大世界の勇者 終
ルーナちゃんの犠牲の元、危機は去った、はずなのになぜか胸騒ぎが止まない
あの子の体を乗っ取ていた異放者はもういないのに、どうしてこんなに不安になるのかしら
私はサニーちゃんとパリケルさんの方を向く
二人とももう危機は去ったと思っているみたいだけど、でも、私はどうしてもそんな気にはなれなかった
「どうしたんぜな桃? ルーナのことを思ってくれてるのかぜな? あの子は、世界を救うために自分を犠牲にしたんだぜな。 お前がそうやって悲しんでいたら救われる魂も救われないぜな」
確かにルーナちゃんが体を張って、自分を犠牲にしてくれたおかげで様々な世界が救われたと言ってもいい
たくさんの命が救われたし、私達だって救われた
サニーちゃんは未だに暗い顔をしているけど、それでもお姉さんであるルーナちゃんの思いをついで、神様として動き始めた
ほとんどの神様が不在の今、動ける神はサニーちゃんを含めて数柱程度なんだとか
今サニーちゃんの手伝いを私達はしている
消された世界は戻らないかに思えたけど、どうやら私に力をくれたあの女の人、あの人の娘という力ある異放者が世界復興の手伝いをしてくれることになった
出会いは偶然で、ルーナちゃん消滅のあとに私がなぜか導かれた世界にその人はいた
「あなたは…。 お母さまにその力をもらったのですね。 やはりあの方は全てを見ていてくださっているのですね」
その人の名前はンインスさんと言って、レドというルーナちゃんの体を奪った異放者のお姉さんなんだって
そんな人が世界を復興させてくれる上に、レドに消された人々の魂までも保存してくれていた
神様達から順番に体を再生させてくれるみたい
「私にできるのはこのくらいです。 サニー、よくぞレドを止めてくれました。 貴方には感謝してもしきれません」
「私じゃ、私じゃない。 レドを倒せたのはお姉ちゃんがいてくれたから…」
ルーナちゃんに至っては魂までも破壊されてしまったため蘇りは叶わなかった
そりゃあ私だって期待したけど、魂を損傷してしまってはいくらンインスさんとは言えど再生は不可能
実は元の体を戻せないこともないみたいなんだけど、その場合かりそめの魂を入れるしかなくて、そうなるとそれは元の、私達の知るあのルーナちゃんなのかというとそうじゃない
それはもはや別人なんだ
だから、もう、ルーナちゃんは返ってこない
サニーちゃんもそれをしっかりと理解して、痛む心を内に秘めて、泣きたいのをグッとこらえて神様としての仕事をこなしてる
私には何もできない
こんなに苦しそうなサニーちゃんにかける言葉すら見つからない
復興は進む
今まで敵対していた神々と闇は和解して、協力して世界を導いてる
そこに争いはもうない
ルーナちゃんが守った平和なんだ、これが
見せたかったな、ルーナちゃんに
あの子はきっとこの様子を見て微笑む
平和を愛して戦っていたあの子だからこそ、この光景を見せたかったのに、なのに…
それから少し月日は経ち、神々は完全に復活
私はルーナちゃんの仲間だった人達や、お父さんの石野さんと合流して神様の手伝いを始めた
この戦いで役に立てなかった私はこのくらいしかすることが無いもの
せめて、今役に立たなきゃ
「で、こっちの世界の復興はほぼ終わったから、石野さんは地球でアマテラス様の手伝いをお願いしたいぜな。 俺様もアカシックレコードでバックアップはするぜな」
「ああ分かった。 岸田、行くぞ」
「はいっす!」
岸田さんと石野さんは相変わらず忙しそう
でも一番大変なのはパリケルさんかな? 全ての記録と記憶をアカシックレコードを通して読み解いて、そのデータを一人で整理してしまっている
一緒にいる異形の二人も心配そうに見つめるけど、パリケルさんは平気な顔をして次々データを整えていった
この人、完全に人間やめちゃってるわね
「それではンインス様、ありがとうございました。 あなた方のおかげで神々含めこの大世界の住人は無事戻ることができたのです。 何と感謝してよいやら」
ンインスさんにお礼を言っているのは神々のまとめ役であるラシュア様
天を司ってるから、いろんな世界に一瞬で来ることができるし、その目で監視もできるらしい
凄い神様と知り合えたけど、私にはあまり関係ないかな?
「桃、君にもお礼を言いたかった。 君がサニーを見つけていなかったら、もしかしたらレドは全てを消し去っていたかもしれない。 本当に、ありがとう」
ラシュア様が私なんかのために頭を下げている
慌てて頭をあげてもらった
「私なんて何の役にも立てないただのしがない勇者ですよ」
ラシュア様は首を振って私を抱きしめてくれた
なんて、暖かいんだろう
「まだお礼は言い足りませんが、私もやるべきことをやらなければなりません、しばらくお別れですね」
ラシュア様は神々のまとめ役
そんな忙しい神様が私のために時間を割いてまで会いに来てくれたことに私は感激
そんなこんなで、世界の復興は着実に進んでいた
それなのに、不安がぬぐえることもなく、よりいっそうシミのように広がっていった
不安の中日々を暮らし、ある日突然それは起こった