5-27
力が入らない。何も見えないし何も聞こえない
私はどうしたんだろう? それに、何かやることがあった気がするのに思い出せない
名前は? 自分って何だっけ?
(君は僕の器)
声がした
この声は、なんだか聞いたことがあるけど、器ってどういう意味?
(僕にはやらなくちゃいけないことがある)
やらなくちゃいけないこと?
(全部滅ぼすんだ)
それは、絶対にやらなきゃダメなの?
(そうだよ。でも僕にはもうそんな力が残っていない。だから、君がやるんだ)
私が?
(君が、だよ)
私は、世界を壊さなきゃいけない
(そうだよ、君は破壊神だ。君がすべてを壊さなくちゃならないんだ)
私は破壊神だから、全部壊す。何もかもを壊さなきゃ
そう理解したら急に視界が開けてきて、音が戻って来た
「全部、壊さなきゃ」
力が、体に流れる破壊神としての力が私を満たしてくれる
でも、この力は本来の私の力じゃない気がするの
だって体に馴染んでないから
それに力が弱まってる? 確かに膨大な力なのに、これでもまだまだ本当の私じゃない
(どうしたんだい? ほら、最初はこの世界だよ。壊さなきゃ)
そうだ、壊さなきゃ
何故だかわからないけど、この声に従わなきゃいけない気がする
だから私はその世界の目についたものを破壊し続けた
その世界に降り立った精霊の祖神に会うまで
この世界を破壊し始めて数日
やっぱり思ったように力が振るえていないみたい
昔の私ならもっと簡単に世界を滅ぼせていたはず
(そうだね。君はそれほどまでに強かった)
でも今の私は弱っている?
力が扱いきれない
(でも確実に世界を滅ぼせているよ。頑張って)
何で世界を壊さなくちゃいけないのかは分からないけど、使命感が私を束縛する
そして私はとうとうその女神に出会った
「これ以上世界は壊させません! 精霊の祖神の名に懸けて!」
鬱陶しいとは思わない
彼女も彼女の仕事をしているだけ
でも私も私のやるべきことをやらなくちゃいけないから、私は彼女を殺さなきゃ
「邪魔をしないで」
私は精霊の祖神を一瞬で縊り殺した
ごめんなさい、でもやらなきゃいけないから
「ま、だ」
まだ生きてたみたい。首をねじ折られて生きていられるんだから、神は生命力が強い
でも、もう終わり
貴方が死ねばこの世界を破壊するのに邪魔な者はいなくなる。だから死んで
今度は首を引きちぎろうとその頭に手をかけた
すると彼女は私の体に張り付いてきて
「一緒に死んでもらいます!」
これは、力を暴走させてるんだ
自爆…
何かが頭の隅をよぎる
私の過去の記憶…
私も死のうとしていたんだ。でもなんで?
(余計なことは考えない方がいい。君はただ破壊し続ければいい。それが一番楽な道だよ)
そうだ。この声の言うことを聞いていれば、私は何も考えなくていい
それが一番楽なんだ
まずはこの女神をどうにかしないと
多分この自爆を喰らっても私は死にはしないと思う
でもさすがに再生までは時間がかかりそう
私はもがいてもがいて女神の手を引きはがそうと必死になったけど、この女神は死に際の最後の力で私から離れようとしない
このままじゃ自爆に巻き込まれる
女神は既に力を溜め終わっていた
「終わりですよ破壊神!」
目の前が真っ白に光って、私は意識を失った
しばらくすると目が覚め、私は体の半分を失っていることに気が付いた
このくらいならしばらくすれば回復するけど、力が戻らないのはどういうことなのかしら
あの女神、自爆だけじゃなくて別の何かも仕掛けたみたい
今まであった力の10分の1ほどの力しか感じない
これでは私はこの世界を滅ぼしきれない
それなら
私は残った力を振り絞って自分の魂を転生させることにした
私ができなくても、いずれ私の魂を引き継いだ私の眷属が目的を果たしてくれるはず
だから、私は魔物と、魔族を生み出した
私は破壊神にして邪神。世界を滅ぼすのが使命
そして、魔物と魔族の祖神
彼らに思いを託す
それから数千年という長い年月が経った
私は既に記憶もほとんどを失って、何をすべきかも思い出せない
私の中で響いていた声ももう何も語ることはない
私はだれで、何をするんだろう
魂を魔王という魔族の中でもひときわ強い者に乗り移らせ、転生し続けた結果
私はほぼすべての記憶をなくし、何もわからなくなる
それでも争いは続く
私がいる限り
終わることのない、争い
もう、何も考えない