5-18
少女の姿をしたレドは目につく全てを破壊し、消滅させ、無に帰していった
彼の内心は悲しみに満ちている
より良い世界作りのためには犠牲が必要だと、住民を、星を、世界を全て消していく
最初は妹だった
彼女は無邪気な笑顔をいつもレドに向けてくれる子だった
だがレドはその子の命と力を奪った。 自分の目的のために
レドは一人涙した。 妹のことは兄として当然愛していたからだ
だがレドは止まらなかった。 愛する妹を殺し、止まることなどできないと考えたから
「レメ、お前の力は僕に指針を示してくれた。 感謝しているよ。 お前の魂と共に私は更なる高みへ、そして新たなる世界を創造するんだ」
その願いは長い長い年月を経ても風化することなくレドの目的としてずっと心にあるもの
それがレドの意識をずっと保っていたのだ
「ルーナ、君のおかげでここに来て僕の目的はどんどん達成されて行っている。 感謝するよ」
ルーナはその言葉を聞いているのか、レドの心の奥底で悲しみに震えている
自分の意思では何もできず、彼女はただレドの中で眠り続けた
「神も最早あと少し、古の支配者も闇も襲るるに足りない。 私はエメも超える力を持っているんだ。 敵なんていない」
それでもレドは一抹の不安がぬぐい切れない
何かを見落としている気がしてならないのだ
「まあいい、世界の半分がすでに消滅した。 あと半分、これだけ長い時間をかけたんだ。 今更焦りなんてない。 ゆっくりと、着実にやるんだ」
レドはニヤリと笑って今いる世界を消した
そんなレドの前に突如力の塊のような何かが現れた
それは集約すると四人の人型になる
「レド兄様…」
現れたのは原初であるエメ、それにカタカムナ、ジンダイそしてルワイルだった
原初は悲しげな顔を浮かべつつも、兄であるレドにしっかりと向き合う。 今はルーナの姿をしているが、まごうことなき自分の兄なのだと前世のレメの記憶が告げている
レメの魂はエメの中にあった
世界を壊し続ける兄レドを見てエメはここで止めなければならないと考えた
「兄様、いや、レド! あなたをここで排除し、ルーナの体を返してもらいます!」
「ずいぶんと自信ありげだね。 もはや君じゃ私には勝てないというのに」
「やってみなければわかりません!」
「エラもいない君に、何ができると? いつもエラに守ってもらっていた君が!」
強大な力はもっていたが、エメはレドの言っていたようにずっとエラに守られていた
エラが分裂してからもずっとだ
そしてレドの策謀によって封じられてからもずっと彼女自身は戦っていない
生まれてから一度も、まともに戦ったことなどないのだ
「分かっています。 でも私は、いつまでも守られ、戦いを恐れるだけの娘ではない。 レド、覚悟を!」
エメは後ろに着いた三人を結界で囲み、出られないようにした
「原初様! なにを!」
それは彼女たちを守るためだ。 自分たちの戦いに巻き込まれれば簡単に消滅するだろう。 それに、エメが負けたとき、三人を遠い場所に逃がすためでもあった
「これで邪魔は入りません。 さぁレド、エラ姉様の敵を取らせてもらいます!」
エメはのっけから本気で戦うつもりのようで、自分の力を余すことなく発揮した
「生体武器、イロ」
何万色にも輝く剣を作り出し、両手で構えるとレドに斬りかかる
「おっと、まさかの肉弾戦と跳ね」
斬撃を軽々躱す
だが躱したはずの斬撃はレドの腕に傷を負わせていた
「なんだこれは?」
再び斬りつけて来るエメの攻撃をかわすが、またしても傷を負った
確実にかわしたはずの攻撃がいつの間にか自分の体を傷つけていることにレドは驚いた
「どういう理屈だい? 僕はちゃんと避けているって言うのに…」
「教えるわけないでしょう? それよりも、後ろに集中した方がいいですよ?」
レドが振り向くとそこに今目の前にいたはずのエメがいた
「なに?!」
剣がレドの腹部をかすめるが、傷はついていない
そのはずだったのに腹部に激痛が走った
自分の腹を見ると深く切り裂かれていた
「くっ」
「そこです!」
エメがあらぬ方向に剣を振った
「一体どこを…。 ぐあっ!」
レドは頭が混乱した
あらぬ方向を切っていたはずのエメの前に自分がいたのだ
途端に今の自分の意識は切れ、エメの目前に自分がいると認識した
「な、何だこれは」
「私の生体武器イロは、何万通りもの未来を切り裂きます。 レド、数ある未来にはあなたが負ける未来もあるのです」
エメはレドに向かって剣を振り下ろし、レドがそれを交わし、気づくと切り裂かれていると言った行動を繰り返す
レドは解決の糸口を掴めず、ただイタズラに傷を増やしていった
「もうあきらめなさいレド! 未来は終局へと向かっています! あなたはもう消滅する未来にしか向かえないのです!」
だがレドはそれでもにやけた顔を崩さない
エメはその顔に恐怖を感じてしまった