5-16
父様、母様、今日という日をどれだけ待ちわびたことか
どうやら世界の3割がたをこの娘が消してくれている。 記憶が混濁したのが幸いしたようだ
僕の目的達成まであと少し。 この大世界で成功したならば、僕は全てを父様と母様に変わって管理できるという証になるんだ
さて、まだまだ消えてない世界は多い、この子の力は本当に素晴らしい
僕の力も相まって何でもできるな
どんな世界だろうとほんの少し力を行使するだけで簡単に消える
破壊の後の再生のために全てを消さなくては
「なんだお前は、神、ではないようだが、その力、一体どういう」
お前こそ誰だ。 鬱陶しい
「消えろ」
目の前に来ていた男を世界ごと消滅させる
今の男、おそらく神だったんだろうけど、どうでもいいや
「待つの! ようやく見つけたの!」
ん? この少女は…。 どこかで出会ったか? 知っているぞこの気配
「キキリリ達はお前をずっと探してたの! みんな! 取り囲むの!」
どこからともなく同じような顔をした少女たちが現れ僕を包囲した
途轍もない力を感じるが、それは神々と比べてだ。 僕の足元にも及ばない
「“壊眼KKLL”」
一番初めに僕に声をかけた少女、キキリリというこの少女が目を真っ赤に染めて僕を睨んだ
「なにそれ、ん? 少しピリピリするね」
「そんな、キキリリの壊眼が効いてないなんて」
「もういいよ、消すね」
指を彼女に向けると、彼女はその場から消えるようにこれを回避した
これの危険性を一瞬で理解するなんてやるじゃないか。 指を向けた瞬間に力を行使したんだけどね
「キキリリ、こやつは危険すぎる。 早々に倒してしまうのが吉だとシシララは考えるのだが?」
「ココエエもそう思うっさ」
「そうですの。 全員、今こそご主人様に授かった力を示すときですの!」
少女たちは何かするつもりらしい。 それぞれ膨大だった力がさらに高まっていくのを感じる
「久しぶりですね。 一つになるのは」
「ザザビビたちの意識は消えるじゃ。 キキリリ、後は任せるじゃ」
「タタムムたちの思い、主意識であるキキリリに託すんだじぇ!」
なるほど、一つに…
段々とキキリリと呼ばれる少女に他の少女が重なって消えていく
視界いっぱいに光が溢れ、その光の中から少し成長した少女が出て来る
驚いたな、あのレメに迫るほどに強い力を感じる
「ようやくあなたの正体が分かりました。 兄様」
「フフ、やっぱりか、父様と母様があの後産んだ僕の妹なんだね」
「名はエラ、ご主人様、エメを守る者です」
エメ、恐らく原初のことだろう。 あの子からは妹のレメと同じ気配を感じた
レメが生まれ変わった姿があのエメなんだろう
「それで? 僕をどうするつもりかな? 愛しい妹」
「あなた、いえ、お前など最早兄ではない。 今ここでお前を消し、その子を解放させてもらいます!」
確かに、同じ種蒔く者から生まれた彼女なら、僕の命に届くだろう
だがそれは僕よりも力が強い場合だ
たとえ力を取り戻そうとも、僕とエラでは明らかな差があった
彼女もそれは分かっているだろう
「カイミ!」
突如エラは手に剣を出現させて斬りつけた
「おっと」
危なかった、何だあの剣は。 触れていれば僕でも命を少し削り取られていた
「ミキョウ!」
今度は幾万もの拳が僕に打ち込まれ、そのうちの一撃を左手に喰らってしまった
「なん、だ、これ」
僕の左手が急に僕の首を絞める
ハハハ、殺す気満々じゃないか
すぐに右手で左手を引きちぎり、再生させるとハイ元通り
「その体はお前のものじゃありません。 傷つけないで下さい」
「手厳しいね。 でもほら、君だって無事じゃない」
今撃ち込んだ拳がズタズタになっている
僕は避けながら彼女の拳にダメージを与えていた
「ぐっ、いつの間に」
「言ったでしょう? 僕には勝てないよ、可愛い妹、おとなしく引いてくれるなら苦しまずに消滅させてあげるよ」
「初めて会う兄は冗談が好きなようですね。 いや、兄ではないからどうでもいいですがね」
「ムゼツ!」
今度は盾が現れ、そこから出る光を拳にかざすと、使い物にならなくなっていた手が綺麗に回復した
「すごいね、君の能力は」
「ええ、これは私だけの力ですが、エメに与えられた力はここからです」
「へぇ、見せてみなよ。 何が来ようが僕には届かない」
「終銃ER」
銃? そんなものが今さら僕に効くはずもないだろうに
まぁ最後くらい撃たせてあげようかな
「これは私の生体武器です。 そしてこれに込めるのは」
エラの手には光る弾が握られていて、それをリボルバーに込めている
「フィーニスウィア」
トリガーを引き、その弾が…。 見えない!?
突如僕の体の中で何かが弾ける感触がし、心が引き裂かれるような強烈な不快感と痛みが襲ってきた
意識が、飛びそうだ
「終わりの軌跡を与える力です。 あなたはこれからただ終局へと向かうだけです。 逆らっても無駄ですよ」
何を言っているんだ! 僕は終わらないんだ! まだまだ!
「ぐぅ、ぐっがぁ! ああああああああああああああああああああ!!」
痛い、痛い、痛い、痛い
だが、耐えれない痛みじゃないぞ
僕は段々とその痛みに慣れ、体に入り込んだ力の分解を始めた
「まさか、この力に抵抗を!?」
「い、以前の僕なら、壊されてた、だろうね。 でも、今の僕は、この子の力を手に入れたんだ。 もはや敵なんていないんだよ」
驚くエラの目前まで迫る
「しまっ」
手で彼女に触れ、優しく消した
僕の妹、エラ。 違った形で会っていたなら。 僕は君に最大限の愛を与えれていたのかもしれない
僕はもう引けないんだ
それが、僕が力を奪って殺してしまったレメに対する敬意でもあるから