5-24
神々でも苦戦するような魔物が神界を跋扈し、そこかしこで戦闘が起きている。幸いなことに苦戦はするが勝てない魔物ではないことが救いだった
徐々に神々が押し始めているのだが、次々と追加の魔物が召喚されるため気が抜けない
そんな中をルーナは悠然と進み、襲い掛かる神を一撃でのしながらサニーを追う
仲間たちに守られながらもサニーは逃げるのだが、その足取りは重い
ここで自分が死ねば姉は正気を取り戻して元の優しい姉に戻るのではないか? 今この状況を打開できる唯一の手段が自分が死ぬことではないのか? そう思っているからだ
だから自分を抱え上げた神ヘルメスの手から逃れるように体をひねるとその手から抜けだしてルーナに向かって走った
「待つんだサニー!」
ヘルメスは慌てて叫んだが、すでにサニーは遠く離れて行ってしまった
神の中でも圧倒的な速度を誇るヘルメスだったが、サニーの速さに驚きを隠せず立ち止まってしまい、そこを魔物に襲われたためそれ以上追うことができなかった
サニーは破壊の力を足で使用し、空間を破壊して爆発のような風を連続で起こしながらどんどん加速していく
そして目の前にルーナが見えたとき、その間に誰かが立ちふさがった
「サニー! 待つぜな!」
そこにいたのはアカシックレコードのパリケルとその守護者であるメロとフィフィだった
彼女たちはルーナの進行を止めつつサニーがルーナに接触するのを食い止めた
「今からルーナの記憶を戻す! それまで仲間たちに持ちこたえてもらうぜな。だからサニーは最後に記憶を呼び覚ますためのキーマンになってほしいんだぜな」
「記憶を!? できるの?」
「俺様のアカシックレコードにルーナを連結させるぜな。記録を記憶に変換させてそれをきっかけに呼び覚ますぜな。その時意識を戻すために一番近しかった者、つまりサニーの声が必要なんだぜな!」
「分かった! どうすればいい?」
「うむ、ひとまず俺様のそばにいるぜな。まずはルーナを抑え込む!」
パリケルがそう言うとその周囲にルーナと近しい仲間が集結した
異世界に飛ばされたが何とか戻って来たイナミリアとエイシャ、気絶から復帰した石野、岸田、異放者でありながらこの世界を守るために戦ったテンコとアナサ、大勇者の桃までもがその場に集結している
「あんたたち、どうして」
「ルーナちゃんにはみんな救われてたんだ」
「あの子がいなければ全ての世界が崩壊し、何も残らなかったはずよ。だからこそ、私達もあの子を救ってあげたい。あんなに苦しそうなんだもの」
エイシャの言う通り、ルーナの目からは涙がこぼれている
感情も記憶も失った彼女の魂自体が今のこの状況を嘆いているのだ
止めて欲しいとルーナ自身も思っている
「止まってルーナちゃん!」
桃が巨大な盾でルーナを止めて押さえつけるとイナミリアとエイシャがその腕をつかんだ
そして足をテンコとアナサが抑え、プリシラが腰に手を回す
それでもルーナは止まらなかったが、動きが制限されて歩みが遅くなる
「邪魔するなぁ!」
魔力と神力を同時に解き放ってしがみついていた者たちを弾き飛ばすとパリケルに爪を振り下ろした
すんでのところでメロとフィフィがパリケルの鎧になることで攻撃は防がれたのだが、まともに攻撃を受けたメロとフィフィは鎧状態が解かれてその場に転がり気を失って倒れる
「行かせない!」
桃が復帰しパリケルを襲おうとするルーナを再び盾で押さえてその剣を持つ手とは別の手で剣を振るう
だがルーナはいともたやすくその剣を叩き折り、盾を砕いて見せた
「そんな!」
驚く桃の腹部にルーナの爪が迫った
だがその爪を防いだ者がいる。それは桃のよく知る人物だった
「桃! 僕も女神様に頼んで助けに来たよ!」
それは桃の憧れている桃が勇者をしていた世界の住人アルだった
彼自身にここまでの力はなかったはずだったのだが、愛の女神アズリアが桃が一番力を発揮できる条件をそろえるために力を与え、この世界に連れて来たのだった
「間に合いました。愛は何物にも勝る力です。桃、二人でルーナちゃんを救ってあげて!」
アズリアは頭上に浮いていた
そこからアルを投下したのだ
「アル、来てくれて心強いわ」
「僕だって、ルーナちゃんには借りがあるんだ。それに、桃の役に立ちたい」
二人は手を繋ぐと輝き、桃が本来の大勇者としての力を発揮する条件がそろった
「行くよルーナちゃん! こっからの私は本気だから!」
応援するアルを優しく見つめ、桃はオーロラのように輝く剣と盾、鎧につつまれる
剣を振るうと光があふれ出し、ルーナを弾き飛ばした
桃本来の力、“ポストレームム・アルムム”がついに発揮された瞬間であり、この力こそ種蒔く者から授かった力だった
「ぐぅ! 邪魔ぁ!」
恐ろしい数の魔物を召喚して桃にぶつけるが、ただの一振りでその魔物を一掃する
歯ぎしりを立てながらルーナはさらに魔物を召喚し続けて距離を取るのだが、一瞬で魔物が切り伏せられてしまうためその距離は開かない
「ごめんルーナちゃん。手加減するから!」
桃は剣の刃部分ではなく、腹でルーナの胸を穿った
「あぐぁあ!」
ゴキゴキと胸骨が砕けるような音がしてルーナは神界にある城の壁に叩きつけられた
どうにか大人しくなったためパリケルとサニーの方を向いて桃は叫んだ
「今です!」
パリケルを抱えたサニーがルーナのそばへ飛んでその手に触れる
「アカシックレコード!」
パリケルが記録回路をルーナに接続した