光りと従者3
景色のいい場所で一人と一柱が協力者を求めて歩いている
のんびりとしているように見えるが、感覚は研ぎ澄まされていた
常に警戒し道を進む
そこかしこでこちらを見る気配がして落ち着かない
この世界に到着してからずっと何者かに見られているのだ
「一体どこから見られてるんだろう。 同じ視線の筈なのに右からも左からも前からも後ろからも上からも下からも…。 気持ち悪いなぁなんか」
「うむ、しかしいなみに特定できないとなると、同格の神ではないのか?」
「確かにそうかも。 気持ち悪いけど邪悪そうな気配はしないし。 でも何で僕らを見てるのかな?」
「ねー、なんでだろうねー」
突然いなみの後ろで声がした
驚いて振り返ると小さな女の子が後ろに立っていた
少女の向けて来る視線はまさしく今しがたまで見られていた視線と同じものだった
「あの、迷子?」
「迷子じゃないよ!」
少女はいなみに突っ込む
歳のころは一桁だろうか、非常に幼い見た目をしているため、いなみが間違えるのも無理はないだろう
少女はいなみを見上げて両手を差し出した
「ん」
「え、なに?」
「抱っこして!」
「あ、うん」
抱きかかえるよう要求してくる少女に戸惑いつつも彼女を抱き上げる
「落ち着くわぁ」
少女はいなみの大きめの胸に顔をうずめるとその匂いを吸い込んだ
「ああ、やっぱり女神の香りは至高ね」
「あの、えっと、貴方は?」
「ああ、私は孤独を司る女神、ピピチニアよ」
「孤独を司る? それは一体どういった権能なのですか?」
ピピチニアはいなみの胸を一心不乱に揉みしだきながら答えた
対するいなみは引きはがそうとしているが、意外と力が強くて全く離れてくれない
「あの、ちょ、やめてください!」
「いいじゃない減るもんじゃないし、むしろ増えるよ?」
「そういうことを言ってるんではなく、んあっ」
「それはさておき、私の孤独の力ってのはその名の通り人を孤独にする力。 誰にも構われることなくただただ孤独に、一人にさせる力だよ」
説明しながらもずっといなみの胸を揉みしだく手を止めない
かなり繊細な手つきらしく、いなみは顔を真っ赤にして艶めかしい声を漏らしていた
「あの、ほんとに、もうやめ」
「で、その力を持った私も孤独ってわけだ。 全く、こんな力の女神になったのが運の尽きってわけなのよ」
「いや多分それだけが原因ではないと思いますが…」
神聖騎士であるリゼラスは神に仕える騎士であるため、こんな女神でも一応は敬意を払って話しかける
「まぁなんにせよ、私は寂しかったんだよ。 こんな世界にたった一人だからね。 人はおろか生物がいないこの世界で…。 寂しかったんだよクンカクンカ」
いなみの匂いをめいっぱい吸い込んでいる姿でなければもう少し同情を誘えたかもしれないが、どう見ても行動が変態のそれである
確かに彼女はその力ゆえに孤独となっているが、神々が彼女に会おうと思えば会える。 同じ神格を持つ者同士なら孤独の力は相殺されるからだ
「ふぅ、満足したよ。 ありがとう光の女神」
いなみの胸から顔を放すと最後に思いっきり胸をもんでからいなみの腕から飛び降りた
「ハァハァ、あの、ピピチニア様はここで、ずっと一人だったんですか?」
「様はいらないよ。 同じ女神どうしなんだからもっとフランクにいこうよ」
「は、はあ、だったらピピチニア、さん」
「まあそれでいいや。 確かに私はずっと一人だわね。 ここに来る神なんていないから。 私はただ世界に孤独をずっと振りまいてるだけだわね。 孤独って聞くと聞こえは悪いかもしれないけどさ、誰でも一人になりたいときってのはあるでしょう? 私はそういう人の手伝いをしてるってわけさ」
生まれてから今まで、彼女はこの世界から出たことがなかった
それで彼女は満足していたから
しかし今本当に久しぶりに別の神に会えたことが嬉しすぎたらしく、それがいなみという見目麗しい少女だったこともあって少し暴走してしまったようだ
だが、彼女の力は非常に強力なものだった
神の気配があればレドが気配を掴んでやって来ていただろう筈が、自分自身の力でこの世界自体が孤立してしまっている
その結果、レドに位置が掴まれなかったのだ
「さて、私があなたたちの前に姿を現したのは情報を伝えるためだよ。 これは今は亡き情報の神ケルネリスが私に残した情報だよ。 ここにあなた達が来るのを見越してたんだろうね」
ピピチニアはその情報を視覚情報に変換して映像を空中に浮かべた
「酷い戦いだ。 シンガ兄さんもレライア姉さんも、力ある神々はみんな死んだ。 のこったのは私みたいな力ない神と、上位の数十柱ほど…。」
その映像には数多の神々が何かに対峙している姿が映っていた
その何かを見ていなみとリゼラスは驚いた
その姿は自分たちのよく知っている少女の姿だったから
「ルーナちゃん!?」
映像はルーナが神々を一瞬で虐殺した姿で終わっていた
そこで情報の神ケルネリスの命もついえたからだ
「あなた達、救世界に行きなさい」
「救世界、ですか?」
「うん、そこには救いの女神がいるはずだよ。 彼女たちは独自の世界を作り上げてこの大世界から隔離された世界を持っているんだ。 お願いだよ。 敵を、取って」
孤独の女神だが、彼女は兄妹である神々のことが好きだった
この世界に来ることはなかったが、連絡は密に取り合っていたのだ
そこではいつでも神々のいる世界に戻ってきてほしいとの懇願が多かった
いつも一人でいるピピチニアを心配していたのだろう
だがそんな神々もほとんどが殺されてしまった
ピピチニアはそれが悔しくて仕方なかった。 自分の力がないことに腹立ちを覚えた
その思いをいなみ達に託したのだ