美しい剣をミシュハの喉元に突きつける女騎士


「おやめなさい!あなた方は帝国の騎士でしょう?」

「誇り高き帝国騎士がなぜこのような虐殺を行うのです?」


 クリアが女騎士に聞く


「これは虐殺などではない」

「制裁だ」

「貴様ら破壊神信者のな」


 女騎士の剣がクリアの首に振り下ろされ、その首を飛ばした


「クリア様!!」

「おのれ!よくもクリア様を!」


 クリアの命を奪った剣の切っ先は再びミシュハの喉にあてがわれ、動脈をゆっくりと斬り破った


「ぐっぶっうぅ」


 ミシュハの首と鼻、口から大量の血が噴き出す


「あ、あぁあぁ」


 目の前で起きた惨劇、そのすべてを目に焼き付けてしまったルーナは体を無理やりに動かしてミシュハの亡骸の元へと駆け寄った


「ああああああああああ、お母さん!お母さん!!」

「やだ!死んじゃやだよ!」


 自分の服が血まみれになるのも構わずミシュハの体を抱える


「ほら、花束だよ?」

「お母さんの誕生日プレゼント、ほら、受け取って?」


 ぐったりとして冷たくなっていくミシュハの手にぐしゃぐしゃになった花束を握らせる


 とっさのことで女騎士は反応できずにいた


「子供?なぜ子供が」

「情報ではこいつに子供はいないはずだが?」


 部下にどういうことだと聞く


「ハッ!我々の情報には確かにこの女は未婚で子供も姉妹兄弟もいないと調べはついています!」


 顎に手を当て考える女騎士


「まぁいい、こいつも破壊神信者の一人だろう」

「殺す」


 剣を振り上げ、ルーナに振り下ろした


 しかしその刃は届くことなく弾かれた


「なんだと!?」


 女騎士は驚愕した

 ルーナの体を包む磁場のようなもの

 それはバチバチと電気がほとばしり、空間を歪め、次第に大きくなっていた


「これは…」

「ククク、そうか、お前が」

「お前が破壊神か!」


 剣を振り、電磁場を切り裂き続けるが、空間を斬るだけで手ごたえがない


 大きく広がった電磁場は町全体まで広がり切り、一気に収束し、ルーナの体をどこかへと飛ばした


「くそ!逃げられた!」

「おのれぇ!破壊神!貴様は必ずこの私が!リゼルスが殺す!必ずだ!!」


 叫ぶリゼラスという名の女騎士はその兜をかなぐり捨てる

 清楚で美しい顔立ちに斜めに刻まれた深い深い傷のエルフ

 数百年前幼かった彼女は破壊神に国を襲われ、目の前で両親を殺され、自身も重傷を負いながら生きながらえた破壊神の犠牲者だった


「必ず追いつめて殺す!無様に殺す!」

「次元渡りが貴様だけの力だと思うなよ!」

「追いついて糞尿を垂れ流すまで恐怖と痛みをその体に与えて殺してやる!!」


 リゼラスの叫びがあたりいっぱいにこだました




―――――――――――――――――――――――


 ルーナが目を覚ますと、どこか見覚えのある景色だった

 自分の体を見ると、尻尾や翼は消え、人の体に戻っていた


 周囲は深夜なのか真っ暗だが目を凝らすとあの時と同じように暗がりを見通せた

 キープアウトと書かれたテープが張られ、その中心には血だまりの後と人型にかたどられた白いテープ

 ここには見覚えがある

 人だったころに最後に視た光景、それがここだった


「お嬢ちゃん、ダメだよ、こんなとこは入っちゃ」


 後ろで声がした

 そこには長いコートを着た老齢の男


「ってお嬢ちゃん裸じゃないか!」

「どうしたんだ?何があった」

「とりあえずこれを着なさい」


 男は自分の来ていた少しタバコ臭いコートを羽織らせた


「おじょうちゃん、お父さんかお母さんは?」


 じっとルーナの顔を見つめる男

 少女の美しい白い髪と金色の瞳…

 そこで何かに気づいた


「嘘だろ…」

「お嬢ちゃん、君は…」


 じっくりと観察するように見る男

 

