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石野の異世界放浪記14-5

 石野とその仲間たち、神獣たちの活躍によってこの世界を襲っていた異世界の魔物たちはあらかた討伐することができた

 だが救えなかった命も多い

 神獣の力で重体者程度であれば治療が可能ではあったが、その数はあまりにも多い。 神獣たちだけで対処するには無理がある

 だが冒険者やこの世界唯一の宗教が営む教会の聖職者たちがそこをカバーすることで、この未曾有の災害から多くの人々を救えたのも事実だ

 石野含め健一も岸田もテンコも、なにより神獣たちは英雄ともてはやされた

 健一は複雑な心境だった。 かつて自分の力で仲間を殺してしまった。 そんな自分がこのような扱いを受けていいのだろうか? 自分は英雄などという名誉を預かるに値するのだろうか?

 そんなことをつい考えてしまう

 それをレコはじっと見つめる


「健一さんと言いましたね。 何か悩みがありそうです。 わっちに言ってみるがいいです。 こう見えて神に仕える身。 何かお役に立てるかもしれないです」


 レコの優しい言葉に健一は全てを吐き出した

 自分は仲間殺し。 このような賞賛を受けていいような人間じゃない。 罪を償えてもいないのに、これでは死んだときに仲間たちに合わせる顔がないのだと

 レコはその全てを聞き入れ、微笑みながら健一の手を握った


「それなら聞いてみるといいのです」


「え? 聞くって…。 誰に」


「本人にですよ。 恐らくまだ輪廻の前、天界にいるはずです。 彼らの魂に呼びかけてみるのですよ」


 レコは手をパーンと叩き、お辞儀をする


「ゴニョゴニョ、かしこみかしこみ申し上げる…。 神獣奥義、天橋掛(あまのはしがけ)


 レコがもう一度手を叩いてお辞儀をすると、目の前に扉が現れた


「これは?」


「魂が輪廻を待つ天界に繋がる門です。 今わっちの力で健一さんに繋がる魂を持った人、そして最近亡くなった方たちを門の前に呼び寄せておきました。 話せる時間は10分ほどですが…。 どうします? 会わないという選択肢もありますよ?」


 健一は考える。 今この扉の向こうには愛したレイーナと、かつての仲間たちがいる

 だが扉を開けるのはためらわれた

 開口一番に浴びせられる言葉はののしり、自分に対する怒りの言葉かもしれないのだ

 それでも、健一は扉の前に立つ決意を固める


「開け、ますか?」


「うん、お願いするよ。 僕がやらなくちゃいけないのは、深い謝罪だから」


 健一は緊張しながらも、その扉を開ける

 彼らの人生を奪ってしまった。 そのことに対する第一声は謝罪の言葉と決めていた


「ごめん! みんな!」


 しっかりと頭を下げて、扉の向こうにいるレイーナと、仲間たちに謝った

 返事は、ない


「許すわけないじゃない」


 その声は、レイーナの声だった


(そうか、そうだよな。 僕は許されるべきじゃないんだ)


「あなた、本当に私達が恨んでるって思ってるの!?」


「え?」


 レイーナの次の言葉は意外なものだった


「そう思ってるなら許せないの! 私達は私達の役目を全うして死んだのよ? あなたの力で死んだなんてってない!」


「そうだよ。 僕ら、仲間…。 いや、仲間じゃしっくりこないな。 友達、いや、よく言えば家族」


 その言葉は仲間の一人、デニースという軽業師。 健一とは兄弟のような間柄だった男だ


「うむ、健一、私達は誰も健一を恨んでいないのである」


 そう言ったのはデニースの姉、魔導士のシェレナだ

 どの声も、健一の心にしみわたる


「ね、健一。 私達はあなたと冒険できて、一緒にいれて、楽しかったし、嬉しかったの。 あなたの仲間で、恋人になれて、本当に、嬉しかったの!」


 その言葉で、健一は自然と涙が流れた

 自分は許されないことをした。 恨まれていると思っていた

 それこそが間違いだと教えてくれた

 だから健一は答えた


「僕の方こそ、ありがとう。 今まで一緒にいてくれてありがとう。 僕と、仲間になってくれて、ありがとう」


 レイーナはそっと健一を抱きしめた


「健一。 いつか生まれ変わったら、私にもう一度会ってくれる?」


「ああ、もちろん、もちろんだよ!」


「じゃぁ全部許してあげる。 待っててね、健一!」


 レイーナ達が手を振る中、扉はゆっくりと閉じて光と共に消えた


「レコさん、ありがとうございます」


「いえいえ…。 輪廻は巡ります。 この世界にいつかレイーナさんの魂も戻ってくるはずですよ。 そして、きっとまた出会うはずです。 輪廻の絆は深いのです」


 転生とは輪廻の巡り。 肉体を変えて再誕する

 同じ世界の魂は再び同じ世界に巡るのだ

 しかし、それが地球にだけは当てはまらなかった

 地球の魂がなぜか他世界に流出し始めたのだ

 それは転生の神でも止めることはできず、大きな意思が働いていると思われる

 流失した魂は記憶を持ったまま他世界に転生し、力を持った者として新しい生を受けている

 魂自体は地球のものではあるが、すでにその世界に染まっているため、レコやトコでも感知することができない

 そう、力ある者たちはまだまだ多い。 彼らは自ら地球人であったと名乗ることもないため、彼らの協力を得るのは不可能かに見えた

 しかし、大きな意思はそのことも見越していたのか、その意思のもと、全ての世界が動き始めていた

 地球人の魂は、どういうわけか特別な力を有している

 大きな意思はそれに気づいたのだ

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