石野の異世界放浪記14-4
蟲毒の力はすさまじく、たった数秒で街の周りにいる魔物を一掃してしまった
それだけの力を使いながらも健一はまだまだ余力を残しているようで、すぐに次の街へと走り始めた
「この先に小さな町があるんです! 恐らくそこも襲われているはずです。 外壁がないから急がないと!」
隣町までは約4キロほどと近い、しかし魔物はその間も襲撃を続けている可能性がある
その町にも町を守るための兵や冒険者はいるのだが、何分小さな町であるため持ちこたえれる可能性は低い
健一の案内で隣町に走る。 身体能力が通常の人間よりはるかに高い彼らならば数分で駆け付けることが可能だった
「見えてきました。 ルセナと言う町です。 僕が、最初の拠点にしていた町、顔見知りも多いんです」
町に着くとやはり魔物が襲撃を始めていた
幸いにもまだ魔物たちは到着したばかりのようで、すぐに兵や冒険者が迎え撃っていたおかげで犠牲者は出ていないようだった
「加勢するぞ!」
魔物の数はあまりにも多く、やはり押され始めている
健一は犠牲者の出る前に魔物とそれらと戦う人々の間に入り込んで蟲毒を発動させた
見る見るうちに魔物が倒れていく。 戦っていた人々はその光景に唖然としていた
「け、健一か!?」
冒険者の一人が健一を見て声をあげる
「ごめん、でももう大丈夫、僕はまたみんなのために戦う」
その男はどうやら健一の知り合いだったようだ
「そうか、レイーナ達のことはお前の責任じゃない。 運の悪い事故だったんだ。 みんなそう思っている。 なんにせよ帰って来てくれてよかった」
男は健一の肩に手を置いて慰めの言葉を送る
彼も健一のことを心配していた一人だった
戦うことをやめる前、健一はたくさんの人々を救っていた。 そのため彼を慕う人々は数多い
皆健一の不幸を悲しんでいたのだ
「まだまだ世界各地に魔物が溢れてきています。 僕はそいつらから人々を守りに行きます!」
町の住民は健一に感謝し、見送る
そこにリュコだけが戻って来た
「石野! 我の背に乗れ! どこだろうと運んでやるぞ!」
どうやらレコに言われて石野たちを移動させるために戻ってきたようだ
リュコの速さならばこの世界のどこだろうと数分で着くことができる
全員リュコの背に乗ると次の街へ飛んだ
現在レコを含めた神獣たちは散開して魔物に襲われる街や国を助けて回っている
アマテラスの元で修業を終えたレコたちはまさしく神の如き強さを手に入れていた
神獣の枠を超えた本当の神の領域。 その力はどんな魔物でも討ち果たすような強さを持っていた
とある国のとある街、白銀狐のレコは大量の蛇のような魔物と対峙していた
どれもが猛毒の牙を持ち、吸っただけで死に至る毒を吐いている
だがレコはその毒をものともせず蛇を次々にその爪で消滅させていた
彼女の後ろには戦えない一般市民が大勢いる。 彼らを守るために一匹も漏らさないよう爪を振るう姿は女神のようだった
「一掃します! 天幻連狐、波轟!」
手から波動のようなものを出し、蛇の魔物を一掃。 レコは後ろでおびえる人々を救ったのだ
魔刑部のポコは可愛らしいお腹を出して叩く。 その音は鼓のように美しく響き渡り、魔物によって傷を負った人々を回復させる
「腹太鼓、癒ですの。 わしの腹太鼓は今までと一味違うですの」
人々が癒されたのを見るとすぐに迫ってくる魔物に向き直った
「腹太鼓、壊ですの!」
今度は雷のような轟音が鳴り響き、目前まで迫っていた魔物が全て弾け飛んだ
「ここはもう安全ですの」
大犬神のワコは人型から犬型になっていた
