5-19
まだまだ余裕そうなレドに幾度となく終局へ向かう未来を送り続けてたが、どういうわけか一向にレドが破滅することはなかった
それどころか攻撃を加えるごとにレドは生き生きとしてきているように見える
「一体どういうことなのです? 何故あなたは」
「僕が君より勝っているからだよ。 既に君の力は僕の運命に影響することはない。 君の力は僕の力となるのさ、エメ、愛しい妹よ」
「私のことを妹と呼ばないで下さい。 しかし厄介なものですね。 あなたは既にお父様とお母様の域に達しているということですか」
レドはうなずくとエメとの間合いを一気に詰めてその腹部に手を当てた
「今までの力は僕の中にたまっている。 それを君に解放したらどうなるかな?」
「まさかっ!」
エメの力は終局への導き。 それを幾度となく受け続けたレドはそのたまりにたまった力に自分の力を乗せてエメに放った
「永遠に、死に続けるといいよ」
自分が死に続けることになるのは一瞬で理解できていた
ただそれによって自分がレドを止めれないことが悔しかった
だからせめて最後に一矢報いたいとエメは自分の持てる全ての力を込めてレドの奥底、ルーナに向かって放った
「ごめんなさいルーナ、カタカムナ、ジンダイ、ルワイル。 ごめんな、さ…」
エメはどこからも隔離された世界へと飛ばされ、そこで永遠の死を繰り返すこととなる
その光景を見たジンダイたちは自分たちがどこかへ転移させられるのを感じた
「エメ様! エメ様!」
ルワイルとカタカムナが必死で結界を叩いて砕こうとするが、そんなもので砕けるような結界ではなく、無念の思いで三柱は別世界へと転移させられてしまった
「逃がしたか。まぁいい、あの程度ならいつでも消せるからね。 まさかエメをここで消せるとは思わなかった。 それだけが思わぬ収穫だったかな」
レドはご機嫌にその無の空間から転移を始めた
だが思うように転移できない。 体の中で何か不調が起きているようだ
「力が、安定しない? まさかあの時エメが」
エメが最後にはなったのはルーナの意識に語り掛ける力。 眠る彼女を呼び覚ますための力だった
「くっ、厄介なことをしてくれたな…。 目覚めてしまってるじゃないか」
今まで眠っていたルーナの意識がはっきりとし始める。 レドはその意識を内に感じ、危機感を覚えた
内部に意識を集中し、ルーナを再び奥底に沈めて眠らせようとするが彼女の意思はどんどん強くなっている
「ふ、意識は戻ったみたいだけど、この程度の力の阻害で、僕を止められると思わないことだね」
レドは無理やりにルーナの力を抑え込んで転移し始めた
やはりレドの力の方が大きく、ルーナは抑え込まれてしまったが、意識が消えることはなかった
レドに向かって再び叫び出したルーナを無視し、世界の破壊を続ける
ルーナではレドの力を抑えきれず、成すがままに世界が崩壊していく様をただ内部で見届けることしか出来ないが、それでもルーナは必死に力を抑え込んだ
「無駄だってば。 でもいつまでもやられるのは鬱陶しい。 早く意識が消えればいいのに。 もうあらかた侵食し終えてるはずなのに、何だこの意思の強さは…」
ルーナの意識は本当に、スプーン一杯にも満たないほど薄く、細く、弱弱しい。 そこまで侵食は進み、通常ならば叫ぶことなど絶対に出来るはずもない
それであるにもかかわらず、彼女は必死でレドを止めようとしているのだ
泣きながら、怒りながら、優しく、諭すようにレドを説得し続けている
だがレドは止まらない。 目につく世界をただ破壊し、消し去ってまた別の世界を同じように消す
そこにすでにレドの感情はなく、もはや目的を果たすための機械のようになっていた
「もう少し、もう少しで達成できるんだ。 多くの犠牲をここまで払ってきた。 作るんだ、理想郷を、永遠の安寧を」
多くの時間を経て、多くのことを経験し、数多の犠牲を払い、自分の心を壊し続けたレドには既に心が無くなっていた
そのために一部の隙が出来たのだろう。 ルーナはエメの最後の力によってそこに入り込んだ。 だからこそレドの浸食を抑えることができたのだった
「もう、終わりましょうレドさん。 寂しいなら、私が一緒に…」
「一緒に何だって言うんだい? 一人が寂しいと、そう思うのかい? この僕が寂しいと、本当にそう思うのかい?」
「あなたは孤独、本当は愛を求めているはずです」
「いいや、そんなことはないね。 だって僕はもう、心無き者だから」
ルーナの声は届かない
心が無くなったために出来た隙に潜り込めたルーナだったが、くしくも心が無いために声が届かないのだ
「でも私は、貴方に訴え続けます。 きっとあなたに心は戻るはずだから」
「そう思ってればいいさ、僕はただボクであったものの目的を果たすだけだよ」
ルーナとレドの問答は続く
暖簾に腕押すような問答だが、ルーナは熱心に語り掛け続けた
必ずレドの心が戻り、理性を取り戻すと信じ、そしてエメの願いを叶えるために