「やはり…しかし、そんな馬鹿なことが…」


 男が驚くのも無理はない

 たった今しがた運ばれていった死体

 その少女の死体の顔と今立っている少女の顔が重なり、完全に一致した


「お嬢ちゃんは…幽霊かなんかかい?」


 思わずそう聞いていた

 

「私…私は」


 ルーナは先ほどのことがフラッシュバックする


「嫌っ嫌だよ!お母さん!死なないで!!」


 ぶるぶると震えながらうずくまる少女

 仕方なく少女を署まで連れて帰った


 あったかいココアを少女に入れ、落ち着かせる

 グズグズと顔をくしゃくしゃにしながら泣く少女に困った男


「まぁ、ひとまず自己紹介しとこうか」

「俺は石野正、警部って肩書だ、一応な」

「お嬢ちゃん、名前は?どっからきたの?」


「私は、ルーナ、です」

「来たのは、えっと…」

「あっち、です」


 指を右の方へ指した


「アハハ、あっち、か、困ったなぁ」


 部下たちに少女の捜索願が出されていないかも確認したが、そんなものは出されていない

 頼りは少女の証言だけだった


 そのルーナの証言をたどり、ようやく家を突き止めたが、ここに子供がいるという記録がない


 どういうことだ?子供はいないのにあの子はここが家だったと言っている

 それにあの話…子供の作り話にしてはできすぎている

 何かの本で読んだのかもしれんが…

 まぁ、ここの住人に話を聞いてみるか


 チャイムを押し、警察であることを告げて中に入る

 中にはいかにも働いていなさそうな男と、冷たい目の女がいた


「なに?何の用?」


「いえね、こちらに子供がいませんか?」

「実はうちの署で迷子の子供を預かってましてね」

「その子が家はここだと訴えておりまして」


 丁寧な口調だが彼らの様子と少女の証言から大体の察しはついている


「あぁ、あのガキ?」

「いらねぇいらねぇ」

「どうせサンドバックくらいにしか役に立ってねぇしよぉ」


 男の目は虚ろだ

 明らかに何らかの薬物をやっている


 死んだ少女、その子には多数の虐待の跡があったと検死官からの報告が上がっている

 恐らくその少女がこの家にいた少女なのだろう

 では、あの子は?死んだ少女の顔と記憶を持つ少女


 まったく、わけがわからんわ


 頭をポリポリと掻き、男と女に聞く


「あんたらは、子供を何だと思ってやがる?」


「は?あんなもんゴミだよゴミ」


「あんたは!?自分の生んだ子だろう?」


 女の方に向き直り問うた


「望んで産んだ子じゃない、どうなろうが知ったこっちゃないね」


 怒りがこみ上げる石野

 拳を握りしめる


 彼らは逮捕された

 虐待や薬物所持…


 石野は少女の元へと戻った

 不安そうな少女の横顔を見る

 

 この子は一体何者なんだ?


 死んだ少女の両親は捕まり、少女をひき逃げした男たちも捕まった

 連日連夜その事件の報道がなされ、名前も与えられていなかったかわいそうな少女についてコメンテーターたちが意見する毎日


 ひとまずルーナは石野が引き取ることにした

 幸い石野には子供も妻もいない気ままな一人暮らし

 裏から根回しをして少女の親権も勝ち取り、とんとん拍子に養女とすることもできた

 定年間近の石野には時間もある

 精一杯少女に不器用な愛を注いだ


 それでも、ルーナは虚ろな目で毎日どこか遠いところを見つめている

 首に下げた赤いペンデュラムを見つめ、不意に涙する

 心の傷が癒えない


 そして、ルーナが石野と暮らし始めて数ヵ月が立った


え?戻るの?ってねw

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