5-13
私は誰だろう
真っ暗で何も見えないし何も聞こえない
手足の感覚もない
何もわからない
それよりも、もう、眠りたい
何も考えずに、深く深く
意識が消えていく
ゆっくりと溶け込んで、私は私じゃなくなっていくのを感じる
「ようやくだ。 やっと僕の願いが叶う。 この大世界ができてから128億5万9217年と23カ月と18日、父さんも母さんも手出しできない。 この体ならば大改変ができる。 長かったぞ、ここまでの道のりは…。 僕は僕の手で世界を作って見せる」
誰かが何かを語っている
うるさくて眠れない
私はもう、眠いのに、この声は頭に響いて気持ちが悪い
誰なの?
「なんだ、まだ意識があるのか。 でももうかなり消えかかってるね。 僕の中に溶け込んで消えるのも時間の問題か」
溶けて消える?
何を言ってるのか分からない
私は、なんなの? あなたは誰?
今になって怖くなってきた
消えたくない
自分が誰かもわからないけど
私は
私という存在を消したくない
「消えたく、ない!」
そう思った途端に意識がはっきりした
私は私という人格を取り戻し、自分の世界を塗り固めて行った
「なに!? 僕の領域が侵食されていく!」
私の体を返して!
彼の心を私は食いつぶしていく
この男の、深い深い悪しき部分までをも私は取り込んでいった
「僕が、喰われるなど、あっていいわけがない! このまま黙って喰われるわけには、行かないんだよ!」
彼も必死で抵抗しているけど、この体はもともと私のもの
返してもらうわよ!
「う、ぐ、まさかこの僕が、たかだか一世界の神なんかに…。 だが、喰い込めたぞ。 まだ僕は、終わら、ない」
彼の気配が消えた
私は目を開くと真っ暗な場所にいることが分かった
風の吹くような音が聞こえる
手足の感覚は、戻ってるみたい
「ここは、どこ? 私は何? 何をしてたんだっけ? 何を? どこかへ? 分からない、怖い、誰か教えて。 大切な人がいたはずなのに、それすらも思い出せない。 そうだ、やることは思い出した。 全部壊さなきゃ。 壊して作り直して、そしたら大切な人もきっと私を見つけてくれる」
私は自分自身のこともわからないままにこの暗闇から飛び出した
開けた視界に溢れ出る光、眩しさに目をつむったけどもう一度目を開いた
ああ、なんてきれいな世界なんだろう
愛しくなっちゃう
でも壊さなきゃ
記憶の片隅にあるあの子に見つけてもらうために
「絶対的な破壊を。 盲目的な愛溢れる世界を」
光あふれる世界を壊すために私は今いる世界を消し飛ばした
サニーは仲間と共に石野がいると思われる世界を訪れていた
ここは精霊と妖精のみが生活し、争いのない正にユートピア
サニーがここに到着したとたんに周りを精霊達に囲まれた
「この力、間違いなく女神様! みなさん、女神さまが降臨されました!」
精霊たちは大喜びでサニーとエイシャを取り囲む
目を丸くする二柱を尻目に精霊達は口々に女神である二人を称える言葉を述べていく
「ちょっとちょっとちょっと待つぜな。 俺様達は遊びに来たわけじゃないぜな」
「あら、何ですか貴方は。 女神様の従者かしら? 従者なら従者らしくおとなしくしていなさいな」
植物の精霊らしき女性がパリケルを威嚇するように睨む
「精霊たちよ、その者はわたちの友人である。 無下にすることはゆるちゃぬぞ」
エイシャはたどたどしい言葉でそう注意した
「も、申し訳ありません! 何の力も感じないのでてっきり従者かと…」
「はあ、全く、彼女の力も感じれないなんて、精霊って出来が悪いのね。 あんたたち、パリケルは私達よりもヤバいやつよ? 不敬何て働いたら、消されちゃうかも」
エイシャの言葉に便乗するかのようにサニーは精霊達を脅した
「大変失礼いたしました! どうか、ご容赦くださいませ」
精霊は一斉に膝ま付いてパリケルに頭を下げた
「サニー、からかうんじゃないぜな。 すっかりおびえちゃったじゃないか」
それからパリケルが事情を説明し、石野たちの行方を聞いた
「その方たちなら先ほど、別世界へと向かわれました」
「一足遅かったみたいね。 パリケル、お義父さんの追跡、出来る?」
「うむ、アカシックレコードに接続して最短ルートで行くぜな」
パリケルは目を閉じると自身のアカシックレコードとしての力を発動させ、石野の行き先を辿ることに成功した
「よし、捕捉っと。 精霊達、騒がせて悪かったぜな」
「い、いえ! 滅相もございません!」
どうやら今のアカシックレコード発動によって、パリケルの力の一端を感じ取ったらしい精霊達は、パリケルという得体のしれない者にさらに恐怖してしまったようだ
「ほらみろ、全く、サニーのせいで勘違いされちゃったぜな」
精霊達に自分は怖くないと話して聞かせたが、一度染みついてしまった印象は帰ることができず、パリケルはゲートをくぐるその時まで怖がられていた