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アノーラの街並みは一言でいうと赤だった
赤いレンガ造りの建物が軒を連ねている様子はなかなかに美しい情景である
さすが魔導国家、行き交う街の住人と思しき人々は誰も彼も明らかに魔法使いといった風貌だ
女性、魔女が多く大きな帽子にボディラインがはっきりとわかる黒いワンピースを着ている
この国では男児の出生率が悪く、生まれてくる子はほとんどが女児なのだそうだ
だから道を歩いている男の住人は別の土地から移住、あるいは婿入りしてきたものばかりだ
やはり国を治めているのも女王で、とんでもない魔力があるのだとか
そんなこんなで宿を取る
赤いレンガに魔女が箒にのっている看板が特徴的な魔女の館という宿
観光名所にもなっている街らしく客を楽しませるためか、内装もいかにも魔女が暮らしていそうである
ここは食堂も兼ねているらしく、入ったとたんにおいしそうな料理の香りが漂ってくる
「なんかおなかすいたね」
桃の問いかけに一同うなずく
宿を取った後ひとまずは食事をすることにした
ハーブや香辛料、薬草などを使った料理が名産らしいのでおススメ定食というのを頼んでみた
出てきたのはホカホカに焼けたバジルを散らしたガーリックパンと野菜がふんだんに入ったポトフのようなシチュー、それに鶏肉の香草焼きだ
どれも食欲をそそる香りがし、おなかのすいていた四人はぺろりと平らげてしまった
すっかり満足した四人
寝るにしては速すぎる時間帯なので外を見て回ることにした
パリケルは何度か来たことがあるそうなので案内役を買って出る
「まかせるぜな!」
ポンと胸を叩いて意気揚々と街に繰り出した
やはり街並みは見とれるほど美しい
魔女たちがマジックアイテムを売っている露店などもあったので適当に見て回っていると、どこからか
「待ちやがれ!」
という大声が聞こえてきた
あたりがざわめき、一人の少女が駆けだしてくる
魔女らしき格好をしている
少女なので魔法少女といったところか
その子は街を恐るべきスピードで駆け抜けていく
その後ろを必死について行く荒くれのような男たち
どうやら少女は追われているようだ
「助けなきゃ!」
桃もそれに次いで駆けだす
仲間たちは慌てて後を追った
魔法少女は速い、どう見てもルーナと同じくらいの歳なのに大の男を相手に逃げ回っている
だが、少女はこの街の土地勘がないのかついに路地裏まで追い込まれてしまった
「おら!追いつめたぞ、さっさとそれをよこしやがれ!」
荒くれの男の一人が魔法少女が手に持つ何かを奪おうとする
「やだ!これはママの形見だもん!」
「いいからよこせ!」
無理やり奪おうとしたその手をアルがつかむ
「どんな事情か知らないけれど、女の子を泣かせるのは良くないよ」
アルがそう言って諭すと
「うるせぇ!てめぇには関係ねぇだろう!」
と、殴りかかって来た
その手を軽くつかみ後ろ手に回して締め上げる
「ぐがぁ!」
「これ以上その子に手を出すなら僕も容赦はしない」
「ま、待ってくれ!俺はそいつから借金を返してもらおうとしただけで!」
「返せねぇっていうからその方にそれを持っていこうとしただけなんだ!」
とりあえず手を離し、男の話を聞いた
なんでもこの少女の母親が生前借金をしており、それを返してもらおうとしたが少女にお金はない
仕方なくそのかたに少女の母親が生前使っていたマジックアイテムであるスティックを持っていこうとしただけなのだとか
少女の父親も母親と同じくすでに亡くなっているのだとか
父親の方は冒険者で、街近くに沸いた魔物を倒して相打ちとなり亡くなり、母親も同じくその時に大けがを負いまともに働くこともできなくなったのだ
仕方なく借金をし、なんとか暮らしていたのだが、つい先日母親は息を引き取ったのだ
回復魔法が使える少女だったがその治療効果が全くなかった
どうやら魔物から呪いを受けていたようだ
通常なら神殿などで解呪できるが、少女はそのことを知らなかった
少女は目に涙を浮かべている
「話は分かったぜな」
「俺様がその借金肩代わりしてやるぜな」
「俺としちゃぁ誰からもらおうが返してもらえれば構わねぇ」
それで話がついた
借金はパリケルにとっては大したことのない額だったのでその場で支払いを済ませ、借用書をもらう
「よかったな、ガキ」
男たちはそれで去って行った
「あ、ありがとうございます」
少女は深々と頭を下げる
「か、返す当てはないですけど、よかったら私を雇ってください」
「何でもします!」
少女がそう言うと、パリケルは少し考える
少女は一人暮らしをしており、親戚関係もいない
天涯孤独らしい
「じゃぁ俺様達と一緒に冒険者をやるぜな」
「お嬢ちゃん、魔法は使えるかね?」
「あ、あの、光系統の癒し魔法なら得意です」
少女の癒し魔法を見てみると驚くべきことが分かった
それはこの世界で癒しに特化した教会の者や、名のある癒し手からしても何ら遜色なく、むしろ彼女の力は遥かに上である
欠損部位すら再生でき、瀕死の重症者でもたちどころに回復させることも可能だろう
彼女は喜んでついて行くことを了承した
少女の名はアリシャ・マクウェイと言うらしい
こうして勇者桃のパーティに回復魔法の使い手アリシャが加わった
アルの回復魔法だけでは心もとなかったが、これは大きな収穫であったとパリケルは考える