石野の異世界放浪記15-2
女性は優しく笑いながら顕現し、石野たちを一目見ると頷いて手招きした
「なんだかホッと安心するっすね。 まるでお母さんに呼ばれているみたいっす」
「アマテラス様とはまた違った母性を感じるっち。 は、母上…」
岸田とトコどころか、石野までもがその女性に母性を感じ、包み込まれるような感覚を覚えた
女性はゆっくりとこちらに近づいてくるが、何者かも分からない女性を警戒する必要がある
しかし全くと言っていいほど邪気や悪い者の気配は感じず、彼女はただ優しく見つめているだけだった
「あの、貴方は一体何者なのですか? それにここはどういう場所なのです?」
レコが皆が聞かんとしていたことを聞く
女性は再び頷くと口を開いた
しかし女性の言葉は何を言っているのか全く分からず、それどころかそれが言葉なのかも理解できなかった
まるで鳥のさえずりのように美しい音色のようだが、それを理解することができないのだ
「言語が、聞き取れない? なぜでしょう」
この大世界では言語が似通っているため、アマテラスから授かった翻訳の力でその全てを理解できるようになっている。 それにもかかわらず、彼女の言語を理解することができない。 それはすなわち彼女がこの大世界の住人ではないと言うことを示していた
彼女は異放者だったのだ
「言葉が分からないことにはどうしようもないっちね」
以前女性は嬉しそうに何かを話しているのだが、こちらはまったく聞き取れていないためどう反応していいのか分からない
すると女性は何かに気づいたかのように自分の喉をさえて目をつむり、恐らく呪文を唱えた
「あーあー、聞こえとるでしょか? 今あな達の言語のりょくに調整して話しかけておるのですが」
ところどころ言い回しがおかしな部分があるが、それでも聞き取れるようにはなった
「えっと、貴方がだれで、ここがどこなのかお聞きしたいんすけど」
言語が通じ合ったため、岸田が一番に話しかけた
「はい、まずわたくしはンインス。 こことは違う次元世界から来た者です。 種蒔く者、お母さまとととうさまから言い遣ってここにきたでのす」
少しずつ言語調整ができるようになってきたためかなり聞き取りやすくなった
彼女の話によると、全ての大世界に種を撒き、世界を作る存在がいるのだそうだ。 その娘が彼女であるらしい
そして彼女は弟であるレドが消し去った者たちの魂を保護し、全てが終息した後に復活させようとしていたらしい
この場所はそのレドでも認識することはできず、魂はンインスによって完全に保管されているので安全なのだそうだ
「わたくしの力はこのように魂の保全と復活。 それしかできませんの。 申し訳ないのですが、レドはあなた達この大世界の住人で止めていただくしかありません。 わたくしは戦う力をお持ちではありませんので。 でも安心してくださいな。 お母さまがこの大世界を守る大勇者を探し出してくださいました。 その大勇者にお会いなさいな。 大勇者ならレドを止められるかもしれません」
ンインスの説明により、その大勇者を見つければ勝ち目が見えてくるということが分かった
今ルーナを乗っ取っているレド、それは石野たちにとっても倒さなければならない相手だった
石野は娘であるルーナのため、岸田はその石野を助けるため、テンコは世界を守るため、アナサは敵を討つために、それぞれの意思を固めた
「でも気を付けてください。 わたくしが保護できた魂はレドが力を振るった世界の住人のみ。 もしわたくしが認知できなければ、魂を保護することは叶わず、確実な死が待っているでしょう」
「そんなの、怖くない! 私が怖いのはミナキのいない世界だもの。 あなたがミナキを甦らせてくれると約束してくれるなら、私は死なないしレドってやつも倒す!」
ミナキが蘇ると知ってすっかり元気になったアナサはそう宣言した
それは石野たちの正に言いたい事であった
「そうですか…。 ではまず第一に大勇者を見つけ出しなさいな。 きっと力になってくれるはずです」
この大世界の言語を完全にマスターしたンインスは心配そうに石野たちを見つめる。 彼女は石野たちを通して自分の妹であるこの世界を作り出したエメの姿を見ていた
一度だけ遠目から見たエメはまさしく自分と同じ存在なのだと感じた
世界を慈しむ心を持ち、レドのことを憂う
ンインスは彼らに望みを託し、見送った
石野たちが次に目指すのは大勇者。 その気配はンインスに教わったため辿ることができるだろう
そして石野はその大勇者が自分の知人であったというのを知ることになる