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石野の異世界放浪記12-6

 今から16年前のこと、神社の賽銭箱の傍らに美しい箱が置かれていた

 まるで神に捧げるかのような神々しい光を放つ箱

 最初に発見したのは神主の神山一(かみやまはじめ)という20代の男だった

 父親が死んでからはこの神社を管理し、神主としての役目を全うしていた男だ


「何だこの箱は、奉納品か?」


 ひとまずその箱を持ち帰り、開けてみることにした

 だがその箱に蓋は無く、鍵もカラクリも仕掛けもない

 どこから開けるかもわからなかったのだが、突如箱は変形し、ゆりかごのような形になった

 その中では可愛らしい赤ん坊がスヤスヤとねむっている


「なんと、捨て子か? しかしなぜ神社などに」


 その後一は赤ん坊について色々調べたが、両親は見つからず、あれよと言ううちにその赤ん坊は一の娘となった

 名前を神山テンコと名付けられた

 テンコとは天狐、この神社の守り神、稲荷大明神にちなんでお使いの天狐からとったのだ

 この子は神が自分に遣わした愛する娘なのだと一は思った


 それからテンコはすくすくと成長し、17歳を迎えた夏の日、無差別転移事件によって父のもとから消えた


「来た時も突然、いなくなるのも突然。 だがどうか神様、私から愛する娘を、奪わないで下さい」


 一はすっかりふさぎ込んでいた


 ところ変わって現在のテンコ

 彼女は自分の胸を不思議そうに見ていた


「痛かったですよホントに。 絶対死んだと思いましたもん」


「いやそんなあっさり言われても…。 本当に大丈夫なんすか?」


 岸田は胸元の大きく破れた服を見る

 その玉のような肌には傷一つ残っていない


「ちょっと! どこ見てるんですか!」


 岸田は慌てて目をそらした

 

「まぁ岸田さんなら別にいいですけどね」


「これでわかったっち。 やっぱりテンコも異邦者だっち。 別の大世界から来た者だっちよ」


 トコはテンコに異邦者について説明する


「そう、だったんですね。 私は、お父さんの子じゃ、なかったんだ」


 少し落ち込んだが、彼女は父親の愛を一身に浴びて育っている

 彼が自分を本当の娘として愛してくれていたのはしっかりとテンコに伝わっていた


「まぁ私がどっから来たかなんてどうでもいいわね。 それにしてもなんでだろう? 私の力、強くなってない?」


「たぶんそれは“死強”という力だっち。 異放者の中でも特に強い力を持つ者はそういう力を持っているって聞いたっち」


 トコはかつての同胞が奪われた時、その耳で聞いたすべてのことを記憶していた

 そのためほんの少し小耳にはさんだ程度の噂も覚えていたのだった


「死強?」


「死んで復活するとさらに強い力を得るみたいだっち。 テンコの力は確かに強くなってるから間違いないと思うっち」


 デルドラのことも片付き、アノールトは無事故郷のオーストリアに帰れることになった

 当然彼と召喚の絆も芽生え、石野は彼を呼べるようになった


「いつでも呼んでよ。 僕が駆け付けて助けるからさ」


 こうしてアノールトは帰って行った

 彼を見送り、リュコはゲートを閉じる


「しかし危なかったですね。 まさか魔物がこの世界に紛れ込んでくるとは思いませんでした」


 いつの間にか雷鳴の精霊エフィルダが立っていた


「うわ! びっくりしたっす。 あれ? そっちの人達は誰っすか?」


 エフィルダの後ろには恥ずかしそうに顔を赤らめる幾柱かの精霊が立っていた

 それぞれ名前を風の精霊ミランダ、土の精霊ディアナ、水の精霊フィオ、生命の精霊ニアという

 四柱はペリシモにここまで運んでもらったらしい


「岸田様、どうか我々の口づけをお受け取り下さい」


 突然岸田の前に四柱は並び、それぞれが岸田の各身体部位に口づけをしていった


「なななな何なんすかこれ! ちょっと怖いんですけど」


「大丈夫です、力を抜いてください。 ()()は一瞬です」


 岸田は口づけされながらその言葉に目を見開いて驚く


「変化って何すか! やめてくださいっす!」


 岸田の体が不思議な淡い光に包み込まれた

 

「無事変化が済んだようですね」


 光が消え、岸田は自分の体が変わっていく感覚にもがいている


「おい! お前たち、岸田に一体何を!」


「あら、悪いことはしてないですよ。 ただ、私達と同じになってもらいました」


 岸田は胸を押さえて苦しんでいる


「う、ぐがあ!! 体が、熱い、痛い、がぁあああ!!」


 岸田を抑えていた精霊達を突き飛ばし、石野は彼女を引き起こした


「大丈夫か!?」


「う、あ、ああ、も、もう大丈夫っす。 なんだか体が軽い、それに力が溢れてくる感じっすね」


 岸田は起きあがると精霊達を見回した


「ようこそ、精霊の世界へ」


 エフィルダは岸田に抱き着いた


「精霊の世界? 確かにここはそうっすけど」


「そう言う意味ではないですよ。 あなたは私達と同じ精霊に変化したのです」


 岸田は自分の体を見回し、肉体という器から解放されて完全な精神生命体となったことを理解した


「ありがとうっす! すっごく調子がいいっすよ!」


「半精神生命体でしたからね。 これであなたは本来の姿、力を得ました」


 岸田は大いに喜ぶ。 これでさらに石野の役に立てる

 彼女の中にある石野への恋心は段々と燃え上がっていく


 岸田は精霊達に力をもらい

 彼女たちに礼を言いながらリュコのゲートをくぐった

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