種蒔く者の思い
時間という概念のない世界の始まる無の空間
ここには有というものがなく、完全なる無
ただ無いのです
そこに私達が来たのは無から有にするため
ただこの始まりの種を撒くために私達は存在する
それはすなわち世界の始まり
片割れの彼女は兄妹であり夫婦でもある僕の大切な存在
どちらか片方ではなく二人で一つの種を撒くモノだ
さぁ種を撒こう、世界を始めるんだ
ええ種を撒きましょう、最初はどんな世界かしら
私達の可愛い子、貴方がきっとより良く世界を導けますよう、私達はいつも願います
僕らの可愛い子、君が全てに慈しみと愛を与えられるように、僕らはいつも考えよう
私達の手の中には二人の赤子
男として作ったのはレド
僕らの手の中には二人の赤子
女として作ったのはレメ
彼らをこの場に置いて、まずはレドから成長を
彼にはレメが母となれるように、兄として彼女を見守ってもらおう
そして、その後は私達と共に…
ほどなくして成長したレドは素直で優しい子に育った
私達の愛しい子、妹の面倒をよく見てくれている
「母様、僕はきっとレメを立派に育てて見せますよ」
なんと素晴らしいことか、僕らの子は日に日に力を増している
レド、お前は僕らの誇りで、最高の子だよ
それからさらに時は経つ
レドはすくすくと成長し、もう私達と変わらない見た目になっている
凛々しく、聡明で優しい
素晴らしい子、本当に何て愛おしいのでしょう
僕らはこれまでたった二人で種を撒き続けた
子供の数は多く、作り上げた世界は数えきれない
子供達の中には世界を作ることに失敗し、消えてしまった子らもいる
その子らの名前はすべて覚えている
愛しい子供達だ、忘れるはずがない
そんな全ての子供の中でもレドは最も優れていると言っていいだろう
彼なら、私達の後継として…
また年月は流れた
時間のないこの空間だが、子供達は成長する
そのはずなのにレメは一向に成長せず、いまだに赤子の姿のまま
対してレドの力は増すばかりだった
そして事は起きてしまった
今思えば起こるべくして起きたのだろう。 私たちがもっと注意深く見ていれば…
「父様、母様、僕はもう十分に力を手に入れました。 よってこれからは僕が、全ての世界を管理して差し上げますよ」
なんということか、レドは、私達の子が…
何故この子の考えに気づけなかったのだろうか
私達はおろかだ。 そして、レドも、何てバカな子なのでしょう
「それではまたどこかでいずれ会うこともあるでしょう」
可哀そうに、レメ、僕らが気づかなかったばかりに、レドに力を吸いつくされ力尽きている
僕らのせいだ
こんな僕らでも、感情はある。 あるんだ…
レメ、君のためにここを墓標にしよう。 ここは君が眠る世界として
その時私達の手の中のレメが光り始めた
ああなんてこと、この子はまだ頑張っていたのね
死してなお、私達を悲しませまいと
レメの亡骸は崩れ去り、その中から小さな小さな女の赤ん坊が生まれた
大きさは親指ほどだが、力強く泣いている
そうだ、この子はエメと名付けよう。 レメの意思をつぐ子エメ
お前はきっと、よい世界を作ることだろう
私達は一人の守護者を生み出してエメに預けた
守護者の名はエラ
エメを守る者
エラにはエメを愛し、守りたいという思いしか与えていない
「必ずやご主人様を、守り通すと誓います。 この命に代えても」
エラ、私の子でありながらエメの守護のみを任せる私達を許してほしい
せめて、最後に、お前を
二人でしっかりと抱きしめる
お前のこともちゃんと愛しているんだと伝えたい
エラには伝わっただろうか?
もうすぐ僕らはここにいられなくなる
時間だ
それにレドを追わなければ
「お任せください!」
エラのしっかりとした答えを聞き、私達は陽炎のように消えた
レドを追って、エラとエメのことを思って
エラなら必ずエメのことを守ってくれるはず
エメならきっと世界をうまく回してくれるはず
ごめんなさい、ごめんなさい
そう心で謝りながら、娘たちに別れを告げた。 もう会うことはないから…
エラは笑顔で見送ってくれたけど、生まれたばかり、きっともっと愛を注いでほしかったはず
僕らがこんなモノだったばかりに、本当にすまない
エラ、エメ…
片割れと共に僕らは行こう
この悲しみはずっと心に留めておこう




