次元を渡る騎士たち
リゼラスは無事次元渡りを成功させた
ピリピリと静電気に似た感触が体中を這うがそれは無視する
ともに来たグリドの方を見ると、初めての次元渡りだというのに顔色一つ変えない
それどころか余裕そうに鎧についた埃を払っていた
「さすがですねグリド殿」
「・・・」
無口な彼は頭を少し下げただけで返事をする
リゼラスは周囲を見渡してみる
廃墟と化した街のようだ
最近何かがこの街を襲い破壊したと思われる
ところどころに人骨のようなものが転がり、大きな城は不気味な瘴気に包まれていた
「何者かの気配がする」
ふとグリドがそう口ずさみ、城に向かって歩き始めた
「待ってくださいグリド殿!」
慌ててついて行くリゼラス
他の黒騎士たちもそれに続く
大きな城はリゼラスが使えている皇帝の城よりは幾分か小さい
だがつくりはそれなりに立派で、街は繁栄をしていたのがわかる
「一体何が起こったのでしょう?」
「分からん、だが恐らくこの城にいる者の仕業だろう」
城の前で歩みを止める
城にいる者はこちらに気づいていないのか、特に警戒もされていないようだ
リゼラスは何かを取り出し見始める
「む、グリド殿、こちらを見てください」
「…これは?」
「破壊神を監視しているマジックアイテムです」
鏡のようなマジックアイテムにより映し出されたのはルーナの姿だった
その周りには大剣と大楯を背負った少女、カラクリを操っている少女、細身の少年の姿が映っていた
さらに鏡の力をあげていく
ルーナとともにいる者たちのステータスなどが見えた
「勇者!?」
「この世界の勇者か」
「しかしなぜ破壊神と共に?」
「敵対するのが普通ではないのか?」
映っている映像ではルーナと勇者は仲良く手をつないだりしている
和気あいあいとした様子にリゼラスは怒りをあらわにする
「落ち着け、勇者が破壊神と協力しているのならば共に殺せばいい」
「この世界の勇者を殺す?そんなことをすればここが滅びるのでは?」
「ここは俺たちの世界ではない、ならば滅んでも別によかろう?」
衝撃の発言だった
それなのにリゼラスも納得したといった様子だ
二人はどこかがおかしくなっている
倫理観が欠如しているようだ
それもドラグリオの勇者アストの力のせいだろう
彼に操られた者はみな一様に非道になる
もともとは優しいリゼラスも、民を守るのに自らを犠牲にしようとするグリド本来の姿もそこにはなかった
騎士たちが城の前で待機していると、城の中からこちらに気づいた禍々しい気配を纏う者たちが出てきた
「なんだ貴様らは、もう討伐隊が派遣されてきたのか?」
そう言って武器を構える男
実力はグリドとごぶごぶといったところか
「まて、話し合いに来た」
たまたま見つけた城だったが、渡りに船だと思った
この者は見るからに勇者と敵対している
利用しない手はない
「話し合いだと?」
「そうだ」
「お前たちは勇者と敵対する者たちだろう?」
「あぁ、当然だ。獣魔王様の配下なのだからな」
「ならば我らと敵は同じだ」
「協力しないか?」
グリドの提案に男は少し考える
「俺では判断しかねる」
「我らがリーダーに会ってもらおう」
武器の構えを解くと、グリドとリゼラスの二人を連れて城へと入った
城の円卓の置かれた大きな部屋にはこの男を含む7人の異様な気配を纏った者たちが席についている(一人所用で出ているらしい)
「トリトラ、我らと協力関係を結びたいという人間たちを連れてきた」
「実力は申し分ないように思える」
トリトラと呼ばれた男か女かわからない中性的な顔の魔人が一瞥する
その顔には微笑を携えている
その美しさは男性でも女性でも魅了してしまうだろう
「いいよ、使えそうだ」
「君に任せる」
「俺が?」
「あぁ、君なら大丈夫だろ?」
フフフとまた笑った
「わかった。おい、お前たちは客人としてここに迎える」
「だが俺の言うことには従ってもらうぞ」
「出なければこの話は破談だ。すぐに消えてもらう」
「いいだろう」
グリドと男は握手を交わす
「申し遅れた、俺はグリド。勇者の仲間を殺したい者だ」
「そうか、俺はルガルティン。獣魔王様に仕える八魔将の一人だ」
二人は軽く自己紹介をするとこれからの計画について話し合った
ひとまずはアナサという魔人が任についているのでそれのサポートを頼まれた
勇者と接触する機会が多いのでリゼラスたちの狙う者も出てくるだろうとのこと
ここに魔人とリゼラス、グリドによる同盟が出来上がった