戦場を駆け回り、その牙で魔物を打ち倒していく
神々しく輝く様を人々は神の使いだと声援をあげた
「グルルルル! 隠業炎だわん!」
口から黒い炎を吐くと、魔物に燃え移る。 その炎を相手を殺すまで消えない炎
やがて全ての魔物が消し炭になった
九重猫又のニャコはまるで優雅な踊りでも踊るかのように魔物たちの間を舞っていた
魔物たちは煙を相手にしているかのように感じただろう
魔物の攻撃を華麗にかわし、カウンターを浴びせていく
「九重尾撃にゃ!」
自身の九つの尾を自在に操り、一撃一撃が必殺の攻撃となって魔物に襲いかかった
魔物の進行から助かった人々はニャコに感謝した
狒々王のエコは冷静に魔物の分析をする
「ふむ、どれもこれもミーの敵ではないのである」
宣言通り、魔物はエコの捉えどころのない動きに攻めあぐねている
「如意輪絶技、臨斬」
頭にはめていた輪を手に持つと、それはチャクラムに変化した
それをくるくるとまわし、どんどん大きくしていく
あっという間に巨大になった如意輪を飛ばすと魔物のみを切り裂きながら飛んで行き、手元に戻る頃には元の大きさに戻っていた
「任務完了である」
八咫烏のヤコは羽ばたきながら戦場を優雅に眺める
魔物は対峙ているとある国の兵たちに向かって走っていた
「これならぶつかる前に何とかできそうですわ」
兵たちと魔物の間にある平原のど真ん中に降り立つと兵たちに告げた
「もう少し下がっていなさいな。 わたくしの攻撃は広範囲ですの」
大量の魔物におびえていた兵たちはひとまず目の前に降り立った神の力を感じさせる少女の言うことを聞くことにした
「いい子たちですわ。 では行きますわよ。 夜行三世、闇墜とし!」
ヤコは空に真っ黒なブラックホールを出現させ、魔物を一気に吸い込んだ
「あっけないものですわね」
ヤコの前にはもはや魔物はいない。 ただ大平原が広がるのみだった
幻蛟のミコはチロチロと舌を出し入れしながらスルスルと木々の間を滑りぬける
そこにいたエルフたちは彼女の助けを天の助けとしてその行動の妨げにならないよう里内に戻っていく
「いい感じにおとりに成れたでしゅね。 そろそろわたしゅの力を解放してもよさそうでしゅ」
ミコはエルフたちがいなくなったのを確認して魔物たちに目を向けた
その目は先ほどのような可愛らしい目ではなく、狩る者の目だった
「行くでしゅよ! 環形蛇毒!」
口から大量の毒霧を吐き出し、辺り一帯を覆った
その毒に少しでも触れた魔物は苦しみのたうち回ってから死に至った
それから数分後、毒霧は晴れ、森には魔物の死体のみが転がる
麒麟のリコは獣型となってドワーフのいる山の上を飛んでいた
上空から目についた魔物を片っ端から雷で打ち滅ぼしていく
「結構いるでござるな。 ドワーフは洞窟に隠れ切ったようだし、拙も本気を出すとしようぞ」
リコは人型に戻り、額当てを取る
それを取った額から一本角が長くのび、電撃をピリピリと帯びていた
「万撃雷雷!」
額の角に集まった雷を一気に放出
幾万もの雷が落ち、魔物を全て撃ち抜いた
月兎のトコは石野のいない中一人で不安になっていた
しかし勇気を奮いたてる
もう昔のビクビクしていた自分ではないと
「石野に褒めてもらうんだっち!」
凶暴な魔物たちを前にひるむことなくトコは眼の力を解放した
「狂気の目、怨滅!」
真っ赤に光る眼を使って魔物を見ると、魔物の動きが止まった
「相手が悪かったっちね」
魔物は動かない
全ての魔物がトコの眼によって一瞬のうちに絶命していたのだった
神獣たち強いんです