終わり
私達は絶望の中にいた
お姉ちゃんが時空を飛び越え消えてしまった
お姉ちゃんのためなら何でもできると信じていたけど、流石に時空を超えることは私にもできなかった
破壊の女神となったけど、この力じゃどうしようもないじゃない
古の支配者にも、闇にも、神々にも、誰にもこの問題は解決できなかった
お姉ちゃんのために多くの者が協力してくれているのに、何年経ってもお姉ちゃんは一向に見つかることはなく、もう、私は生きる目的を失いかけていた
あれから数千年がたった
私は自分の子孫でもある魔族と魔王を道具のように思っていた
私がすでに忘れた目的を果たすための道具だと
「もう力が入らない。私はいつまでこれを繰り返せばいい」
数年前、私は自分と思しき少女を見つけた
その時の私は今と同じ男の魔王であったが、彼女が自分だとわかったのだ
少女にそのことを告げるが、信じてはいなかったな
そうだ。私は旅をしていたんだ
だがなぜ旅をしていたのか、何が目的だったのかは遠い過去の記憶すぎて何も思い出せない
ルーナと呼ばれていたあの少女はもしかしたら私が自分だと理解していたかもしれない
少女のころの私は、仲間に囲まれ幸せそうだった
あの少女のおかげで自分の名前は思い出せたものの、もはや取り返しのつかないところまで来てしまっていることははっきりと分かる
「私は、早く討ち取られるべきなのだろうな。この世界の勇者は優秀だ。歴代勇者は何度も器を変えて転生する私をことごとく倒している。恐らく私の力も次が限界だ。次に魔王となる娘には悪いが、私の器として、勇者に倒されてもらうとしよう」
思えば私は私の眷属として生み出した魔族を一度も愛してはこなかった
名前を思い出してからの私は少しずつ過去の記憶を思い出してきている
私には妹がいた
あの子を愛し、慈しんでいたと記憶が語っている
名前は思い出せないが、大切な妹だった
「もう、会えない、あの子には」
記憶が私を苦しめる。今までになかった罪悪感が込み上げて道具として使っていた魔族たちを愛おしく思うようになっていた
だから、私は早めに計画を始めることにした
まだ魔王としてはつたないが、この子は歴代でも最高の魔力を誇っている
ごめんねキーラ。あなたの体じゃないと私の魂は移せないの
貴方を犠牲にすることを許して
私は自分の体を見る
この体の持ち主は誠実で娘思いの男性だった
しかし魔王になるために私に体を差し出して死んだ
娘はまだ幼かったのに…
私の身勝手で死んだんだ
その娘ですら私は手にかけて自分のものにしようとしている
あさましいけど、私が滅びるにはこの手しかない
勇者によって倒された魔王は私という魂を削って死ぬ
この戦いで私は最後の魂を削り取られるはず
その時に少し細工をすることにした
この娘、キーラの魂を私の魂で保護し、私が死ねばこの子に体が返せるように
苦しいし、勇者にやられるのは痛いかもしれない
でも、死なせはしないわ
それからさらに数ヵ月後、キーラはどこで知り合ったのか、勇者と友人関係を築いていた
これは喜ばしいことだと思う
今の私がこの勇者に倒され、すぐにキーラに乗り移ってキーラを止めてもらう
そうすればキーラは大して傷つくことなく解放されるわ
私はさらに計画を早め、勇者率いる連合軍と魔族の戦いを引き起こした
多くの命が奪われる
この罪は全て私が背負う罪
戦いは数ヵ月にも及んで、私は倒された
その直後にキーラに乗り移ろうとしたけれど、どうやら勇者が逃がしてしまったみたい
このままでは私はまた自我を失ってただの破壊の権化と化してしまう
まずいと考え、念のため集めていた魔族を使って…。使ってしまった。この子たちも私の愛する子であることには変わりないのに…
それでも私は滅びようと必死にキーラを探し、二カ月が経過したころにようやくキーラを発見した
その時のキーラは心強い味方を連れていた
その隙を狙って私はキーラの中に入り込む
うまくキーラの魂は保護できているみたい
「ごめんねキーラ。でも、これで終わりにするから」
私は心の中でキーラに告げる
聞いているかは分からない
キーラの体を乗っとった私は死に場所にふさわしい場所へと赴いて勇者と、キーラを助けるために立ち上がった精霊の祖神の娘を待った
精霊の祖神はあの時の自爆で死ぬことはなく、この世界で精霊女王としての生を受けた
その娘、精霊王女。彼女はキーラの心強い友人となっていた
勇者と精霊の祖神の娘、この二人なら私を倒せる
この連鎖を断ち切って
そして、私の願いは叶った
とうとう終われるんだ
最後の最後に私は全てを思い出した
私の名前はルーナ、生まれたときの真名はサニア
妹はサニー、彼女の真名はルニア
ああ、そうだったんだ。私はただ、妹と幸せに暮らしたかっただけだったんだ
消えていく、私の魂が消滅していく
私は光に包まれて、意識が消えてそのまま無に還るものだと思っていた
でもいつまでたってもそうはならなくて
目を開くとそこには大好きな妹が涙目で立っていた
「お姉ちゃん!」
私は何が起こったかもわからないまま、ルニアを抱きしめ返して泣いた
二人は泣き続け、周りにいた神々は優しくそれを見守った
私はサニア
ルニアの双子の姉
そして私は、能力の女神となった
精霊の小説にこれの続きがあります